第七不思議【そこに立つ少女】_1
――これは、僕が遭遇した幽霊の話です。
僕はその、友人が少ないんですよ。小学校中学校は、まだいたんですけどね。高校へ入ってから、アプローチの方法を間違えたのか、単純に恵まれなかったのか……。登校しても基本的に一人で過ごすことが多くて。
あ、突然ですけど七不思議って知ってます? よく聞きませんか? 【学校七不思議】とか【学園七不思議】。地域とか学校に特色もありそうですけど、勿論僕の学校にもあります。
ええっと……。一つ目が【誰のものでもない原稿】に二つ目は【タナカ先生、至急、職員室までお戻りください。】です。それから三つ目が【持ち物検査】で四つ目に【サッカーボール】……だったかな。五つ目は【鏡の向こうの向こう側】でしょ、六つ目は【生きている水】です。
僕が話すのは、最後の七つ目なんですよ。タイトルを付けるなら――うん。【そこに立つ少女】にでもしましょうか。……え? 七不思議の七つ目なのに、タイトルがないのかって? 最近なんですよ、この学校に七不思議ができたのって。今まで六つの不思議が、突然学校に現れたんです。学校の掲示板に、貼り出してあったんですよ、不思議の書かれた紙が! 最初はみんな怖がりつつも驚きのほうが大きかったんですよね。あとは面白半分。でも、いつ誰が貼ったのかもわからない紙に学校にまつわる怖い話……って、やっぱり怖いんですよね。
そこに敢えて、便乗することにしました。僕が七つ目を作って、その誰だかわからない人に対抗しようと思いまして。タイトルよりも、話の核からどうしようか考えるタイプなんです。……タイトルを付けるのが苦手で後回し……とも言えますけど。それから、今回は少々特殊な話と言いますか。だからタイトルはなくて当たり前というか。
先に言っておきますけど、この話は創作じゃあありません。どこかから持ってきた既存の話でもない。最初に言いましたけど、僕が実際に遭遇した幽霊の話なんです。主観が入るんで、知らないうちに盛ってる部分もあるかもしれないですけど。そこはまぁ、ご愛敬と言うことで。
……緊張するなぁ。言ったでしょ? 僕には友達がいない。普段は碌に話す相手がいないんです。そりゃあ、昔の友達とはチャットやメールで話しますけど、面と面向かっては中々その、機会がなくて。進路が違うと、予定も会わなくなるものなんですね。子どもでも。
すみません無駄な話が多くて。昔っから、短く喋るとか、要点を掻い摘んで話すっていうのがどうも苦手で。多いと思いますけどね、そういう人。
で。その、幽霊の話。僕はいつも、この学校の文化棟にいるんです。文化棟っていうのは、昔は文化部の活動場所と部室になっていた建物なんですよ。木造の二階建てで、新築の時は想像できないですけど、今はいかにも出そう……でしょ? もう取り壊しの話が出ていて、なくなっちゃうんです。次の居場所探さないと……。
文化棟は鍵はかかってるけど、まぁ入れるんですよね。壊れてるから。あ、鍵じゃなくて窓です。多分、僕しか知らないですね。誰にも言ってないし、直されてもいないから。そんな場所だから、誰もいないと思ってるんでしょうね。お咎めもないから自由にしてますよ。一応、資料もあるし、物置にもなってるから水道と電気は通ってるんです。まぁ、中にはいるんです、僕みたいに出入口見つけて勝手に入り込んで、昼飯食べたり寝てるヤツが。仲良くはしません。お互い暗黙の了解といいますか。あぁ、今日もいるな、くらいで干渉はしない。お互い大事な居場所ですからね。下手に何か言って、入れなくなると困るので。
いつもは男ばっかりなんですよ。女子なんて見たことなかった。一応人がいるとはいえ、埃まみれだし古いし汚い場所もあるし、避けられてたんじゃないですかね、女子からは。僕は二階の一室を使ってました。もはや自室ですよ、家にいるよりも落ち着きます。流石に私物は置いてない……あ、嘘でした。教科書はちょっと。あと、漫画とかお菓子とか。そういう細々としたものはね。
その日も、いつも通り文化棟へ入って、その一室に行きました。……驚きましたね。心臓が止まるか、飛び出るかと思ったくらいには。
誰もいないはずの部屋に、女の子がいたんですよ。
僕はその子を全然知りません。同じクラスでも、学年でもない。制服はこの学校の制服なんです。だから『誰かが部活でもサボりに来たのかな』って思いました。でもね、不思議なことに、彼女も僕を見て驚いた後、見て見ぬフリをしたんですよ! 露骨に視線を逸らして! いやいや、同じ学校だし、目の前にいて目が合ったら声くらいかけるでしょ? 普通。だから、なんか都合が悪いのかなって、僕も黙っちゃったんですよね。触れないほうが良いのかなって。それなら……と、僕も声はかけませんでした。
彼女はずっと窓側にいて、外を見ていましたね。僕はソファに座ってました。木の椅子、疲れません? 教室に置いてある椅子は良いけど、文化棟のはちっちゃくて座りにくいし長時間座るのには向いてなくて。ソファに座ってマンガ読んでました。
気付いた時には外が暗くなってたんですけど、なんと彼女はずっとそこに立ってたまだいて! 動かないことが急に怖くなって、声もかけずに僕は部屋を出ました。