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第五不思議【鏡の向こうの向こう側】_3


 使ったのは別棟一階のトイレです。あんまり日が当たらなくて、昼間でもちょっと暗いんですよね。まだ開いてたから、入りました。外から見て実験室に電気が点いていたから、先生が明日の準備でもしてるんだろうと思って。ちょっと気味が悪かったけど、誰かいるから平気だと。


 トイレは別棟の中に入って突き当たりを曲がります。ちょっと奥まったところにあるんですよね。あんまり新しくもないし。だから好きじゃなかったけど、背に腹は変えられず、点けられるだけの電気を点けて、トイレに行きました。……電気が点いていても、学校ってちょっと異様な感じだから、なんとなく怖いですよね。一人では絶対行きたくないです。

 友達はトイレの出入口の前で待っていてもらいました。そこなら、何かあっても……何もないと思っていましたけど。何かあっても、すぐに声をかけられますから。


 終わって手を洗って、手を拭いて。そのまま顔を上げたんです。目の前には鏡がかかっていました。……トイレって、どこも大体手洗い場に鏡ついてますよね? 手洗い場と別に、そういう場所が作ってある場所は違いますけど。学校ならほぼあると思います。


 ――鏡の奥に、鏡が見えました。一瞬「え?」と思って、思わず目を見開いたんです。鏡は沢山ありました。なんていうんですか? 鏡の部屋、みたいな。そしたら、その鏡に囲まれて、誰かいるのに気が付いたんです。

 声が聞こえて、泣いているようでした。多分まだ、小さな女の子。何でそんなものが見えるのかわからなくて、パニックになりかけました。


「あああ――!」


 私は遅れて声を出しました。怖くて出なかったんです。本当に怖いと、声なんてすぐに出ないですよ。意識がいかなくて。


「どうしたの?」


 友達の声がしました。その時、その鏡の中の女の子と目があったんです。


「たすけて!」


 女の子はそう叫びました。私はどうにかしなきゃと思って、鏡に触れてみたんです。そうしたら! 手がズズッと中に吸い込まれていったんです! 水の中に手を入れた時みたいに、私の手が鏡の向こうに見えました。届くかわからないけど、限界まで伸ばさなきゃと思って、身を乗り出して精一杯伸ばしました。

 女の子がその手を掴んでくれて、一気に引っ張り上げたんです。……私の手が中に入るなら逆もできるはずだって、その時は確信していました。


「大丈夫⁉︎」


 友達が私のところへ来ました。


「女の子が!」


 私は女の子を掴んだはずの自分の手を見ました。でも、そこには誰もいませんでした。


「今、鏡の中に女の子がいたの! 女の子が! 『たすけて』って、泣いてたの‼︎」


 友達はすぐに鏡を見たけれど、そこに女の子は当然おらず、私の周りにもいませんでした。けれど、私の手には、確かに女の子を掴んだ感触があって、手を握り返された時の温もりもあったんです。あの子は間違いなく存在していた、絶対に。


 私はこの出来事をそのまま友達に話しました。最初は怪訝な顔をしていたけど、友達も「たすけて」という声は聞こえたそうです。私の悪ふざけだと思ったけど、よく考えたら私の声じゃないってなって、声をかけてくれたって。


 友達と顔を見合わせて、怖くなってすぐ帰ろうとしました。そしたらそこに、先生が来て。女の先生で「早く帰りなよ」って言って、そのままトイレへ入りました。

 先生一人なんか置いていけなくて、私と友達は手を洗って、先生が出てくるのを待ちました。「まだいたの?」って言われたけど「そっちの電灯が点滅してたから、急に切れたら先生怖いかなって思って」なんて都合のいいことを言って、バイバイして帰りました。


 次の日、学校へ行くのは気が重かったです。でも休むほどじゃないかなって思って。


 いつも通り校門を通って、教室へ向かおうとしたら、別棟のところに先生たちがたくさんいました。


「どうしたんですか?」


 気になって声をかけました。


「それがね、一階の女子トイレの、鏡が割れちゃったみたいで」


 ビックリしました。だって、ちょうど私が昨日入ったトイレだったから。


「ねぇ、昨日入った時は、鏡割れてなかったわよね?」


 私の後に、あのトイレを使った先生にそう聞かれて。考えたけど、変なものは映ったけど、鏡に物理的な異常はありませんでした。流石に、割れていたら私も友達も気付きます。先生も知らないなら、みんながいなくなってから割れたんですよね、きっと。

 割れていなかったことを伝えて、私は教室へ行きました。


 ……この鏡のことが気になって、授業が終わってから、別棟のトイレまで見に行きました。鏡は全部外されていたので、他も割られないようにしたんだと思います。

 多分、この別棟で鏡が割られたのを皮切りに、校舎や文化棟のトイレの鏡も割られ始めました。警察もきたけれど、特に外部犯だとも内部犯だとも言われなくて。誰がやったのか、全くわからなかったみたいですね。校内でもかなり噂になったし、新聞部も新聞の一面にしていたから、事件としては目立ちました。保護者からの問い合わせや、他校の子が覗きにこようとしたりとか。みんな興味津々ですよ。


 割れた鏡は、すぐには直されなかった……いや、違うか。外された鏡は、しばらくはそのままでした。鏡を戻すと、また割られるかもしれないって不安があったんでしょうね。気持ちはわかります。不便だったから、女子は大体手鏡とか、百均に売っているようなヤツを持ってきていて。ないとやっぱり困りますよ。苦手と不便だったら、不便をとって苦手は押し込みます。まぁ、私が苦手なのは、後ろもしっかり映せる、全身が余裕で入るような大きな鏡ですから。

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