1話 熱帯夜のLoL
猛暑がつづくある日の熱帯夜…
締め切られたカーテン、散らかったペットボトルや缶、すべてが一目で理解できる数多のコード類、無限の色に光照らす2枚のディスプレイ…
この静かな夜で、エアコンとキーボード、マウスの音だけが不規則に鳴り響く…
「うわぁ今回、対面エズカルマかよ…またつまんないレーン戦やらされるわぁ…」
このゲーム部屋で一人呟く彼、電子の世界で柘榴と名乗る彼は、今、リーグ・オブ・レジェンドという最高に素晴らしい世界で一番人気の今最も熱いゲームで、ランクを回している。
味方チームのピック、敵チームのピックがそれぞれ決まっていく。
次は味方のBOTのピック順になる。
ー世界の運命を、一本の矢に託して!ー
「うわ、マジかよ!っしゃー!ちょっとやる気復活してきたー!」
これから隣で戦う味方のピックに対して、喜びを噛み締めながら、ザクロはあらかじめ選んでいたチャンピオンを即ピックする。
ー共に奏でよう。美しき苦しみの調べをー
「ふふん!この二体は相性がいいからなー…エズカルマ相手でも、俺のフック次第でワンチャンあるだろ。」
…このマッチが、後の人生に多大なる影響を与える始まりになることを、柘榴はまだ知らない…
同じ日の同じ時間帯、別の家にて…
ベッドの上には昨日夜更かししながら読んだ少女マンガが数冊転がっている。
床には脱ぎ散らかされた靴下やアウターなどが乱雑に丸められて置かれ、机の上はヘアゴムやピアスや化粧品、何十人といる最推し(?)のキャラクターのフィギュア達、壁や棚には、無数のゲームに関するポスターや縁に飾られたポストカードが張り付けられている。
「スレッシュが相方のlol久々だな…当たりだといいな…」
このオタク部屋で、同じく一人呟く彼女、電子の世界でY-RAMと名乗る彼女は、今、リーグ・オブ・レジェンドという最低で最悪の友達に「私このゲームが好きなんだ!」と言ったらドン引きされるランキング1位のゲームで、ランクを回している。
スマホでソシャゲのデイリー消化をしながら、ラムは横目で敵のピックを見る。
ー我が意志を持って、争いに終止符を打たん!ー
「うわJ4じゃん…これランタンちゃんと置いてくれないと殺されまくるじゃん…頼むよースレッシュ…」
敵のピックに対して露骨に嫌悪感を示しながらチャットで、スレッシュに対して「help me J4R」と、意味のわからない呪文のような言葉を唱える。
帰ってきたチャットは「b」
スレッシュに対して少し期待を寄せてニヤリと口元が緩む。
「よぉし気合い入れよ…最近相方がメイジサポばっかりでうんざりだったんだ…期待しちゃうよ、スレッシュ。」
…このマッチが、後の人生に多大なる影響を与える始まりになることを、ラムもまだ知らない…
「あーキツイ!プッシュ絶対勝てないじゃんマジでカルマうざいな!エズもパシュパシュパシュパシュしつこ!ガーディアンいくらあっても足りねぇよ!」
「ふーん、このSUP、立ち位置はまぁ悪くないじゃん。ほんの少し前出過ぎだけど。ADCの後ろでフック狙ってる小心者よりはマシかな。」
「いや、さすがにカルマ舐めすぎだろ!お!良いタイミングでアッシュW当たった!絶対フック当てろよ俺…!っしゃ!これエズまでみれるだろ!うわーこのアッシュ即ランタン乗ってくれる!これ楽しいゲームになるぞ!」
「おぉ…ムーブ読みのフックいいね。これはカルマはイージーキルかな…え、ウソ。そっからエズにフラッシュE…?それはやりすぎじゃない?あぁもうランタン投げられたら乗っちゃうよ私?うわ凄、このダブルキル気持ちいいー…!」
2人の操るチャンピオンが毒タヌキのサムズアップエモートを送りあっている。
楽しさを最大限に分かち合うなんて、このゲームにかかればエモート一つで充分なのだ。
「MIDもう1ウェーブプッシュしたらIE出るから怖いけど欲張っちゃお。あ、やば、J4来てるじゃん、フラッシュもないのに前出過ぎちゃった…」
「味方JGと一緒にドラゴン周りの視界でも取り行くか…おいこのアッシュ欲張りすぎだろ!絶対J4来るって!!やばいやばい戻らなきゃこいつ死ぬ!!」
「おおーランタン早っ…助かったー。これが出来るからスレッシュが相方のときはいいよね。アグレッシブに動けて。」
「こいつ危なっかしくて視界取りいけねー!うちはアッシュしか育ってないんだぞ!!お前が死んだらゲームが終わるんだぞ!!分かってるのかこいつ!」
アッシュに対して注意ピンを連打する柘榴。
ラムは黄色いロボットが「?」と煽ってるような苛つく表情のエモートを返す。
lolで出来た脆い友情なんて、エモート一つで砕け散るのだ。
「バロン前に敵ジャングル内とかでキャッチしたいな…お、このJ4浮いてるだろ。こいつ倒したらバロン確定!そのままエンド目指せる!」
「いやこのスレッシュ正気…?そんな深いとこ行きたくないんだけど…あぁもう支援ピンうるさ…!分かったよ、そのランタン乗れば良いんでしょ?」
「あ、やべ。フラッシュEミスって逆にぺろんてしちゃった…あぁフックも外した。終わった。いやマジでまずい。めっちゃ敵TP来てるし、エズとカルマの寄り間に合いそうだし、ホントにマズい!」
「は!?なにこいつ有り得ない!!全部外してるじゃん!!こんな敵JGの真ん中でどうしろって!…あぁもうやるしか…!うわ、ちょっとまって。クラウドピットのお陰でムーブのキレ良すぎ。スキル全部避けた。j4ultはフラッシュで躱して、カイト…カイト……敵アサシンにW、Rでスペシ剥がしながらスタン…うわぁ完璧…!!!私凄すぎ…!!」
アッシュに対して歓喜と賞賛の「?」ピンが振り注ぐ。ラムはスレッシュに罵倒の「?」ピンを焚きながらも毒タヌキのサムズアップを繰り出す。
柘榴は「you jp gumayusi」と意味の分からない呪文を返す。
そのままチームはネクサスを叩き割り、勝利を迎えた。
柘榴の部屋にて…
「はぁぁ…勝ったぁぁあ!いやぁ最後だけミスっちゃったけど、それまで俺がアッシュを勝たせまくったお陰で試合に勝ったな!めっちゃ良い試合だったぁ…最後のアッシュやばかったな…完全に覚醒してた。いいもん見たわー…」
試合の興奮と余韻で椅子に倒れ込む柘榴。LoLで良い試合をしたあとの高揚感はどのゲームでも味わえないものがある。
「このアッシュサブ垢とかかな?かなり上手かったし、あのアグレッシブ感。結構やり手とみた。エメラルド2の…600試合!?絶対本垢だ…ADCでこんな回せるのすげぇな…
…フレンド申請とか、送ってみようかな。こいつと回したらランクめっちゃ上がりそう。初めて野良にフレ申するな…うわーちょっと緊張する…」
ラムの部屋にて…
「うわぁ最高の試合だった…!!完全にアッシュキャリー!あの殺人ランタンに引っ張られたときはどうなるかと思ったけど…いい気持ちになれたから許すよ…それまでは正直スレッシュにだいぶ助けられたし…」
まだ興奮で手の震えが止まらないラム。いそいそとリプレイを確認しにいき、クリップとしてPCに保存する。lolで完璧なミクロをこなしたときは、何百回見返しても興奮が蘇ってくる。
「ふぅ…やっと落ち着いてきた。もう一戦やろうか迷うなぁ…こんな時間だし、明日に影響でそうだなぁ…どうせ次の試合は、味方にメイジサポきてやりたい放題されるだろうし…ん、フレンド申請…?なんかキレられるようなことしたかな…」
表示された柘榴というプレイヤー名から、さっきのスレッシュ使いだったことを思い出す。良いプレイヤーという印象は持ってはいたが、途中に危険ピンを連打されたことを思い出す。
「うーん怒られるのかな…でも最後はjpグマって言ってくれたし、ちょっと通してみようかな…」
フレンド申請を承認して、先に牽制をしかけたのはラム。
ーwhat?ー
ふふ、先に英語でチャットすることで圧をかけるんだよ…そうすれば文句を言いたい日本人なら、引いてくれるやつもいる…はず。
ー一緒にデュオボットやりませんかー
ん、あぁ、なるほど。私のアッシュにキャリーしてもらおうとしてるんだ。その気持ちは分からなくもないけど、さっきの動きもう1回やれって言われても出来ないしなぁ…でも、このランク帯ではかなり良いスレッシュだったし、やってもいいかな…
ー1戦だけならー
「日本人じゃねぇか!!日本鯖なんだから最初から日本語で喋れや!」
定番の文句を言いつつ、柘榴は次も一緒に出来る喜びで軽くガッツポーズをした。
「こーゆーときって、Discordとか繋いでやったほうがいいのかな…やったことないから全然わかんないや…」
ーDiscord繋ぎますか?ー
「うわぁ…でも、怖いな…俺がフック外したときとか舌打ちされたりしたら、普通にその後のパフォーマンスにもろ影響出るって…なんかだんだん嫌になってきた…断われー…断ってくれー…」
ーいいですよー
「マジか。怖いなぁ…良い人だといいなぁ…」
「一戦だけなら、怖い人だったらすぐ抜ければいいし…」
柘榴、ラム、共に嫌な汗が流れる。敬語を使っているから、互いに少しだけ好印象ではあるが、ネットの世界、ましてはLoLの世界、人間の本質が剥き出しになるゲームでのVCはリスクがある。
耳馴染みのあるVCへの入室…
緊張感のある第一声…
そして、2人は出会う…




