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第五不思議【鏡の向こうの向こう側】_2


 音がちゃんと聞こえて、あの、遊園地の独特の音って言ったらいいんでしょうか。今までなかったのに、急に耳に入ってきたんです。必死でまた、大きな声でみんなを呼びました。


「いた‼︎」


 私を見付けたのは姉でした。姉は泣いていました。そんな姉を見て、私も泣きました。両親も泣いていました。


 その時は、姉が私をミラーハウスに置き去りにしたと思ってたんですよ。自分で手を離したのに。でも、意地悪で置いていったと思っていました。両親も姉も何も言わないし、戻ってきたら良しなのか、あんまり聞く雰囲気でもなくて。私も怖かったから、思い出したくないっていうのもありました。


 でも、高校生になったころ、急にその時のことを思い出して、気になって聞いてみたんですよね。


「私、遊園地のミラーハウスで迷子になったよね?」


 って。


「あの時、本当に心臓が止まると思ったんだから!」


 そう言って、姉は何があったのか話してくれました。


 ミラーハウスには、確かに姉と私の二人で入ったそうです。急に私が立ち止まって、姉に手を振り払って、角を曲がったと。姉がビックリして、慌てて追いかけたら、もう私はそこにいなかった。姉は一生懸命、私の名前を呼んだそうです。だけど、私からの返事はなかった。

 代わりに『どうしたの?』と声をかけてくれたカップルに話をして、一緒に出口までついてきてもらったそうです。他にも家族連れの方が一組気付いてくれて、姉とカップルが出口に向かって、家族連れの方が入口に向かって歩いていってくれた。

 ……どちらも袋小路に当たりながら外に出て、係員さんに事情を話したけれど、私はいませんでした。


 おかしいですよね? 私は確かにミラーハウスのなかにいて、泣きながらずっと姉と両親を呼んでいたのに。ちなみに、私の声は全く聞こえなかったそうです。


 迷子センターにもいないし、母と姉がセットで、父と二手に別れて私を探しました。ありがたいことに、カップルと家族連れの方も、私も一緒に探してくれたんです。お子さんの年が離れていて、上の子が下の子を連れてアトラクションを回るから、ご両親に探してあげてと言ってくれて。この方たちには感謝しかありません。大切な時間だったはずなのに、見ず知らずの私を探そうとしてくれたんですから。


 一時間ほど探し回って、みんなまたミラーハウスへ戻ってきました。実はミラーハウスの中の、スタッフしか入れないところとか、変な穴を見つけて隠れている可能性もありましたし。


 ドサッ――。


 姉がミラーハウスの周りをぐるっと回ろうとした時に、裏手から何か落ちる音がしたそうです。


 音の主は私でした。


 さっき探した時は誰もいなかったのに、いつの間にか私が地面に横たわっていたんですって。


 急いで私を抱き抱えて、大きな声で両親を呼んだそうです。……そこまでのことは覚えていませんが、それ以降のことはぼんやりと覚えています。

 母も父も泣いていて、姉も泣いていて。知らない人も泣いていて、でも「良かった」って笑っていました。私は怒りましたよ! 急に姉はいなくなるし、呼んでもきてくれないから。……怒ったけど、あんまりにもみんなが泣いてるから「何か変だな」って、怒るのをやめました。私だけ場違いで、居心地の悪い気がして。それで私も無性に泣けてきて、ワンワン泣きました。泣いて泣いて、疲れて寝ちゃって。次に目を覚ました時は、もう家に着いていました。


 そこからしばらく、父も母も姉も、私の体調ばかり心配していて。幼稚園へ通っていましたが、長いことお休みしていました。「またいなくなってしまいそうで怖い」から、目の見えないところへ行かせたくなかったんですって。

 私は嬉しかったですよ。父の帰りは早いし、母はパートで働いていたけど、パート先に説明して私と同じように休んでいました。姉もね、友達といつもなら遊ぶのに、すぐに帰ってきて、私といっぱい遊んでくれました。父方も母方も、どっちも祖父母が入れ替わりで来てくれて、たまにおばさんやおじさんも来てくれて。とにかく、一時期人の出入りは激しかったです。


 そこそこ経って「もう大丈夫」って思ったんでしょうね。母は少しずつパートを増やして、姉も友達と遊ぶようになりました。父は思うところがあったのか、変わらず早く帰ってきていました。


 小さいころって、ニ、三ヶ月もしたら、すっかり忘れちゃうんですよね。たまに思い出すこともあったような気がするけど、大きくなればなるほど、頻度は減っていって。現に、私も先日まで綺麗サッパリ忘れていました。


 この話を思い出したのは、高校生のころです。私が今二十三なので、えーっと、七年くらい前かな? 高校二年生で、誕生日が近かったと思います。


 部活が終わって、友達と帰ろうとした時でした。喉が渇いて沢山お茶を飲んだからか、すっごくトイレに行きたくなっちゃって。我慢しようかなと思ったけど、まぁ無理だなって。でも、一人で行くのが嫌だったから、友達についてきてもらいました。一緒に帰るし、お願いしたら友達も快諾してくれました。

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