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第七不思議【そこに立つ少女】_2


 次の日も行ったんですけどね。彼女は相変わらずそこにいました。……無視したんですけど、前日から心に引っかかるものはあって。異様に細いんですよね、こう、身体の線が。あ! べ、別に厭らしい目で見てた訳じゃないですよ! 絶対みんな見ますって! 骨と皮だけって、ああいう状態を言うんだなと。細かったです、ものすごく。僕もそんなに太らない体質で羨ましいって言われますけど、あれはそんなレベルじゃなくて。生きるか死ぬかの瀬戸際みたいな。病的に細い、って言うんですか? わからないですけど。妙に肌も白い……青白い、ですし。


 で、この日は、家へ帰ったら珍しくテーブルに新聞が置いてありまして。父が読むんですよね。子どもには興味がないくせに、世論には興味があるそうなんです。多分父が置きっぱなしにしたんでしょう。チラッと見てみたら、女子高生について報じられていました。家庭内も不協和音が続いていたようで、彼女は除け者だった。気持ちは良くわかります。……彼女には『一緒にしないで』って怒られそうですけど。我が家も似たようなもんだから。友達もいないし。

 ホラ、所謂事件の加害者じゃなかったからなんですかね? 女の子の名前も写真も載っていました。変わった名前なのが印象的で。よく覚えてます。知っている人もいるかもしれませんけど、名前は伏せますね。仮にHさんとしておきます。

 あまりに印象的な名前だったので、自分の記憶の中にある名前と、可能な限り照らし合わせてみたんですけど、思いつくものも掠ってる感じの名前もありませんでした。


 あの文化棟の女の子は当たり前のようにそこにいるから、僕の妄想かと思いましたよ。友達が欲しい気持ちはあった。何気ない日常を共有して、くだらないことで笑いあえる友達が。だから、妄想で女の子を見たのかな……って。


 その次の日は……流石にもう驚きませんでした。絶対いるでしょ、って思いながら行ったんで。――やっぱりいました。そして気が付きました。彼女が死んでいることに。身体が透けていたんです。こう、しっかりと見ないとわからないくらいで。その流れで顔もしっかり見たんですよね、初めて。見覚えのある顔でした。


 新聞の女の子だった。


 あの写真は一度見たら忘れない、間違いないと確信しました。


「……こんにちは?」


 声をかけたのは向こうからです。喋れるんだ! ってビックリしましたよ。


「こ、こんにちは」

「昨日も一昨日もいたよね? 文化棟、好きなの?」

「うん。落ち着くんだ。煩くないし、誰にも邪魔されないし」

「わかる。良い場所だよね。取り壊されるなんて、嘘みたい」

「もう、建物も古いから。危ないんだと思うよ?」

「そっか、そうだよね。……君、名前は」

「名前?」

「うん。私は【ウラウライチイ】。変わった名前でしょ。君は?」


 自然と話をしていました。まるで透き通った鈴のような声が、彼女の顔にピッタリだった。すごく細かったけれど、綺麗な顔立ちをしているのはわかります。可愛い子でした。実際に身体は透き通っていましたけど。何度目を凝らして見ても、それは変わらなかった。幽霊にはないって言われてる、足もちゃんとありました。全身揃ってる。


 そこから、少しずつ会話するようになりましたね。授業に出ながら休み時間は彼女を探しました。正確には、彼女のいた痕跡を。同じ制服なら彼女は僕と同じ学校で。ウラウライチイという名前は、最初聞いてピンとこなかったけど、新聞の浦々一依の名前と頭の中で合致した。やっぱり死んでいる子だった。気付いた時に『正攻法では彼女に会えない』ことはわかったけど、それでも痕跡を探しました。でも、新聞の通り友人と呼べるような人は見つからなくて。仕方なく先生にちょっと話を聞きました。新聞は見てないていで、彼女の友達のフリをして。


 僕、先生たちも彼女に興味がないと思っていたんですよ。だって、家庭で酷い目に遭って、学校でもいない扱いされている子なんですよ。改善されないってことは、周りの大人が手を差し伸べていないと思ってた。……なのにそれが、そんなことは全然なくて。

 なんとかしようとしてたみたいです。特に担任が熱心で。児相へ連絡もいったらしいけど、あんまり強くは出られないんですね。中身がどんなにクズでも親が強い。知らなかった。

 とにかく、どちらも影が薄いからか、成績は悪くなかったからか、僕が友達だという話は信用されたらしくて。学年も違ったのにね。先生が喜んでいて、ちょっと胸が痛みました。嘘吐いたことに。

 勉強を聞きながら、たまにHさんの話をしながら過ごしました。そこで聞いた話は……先生は濁していたけど、濁されたからこそ、辛かったんだろうなと思います。同時に、彼女があんなに痩せ細っていた理由がよくわかりました。学校にお弁当は持ってこなかった。先生が渡していたらしいです、パンとか、おにぎりとか。食べられませんもんね、小学校の給食と違って。……中学のころは、どうしてたんだろう……?


 それから、友達はいなかったって話だったし、僕も見つけられなかったけど、気にかけている生徒はいたみたいです。僕が先生と話をした後に、声をかけてくれる先輩がいて。その先輩からも、少しだけHさんの話を聞きました。ホントに、少しだったけど。


 僕はそうやって情報を集めながら、Hさんと交流を深めていきました。話している間に、気が付きました。彼女は、僕のことを死んでいると思って、自分は生きた人間だと思ってる。でも否定しなかった。


 そんな時、彼女が言ったんです。


「七不思議を作ってみない?」


 と。

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