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第五不思議【鏡の向こうの向こう側】_1


 ――これは、とあることがあって思い出した、私が子どものころの話です。


 私は昔から、鏡が苦手でした。怪談話でもよく使われるじゃないですか。日本だけでなく海外でも。

 親がオカルト系の話が好きで、よくテレビで見てたんですよね。夏休みとか、怖い話の特番組むじゃないですか。ああいうの。不思議な話から、ガッツリ怖い話まで。一緒にいるからそのまま見てましたけど、よく母の背中や大きなクッションの裏に隠れてましたね。


 特に、急に出てきたり、音が変わったり、そういうのが本当にダメで。ジャンプスケアって言うんですか? ゲームも怖いから、音出さずにプレイしますもん。ホラーゲームはしません! 怖いから! ……音にヒントがあったら詰みます、仕方ないですけど。

 そういう演出がない、小説は平気なんですけどね。想像力は豊かなほうだと思うから、色々想像しちゃいますけど。あ、漫画で人体模型が出てきた時は、その日の夢で人体模型に追いかけられました。影響され易いっていうか。ついつい、怖いこと考えちゃうんですよ。ありません? そういうのって。


 なんかこう鏡って、ジッと見ていたら吸い込まれちゃいそうだし、目の前の自分が違う動きしたら怖いなって思っちゃうし。そうじゃなくても、もし見ている時に鏡が割れちゃったりしたら、ヒビが入って自分の顔が歪むでしょう? 元に戻れない気がしちゃうんですよ!

 ……考えすぎ? すみません、性分なので……。


 とにかく、私は鏡が苦手なんです。今は、ちっちゃいころよりも、更に苦手になりました。事件というかなんというか。不思議な出来事に巻き込まれまして。それが、鏡にまつわるんです。思い出すのは怖いけど、頑張って話しますね。


 あれは、家族で遊園地へ行った時でした。大きな遊園地じゃなかったけど、ジェットコースターに観覧車、コーヒーカップにゴーカート、お化け屋敷にメリーゴーランドって、メインな感じのアトラクションはありました。後はちっちゃい子が遊べるような公園みたいなところに、汽車を模した園内を回ってくれる列車に、ミラーハウス。

 私はメリーゴーランドが好きで、何度も乗っていました。両親は呆れて笑っていたけど、好きなものって全然飽きないじゃないですか? 特に子どもは。最初は姉が一緒に乗ってくれていたけど、最終的に一人で乗っていて。渋々なのはわかっていたから、今度は私が姉の希望に沿うことにしたんです。


「ミラーハウスに入ろうよ」


 その日は平日で、父も母も有休を取って、私たち子どもは熱もないのに学校を休みました。ズル休み? 子どもにも休息は必要ですよ。『怖いな』と思ったけど、姉と約束したし、姉も手を繋いでいてくれたから、一緒に入りました。


 ミラーハウス、入ったことありますか? 壁の代わりに、鏡が張られてるんですよ。で、迷路みたいになってる。鏡に騙されないように、正しい道を歩いて入口から出口まで向かうんです。そんなに迷うことはないと思うけど、子どもから見たら立派な迷宮です。

 姉の手をギュッと握りしめて、ちょっとだけ後ろに隠れながら、私は歩みを進めました。


 どれくらいか覚えていないけれど、大体半分くらいにしておきましょうか。進んだ時に、ふと、鏡に影が走ったんです。『あれ?』って思って、思わず姉の手を離してしまいました。それから、少し追いかけたんですよね、その影を。よせばいいのに。


 複雑な道じゃないのに、私は完全に影も姉も見失いました。子どもながらに『これはまずい』と思って、大きな声で姉を呼んだけれど、返事はなくて。そのまま姉の名を呼びながら、ウロウロと歩きました。でも姉の声は聞こえないし、足音も聞こえない。

 ……というか、姉どころか全く人の気配がしないんです。平日だったから、お客さんはそんなに多くなかったと思います。だから、仕方のないことなのかもしれませんけど。


 頑張ってたけど、もう怖くて。大きな声で泣いて、その場から動けなくなりました。道がわからないんですよ。だから進めない。姉がいる保証もない。他のお客さんも、誰もきてくれない。

 もうダメだ……って思いました。遊園地だから、必ず最後には誰かが迎えにきてくれるって思うには、私は小さかった。そして怖がりだった。家族の名前を呼んで、どこ? って聞きながら、ただ大粒の涙を流すことしかできなくて。


 どれくらい経ったかはわかりません。泣き疲れて眠ってしまったのか、ぼんやりとしていました。まだ誰もきてくれない。また泣いてしまいそうになった時、向こうの鏡に、知らない誰かが映ったんです。

 それは女の子で、私より随分大きかった。中高生くらいなのか、制服を着ていました。その彼女と、目が合ったんです。……私にはもう、彼女しかいなかった。


「たすけて!」


 大きな声でそう叫びました。そしたら、彼女が私に向けて手を伸ばしてくれたんです。そしてその手は、鏡のなかから出てきて、私の手を掴んだんです。絶対離すものか! って、力いっぱい握りしめました。

 次の瞬間、パッと眩しくなったかと思ったら、周りが騒がしくなって。気が付いた時には、ミラーハウスの裏側にいました。

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