4話 TGSに夢儚く2
待ちに待った東京ゲームショウの日。
電車に揺られながらザクロは、夢の場所へと思い馳せる。
地元の駅から既に東京ゲームショウ目当ての人間がちらほらいるのではないかとソワソワしながら辺りを見渡したが、キャリーケースを携えた旅行者かゲームとは無縁のキラキラしたカップルか、オタクと呼ばれるような人間は確認できなかった。
(…ラムさん、どんな人なんだろうな…)
声や喋り方からして、いかつい大男ということはないだろう。小柄か同じくらいの身長か。細身のクールな人物を思い描く。
(…でも、言い争いの時の、あの熱の入り方…可愛げのない子供みたいな感じ…やっぱりイメージだと年下なんだよなぁ…)
今日会うであろう人物への不安を抱えながらも、目的の場所へと近付いていく。
東京駅までたどり着き、京葉線に乗り換えてから周囲の人間が明らかに変わった。
カップル半々、オタク半々、家族が一組のような、電車の中。
なるほど、このメンバーは全員、東京ゲームショウへ向かうゲーマー達なのか。意外とカップルも多いんだな。と、思考を巡らせていると、舞浜駅でカップルの殆どが降りていった。
ディズニーランドの存在を完全に忘れていた自分に対して、恥ずかしさや虚しさを感じながらも気持ちを切り替える。
もうすぐでついに、会場の幕張メッセ最寄り駅、海浜幕張駅なのだ。
SNSで、TGSを楽しみにしている人たちの呟きを見ながら気分を高めていると、ラムからメッセージが届いた。
ー海浜幕張を降りて会場までに、TGSのモニュメントがあるんでそこの近くで待ってます。全身黒のちっちゃい奴がいたら、それです。ー
(…全身黒…?電車内をざっと見ただけで、全身黒い人が4人いるんだが…)
あまりにも抽象的な説明に、不安になりながらも海浜幕張駅まで到着したザクロ。
興奮と緊張で少し浮き足立ちながらも、人の流れに身を任せて電車から降りる。
少し進むと、駅の時点でTGSの吊り看板やのぼりが用意されていた。
駅から出て、幕張メッセまで向かう道中に、ありとあらゆるゲームのパンフレットやうちわ等を手渡しする人が何人も待機している。
せっかくTGSに来たのだからと、取れるだけ取ってさっと目を通しながら進んでいく。
流れに沿って進んでいくと、少し開けた広場のような場所で人だかりができているのを見る。
どうやら、TGSのモニュメントとはこれのことのようだった。
大勢がモニュメントの前で記念写真を撮っている。
(…全身黒…やっぱり結構な数いるんだけど…)
真っ直ぐに会場へと向かう人達は考慮しないとして、写真撮影している者、通りの端でスマホを弄ったり談笑している者、その中で全身黒に該当しそうな人間は8人ほどいた。
その中で比較的小柄な人を選ぶとしたら、3人ほど。
1人は明らかに40代後半といった、真剣に写真撮影をしている活発そうなおじさん。
もう1人はやや不機嫌そうにスマホを弄っている、黒い帽子を被ったポニーテールの女性。
最後の1人は、一見中学生なんじゃないかと思うくらいのどこか幼さを感じる、Switchで遊んでいる少年。
(…あの少年がラムさんかな…あれで同い年って言われたら驚くけど、見れば見るほどそれっぽいな…
…あの女性が一番全身黒って感じもするし、おじさんが年齢偽ってる可能性もワンチャンありそうだけど…流石に違うか…)
勇気を出して、少年に話しかける。
「あのー…ラムさんで、合ってます?俺、ザクロです。」
「…は?誰ですか?人違いですけど。」
少年は、まるで不審者でも見るような目でザクロを一瞥した後、足早に会場のほうへ向かって行ってしまった。
(…!!恥ずかしっ…!!!てか、この少年じゃないってなると、あの女の人かおじさん、どっちってことか?!それとも、自称小柄なだけで、意外と大きかったり…?あぁもう、説明が足りなすぎる…!)
文句の一つでも添えながら、外見の詳細を聞こうとDiscordを開いた時、後ろから声をかけられる。
「…あのー、ザクロさん…?嘘でしょ…あの少年と間違えたの…?」
後ろを振り向くと、そこにはさっきのポニーテールの女性が、少し引いたような顔をしながらザクロの顔を見つめていた。
「…え…あなたが、ラムさん…?マジで…?女性の方…だったのですか…えっと、その…こんにちは…」
目の前の女性を見て、様々な小さな違和感が解消されていくのを感じる。
それと同時に、緊張感が一気に高まってしまう。
(女かよっ…!!まずいまずい…超気まずい…!!数日前にゲームで出会った女性をTGS一緒に回ろうと誘うなんて…狙ってるみたいじゃんか…!!
ラムさんにどう思われてんだろ…!!
女性経験なんてほとんどないし、正直めっちゃ嫌だ…!もう解散したい…!!)
改めて、ラムのことを見るザクロ。
黒いキャップに黒いサコッシュ、黒い服に黒いズボンと、見事なまでに全身黒で一切の色気を感じない。
若干のつり目と細長い眉毛、少しだけ幼さを感じるような小さな鼻に、血色の薄い唇。顔の中心あたりから横に薄く広がるそばかす。後ろの髪はポニーテールで纏められ、前髪は帽子の両サイドから垂れ下がっているような触角ヘアー。
ものすごく可愛いと言うわけでもなければ、ブサイクというわけでもない。
そんな印象がぴったりの、少しクールさと、どことなくオタクっぽさもしっかり感じる女性だった。




