3話 TGSに夢儚く
今日も一人、締め切った部屋の中リーグ・オブ・レジェンドをプレイするラム。
最近このゲームに熱が入っているのには理由があった。
それは、ラムが対人ゲームの中で唯一多少センスのあるジャンルだと感じたから。
ラムは無類のゲーム好きで、ジャンル問わず様々なものを直感で触ってきた。そのどれもが新鮮で楽しくやっていたが、対人ゲームに関しては腕前は良くても中の下、FPSに関してはいくら練習しても最低ランクの1個上が限界のレベル。
その中で、リーグ・オブ・レジェンドというゲームだけはなぜか上手くまともに操作することができた。
小さい頃からネットサーフィンにのめり込み、キーボードとマウスの操作に慣れていたからだろうか。
とにかく、初めてランクが上がることの楽しさを感じた彼女は、次のランク、ダイヤモンド帯を最終目標として日々奮闘していた。
「もう…なにこの試合…SUPケイトリンって、そんなの勝てるわけないじゃん。はぁ…次どこオプSUPきたら私もSUPアッシュやっちゃおかな…」
今日の大学の講義中LoL欲をずっと昂らせていたラムは、この初めの一戦でその熱をすべて失ってしまった。
「…次意味不明なSUPきたらほんとに引退しちゃうかも…今日はやめよっと。」
ログアウトにマウスカーソルを合わせようと画面に向き合ったとき、フレンド欄の様子がいつもと違うことに気付く。
柘榴という昨日追加した唯一のフレンドが、オンラインになっている。
「あー…消すの忘れてた。…どれどれ、あんたの戦績でもみちゃおっかな。負けてろー…負けてろー…」
気晴らしに他人の戦績を覗く。ザクロはどうやら3連敗しているようだ。そのうち2戦は、味方のADCがイレリアとレンガーでどちらも15デス以上している。
あまりにも可哀想すぎて、嘲笑するつもりが引きつった顔になるラム。まさか先ほどのアッシュSUPが霞む構成で戦っていたとは微塵も思わなかった。
「…まだLoLやるのかな…こいつとは合わないけど、他の意味不明な野良サポートとやるくらいならまだマシかな…」
思い切ってパーティに招待する。すると、僅か数秒で入ってきた。なんて暇な奴、誘われ待ちでもしてたのだろうかと、若干の気持ち悪さを覚えつつ、チャットを打ち込むラム。
ー数戦やりませんか。Discord繋ぎますー
そして、流れるようにVCへと入った瞬間…
「ちょっと聞いてくれよ!!さっきのBOTレンガーがマジでヤバくて!!いやその前もヤバかったけど!!もう野良で回すのやってらんねぇ!!お願いしますラムさん…!一緒にランク回してください…。」
…ふふふっ!少し身構えてた私がバカみたい。
昨日の口喧嘩から2人は一切のコミュニケーションを取っていなかった。なのに数戦LoLを野良で回しただけで、その怒りの矛先は他の味方へと向く。そういうゲームなのだ。ラムは少し安心して言葉を返す。
「いいよ、やろうか。」
2人は野良の味方への愚痴を一通り言い終わった後、ゲームをプレイしながら、暇な時間は何気ない雑談へと移る。
「そういえば、明日人生で初めて東京ゲームショウ行くんですよ。LoLのブースもあってすっごい楽しみなんです。ザクロさんはTGSとか興味ないですか?」
東京ゲームショウ(TGS)、毎年幕張にて開かれる日本最大級の展示会。数多くのゲーム先行試遊や情報の公開、有名なゲスト達、様々なフォトブースやアクティビティ、ショップ等、ゲームに関するありとあらゆるものが詰まった、ゲーマーの楽園。
「え?ラムさんも行くんですか?俺も人生初のTGSですよ!ゲーマーとして一度は行っておかないとなって!いやーもしかしたら現場で会うかもしれないですねー。」
「そうだったんですね。もし会場で気付いたら遠慮なく声掛けてくださいね。」
…リアルで…会う…?
それはなるべく勘弁したい。おそらくこの男は、私が女だとは思っていないのだろう。男が女に喋りかけるときの生々しさを一切感じない。
…ザクロさんは感じの良い人だ。ときどき熱が入りすぎるのを除けば心地よく一緒にゲームできるような人。これから先一緒にLoLのランクを回していきたいとまで思えるほどに。
だからこそ、この関係にヒビが入るようなことは出来ればしたくない。
「…そういえば、LoLのブースにあるユナラのミニゲーム、詳細知ってます?二人一組で参加する玉入れゲームらしいんですけど、あり得なくないですか?ぼっちお断りみたいなシステム!景品めっちゃ欲しいんですけど、俺ソロなんで出来ないんですよ…それが残念すぎて…」
「え?あれ一人じゃできないの?聞いてないんだけど。私もソロだから無理じゃん。こんなに最近LoLに尽くしてるのにブース楽しみ尽くせないなんてあり得ないんだけど。マジかー…」
…なんて悪魔じみたシステムを考えるんだライアット…オタクはソロ行動が基本だ…デュオで仲良くミニゲームしているのを外からタオル噛み締めて眺めることしかできないなんて…
「あ、ラムさんもソロなんですか?!じゃあ明日、ユナラのミニゲーム一緒にやりません?どーしてもやりたいんですよ。でもゲーム友達はそもそもTGS来ないか、他の友達と行っちゃって…
ラムさん、俺たち即席デュオボットの実力見せてやりましょう。」
「…そーだね。あーただ、今回のTGSは一人で気楽に回りたいから、このミニゲームだけ一緒にやってあとは解散でもいいですか?」
「いいですよー。僕も自由に回りたい派なんで。」
ザクロさんとの関係が歪むよりも、LoLのミニゲームに参加できないほうが圧倒的に嫌だ。まぁこの人とは、TGSが終わったら関係を切ろう。別にそこまで大切なフレンドでもない。野良でランクを回すのより少しマシなだけだ。
「じゃあそーゆーことで。…ザクロさんて歳いくつですか?あんまり離れてたら気まずいじゃないですか。」
もし4歳以上離れてたらやっぱり断ろう。それ以上歳上の異性なんてそれだけで恐怖を抱くレベル。
「あー俺は19ですよ。ラムさんは…歳下…ですか?」
「お、凄い。同い年ですよ。偶然が続きますねー。あ、じゃあ敬語やめません?せっかくリアルで会うんだし。」
「そうだね。普通に喋ろう。…正直中学生くらいかなー…?まで覚悟してたけど、良かったぁ…同い年だったんだ…ラムさん中性的な声してるから全然分かんなかったわ…」
「失礼すぎる。まぁよく言われるからいいけど。…じゃあ、待ち合わせの場所とか時間帯とかいろいろ決めよっか。」
ザクロとの対面時、何を思われるか。それだけが不安としてあったが、それ以上に東京ゲームショウが楽しみで浮き足立つ。今まで唯一の趣味、ゲームばかりしてきていた人生、そんな自分にとっての最高のイベント。
ランクマッチ3戦を快勝に終わらせながら明日の予定も大まかに決めた後、PCの電源を落とす。
「…ふぅ…待ちに待った東京ゲームショウ…楽しみだなぁ…
…男の子と会うのか…ちょっとだけお洒落していったほうがいいかな…女を意識されるのも嫌だけど、下に見られるのも嫌だなぁ…」
ちらりと開けっ放しのクローゼットに目をやる。女っ気のある服と言えばいつか1回だけ出た大学サークルの飲みで着たワンピースのみ。
その他で明日着れそうなのは黒無地かキャラクターもののTシャツばかり。
「…はぁ…なんでゲームの祭典に行くのに見た目気にしてんだろ。バカバカしくなってきちゃった。どうでもいいや。楽な格好にしよ。」
ヘッドホンを外し、そのままベッドに倒れ込む。
思考は明日のことで埋め尽くされている。
「…ザクロさん…どんな顔してるんだろ…LoLやってるような人だし、正直期待できないなぁ…でもイケメン過ぎても居心地悪いし…中くらい、中の中みたいな顔してて欲しい…あぁ変に緊張してきた…私よりほんの少しだけ上のビジュアル来い…」
東京ゲームショウ、そして関わって2日の顔も知らない男ザクロとの対面。今までの人生では経験したことのない出来事にソワソワしながらも、ラムは眠りにつく…




