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第六不思議【生きている水】_4


 出しっぱなしにしちゃいけないと思って、またハンドルに手を伸ばしました。でも、今度は回そうにも回らなくて。固いんですよね、全然動かない。まるで、水道管から凍っちゃって、見えている水も氷になっているみたいに。

 他の蛇口を試す気にはなれなくて、職員室へ今度こそ入ろうと決めました。手洗い場から職員室までの、廊下の幅なんてたかが知れてますよ。手洗い場に背を向けて、一歩踏み出した時……右足に、何かが当たったんです。踏み出さなかったほうの足。


 ――水、でした。私がさっきハンドルを捻った蛇口から出る、水。


「――っ――ヒッ――‼︎」


 思わず息を飲みました。驚き過ぎてちっちゃかったけど悲鳴も。多分、一直線に、洗い場を乗り越えて床に落ちて、そのまま私の足にまとわりついてきた。冷たくはないんです。濡れて気持ち悪くもない。ただ、押された時の、圧迫感だけありました。這い上がるように、まとわりついてくるんです!


 そこから動きたくても動けなくて。私の足は水に取られて、動かせなかったんです。足元と職員室の出入口を、何度も交互に見ました。水はどんどん私の身体を登ってきて、心臓がドクドクいっているのがよくわかって。


「……っ……せ、せんせ……先生……‼︎」


 力の限り叫びました。動けないなら、声を出すしかない。手を伸ばしても職員室の出入口には届かないし、誰も人が来る気配はなかったから。


 ――ガラガラッ。


「……大きな声出して、どうしたの?」

「あっ、あ……足! 足が……‼︎」

「え? 足? ……えっ⁉︎」


 出てきてくれたのは、隣のクラスの担任でした。女の先生で、英語を受け持ってくれています。顔は怒っているような、驚いているような感じでしたけど……仕方ないですよね、突然大声で叫んでますし。私の顔を見て、足元を見て、それから視線を上に上げていって、気が付いたみたいです。私の身体に、透明なモノがまとわりついていることに。

 その時にはもう、私のお腹の辺りまで、水が来ていました。


「たすけっ……助けて……‼︎」


 そう言うのが精一杯でした。


「何よこれ‼︎ 誰か! こっちにきてください!」


 先生は私の身体から水を剥がそうとしました。でも、これがなかなか剥がれなくて。呼ばれた他の先生たちも、助けにきてくれました。廊下の水はどんどん増えるし、他の先生はハンドルを捻って水を止めようとしてくれたらしいですけど、無駄な努力だったみたい。這い上がってきた水は、私の口から中に入ってきました。


「……うぇ……っ……がっ……っ……おっ……」


 もう、本当に本当に、苦しかったです。そこから、意識が途切れて……。


 目を覚ました時には、職員室の廊下にいました。何人か先生も倒れていて。身体を起こして、グラグラする視界と、痛い頭を支えながら、何とか立ち上がりました。


「大丈夫か⁉︎」

「あっ……は、はい……」


 声をかけてくれていた先生に聞いたところ、私が気を失った後に、廊下に出てきてくれた先生たちも、水に絡め取られて気を失ったそうで。確か……四人、だったかな。隣のクラスの担任もそうです。気持ち悪いんですけど、一度身体に入った水は、外に出てきて蛇口に戻っていったって。物凄い勢いで。


 ――その日から、怖くて蛇口に触れません。学校のは、絶対に触らない。水を持ち歩いて手を洗うか、除菌できるウェットティッシュを持ち歩いています。正直、家のも怖いですけど。家で何か起きたことはないから、まだなんとか。


 ……蛇口が直ったかどうか? わかりません。今でも出ないことは多々あります。だから、長期休みの時に工事するそうですよ。手洗い場の設備は、総取っ替えするって。それが良いと思います。水があんな、意思を持ったように向かってきたら、とてもじゃないけどその場にいられませんからね。大正解ですよ。……できれば、もっと早くしてほしかったなって思いますけど。仕方ないことなので。


 チラホラ、話に聞くんですよね。水が出てこないと思ったら、急に自分に向かって流れてくる……って。まぁ、それが続いたから、学校側も工事を決意したんだと思います。その子たちが、私と同じように、水に飲まれたかどうかはわかりません。そこまでは聞いていなくて……。

 あ、でも、一人見ました。その、倒れている男の子の口から、水が流れて蛇口へ戻っていくのを。たまたま見て、その後すぐに立ち上がったから、声はかけませんでした。知らない子……多分別の学年だったし。ちゃんと一人で動いてたから。元気そうかどうかの判断はできませんでしたけどね。


 なんとなく、そんなことがあってから、無性に眠たくなることが増えてきて。落ちちゃうんですよね。寝落ち? なのかな? 昼間でも、授業中でも……。体感的には一瞬なんですけど、気が付いた時には結構時間の経っていることもあって……。さっきまで学校にいたのに、ハッとして目を開いたら家の自分の部屋にいたとか。逆に、寝ようと思って布団に入ったはずなのに、コンビニの袋持って玄関に立っていたりとか……。


 私、夢遊病なんですかね? でも、家族や友人に聞いたら、私ちゃんと会話して自分の足で動いているんですよね。意識がないようにはとても思えないって。バカ言うなって、親には言われちゃいました。


 困りまスよネ?


 ……? あっ、こんにちは! ……で、良いんですかね?


 つかぬことをお聞きしますが……ここはどこで、私今何してましたか……?

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