第65話 生きていた姪を回想からのいざ出発の時
「姪のアイリスが、生きていてくれたとは……」
視察団出発初日、朝からそう呟いた私は王宮騎士団員のダンバムだ、
ドラゴン乗り場で待つ間に思い出す、先日、改めてやってきた黒猫獣人、
伝説のホーリードラゴンに乗って来た時は魔物学者が腰を抜かしたという。
(それでもエンシェントドラゴンに比べたら、まだマシだというが)
そう、事の始まりは十日ほど前、
王都に約600年ぶりにやってきたと言われている、
幻の古龍……それに乗った六人の黒猫獣人によって、信じられない話を聞かされた。
(やはり姪は、陥れられていた……!!)
好奇心旺盛な子ではあった、
だが12歳にして持ち出し禁止の『古代遺物の資料』を盗み出すなど、
いくらアップヒル侯爵家が言った所で信じられなかった、ようは冤罪の可能性が高い。
(しかし、あまりにも上手く立ち回られてしまった)
一応、姪にも王位継承権はある、
20番目に近い位であるが、それでも派閥争い、
貴族間の争い、継承権争いに巻き込まれてしまった。
(単なる兵士である私には、何もしてやれなかった……)
もうそのあたりは生半可な血筋、
公爵家の出身とか関係は無いし、
もっと上位の継承権を持っていた者もすでに何人も消されていた。
「それが……あぁ、アイリスに早く会いたい……!!」
私は先日の黒猫獣人が持って来たチラシを見る、
そこには『ハルクパークついに人間のお客様受け入れ開始!』とある、
とんでもなく高い塔、見た事も無い城、そしてエンシェントドラゴンの絵……
(これが本当ならば、古代遺物が蘇ったということか)
王都にも記録だけは残っている、
しかしある日突然、砂になって消えたという、
クルマ、エアコン、デンシレンジ、ハングオン、スキードームザウス……。
「ダンバム殿」
「おお、王宮魔術師のデュアル殿!」
「先日の黒猫獣人に言われた通り、孫娘のターニャを」
お子様も連れて来て下さい、と言っていた、
勇気が必要だがアイリスが無事であるならば……
いや、念のため、この子も私が護らなくてはいけない。
「あの、こわくないですか」
「大丈夫、この私が護ってみせよう」
「おい、あれを見ろ!」「ダークネスドラゴンだ!!」
漆黒の竜、
人間など一息で殺せるという……
しかし目立つ白い首輪で、危険が無いであろうことはわかる。
(上には例の猫獣人だ)
ドラゴンが降り切る前に飛び降りて着地した、
あの高さを……いかに機敏性に高い猫獣人とはいえ、
普通なら足が折れているはずだが、普通にすたすたと歩いてきた。
「おはようございます、ハルクパークまで先導させていただきますガイドベラです、
本日は人間のお客様、成人男性7名、成人女性3名、お子様が男の子2名に女の子1名ですね、
それでハルクパークでの通貨は魔石です、御用意いただけましたでしょうか?」「あ、ああ、100個で良いか」
こうしておのおのがドラゴンに乗る、
が、何頭かはダークネスドラゴンに臆して伏せたままだ、
ガクガク震えているのも……結局、距離を十分に取ることでついて行った。
(本当に、アイリスに会える……のか?!)
もちろん罠の可能性もある、
万が一の場合、帰って来られない覚悟、
それは女性も子供達も同じだ、そう、アイリスについていったフィーナのように。
(生涯、恋などせぬ、アイリスにだけ尽くすと言っておった)
一緒に死地へ向かったと聞いた時は、
アイリスだけでも生きて戻す覚悟だと悟った、
しかし、当然ながら二人とも帰っては来なかった……
「アイリス、待っておれ、名誉が回復された事を、この私が伝えよう」
それにしてもダークネスドラゴンは速い、
本来は人間とは交わる事の無い山奥に住んでいる、
姿を見た人間で生きて帰った者は、数えるほどしか居ないと聞いた存在だ。
(それを乗りこなす黒猫獣人、いったい何者なんだ……)
普通の猫獣人では無い、
何かおかしな感じがしたのだが、
上手く例えられない、なんというか、人を超えた『何か』だ。
(よく見ようにも、ダークネスドラゴンは遥か先だ)
一応、我々が乗っているのが先頭なのだが。
そうこうして空を飛びに飛びに飛び続けつつ、
たまに休憩で降りると危険な池のほとりでもダークネスドラゴンのおかげで魔物は寄ってこない。
「みなさんサービスです、おにぎりをどうぞ」
「すまない、これは」「ここをこう引いてこう包んで……ゴミはこちらへ」
「これは……美味い!!」「お茶をどうぞ、ジャスミン茶もありますよ、あとコーラも」
こうして日が高くなった頃、
ドラゴンの背から眼下に見えたのは、
見るも無残な、廃墟となった城塞都市であった。
「あれが……故・ウィリパテル辺境伯家か」
そして、そこから追放された次男、
ハルク=ウィリアヒルがこれから向かうハルクパークの園長、
すなわち領主だという、しかもアイリスを娶ったと……まだアイリスは12歳だぞ。
(このあたりも、確かめなくては)
巨大廃墟を過ぎ、我々はさあいよいよ、
目的地である『禁断の荒地』にあるという、
ハルクパークへ向かうのであった。
「いったい……何が我々を、待ち受けているのだろうか」
正直のところ、
今は不安の気持ちの方が、大きいのだが。




