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進化_2


 噂では、トイレの鏡に『自分以外の誰かが映る』ことがあったらしい。その場にいた他の子でも、たまたま写り込んだトイレの外の人間でもない。そもそも、人間じゃない可能性がある。ソレを見た子はその場で発狂して、ソレの映った鏡を拳で割った。鏡と一緒に写っていた汚れは、殴って怪我をした生徒の血らしい。全てがそういう訳ではなくて、ただ割れているのを発見したり、鏡の中に誰かを見つけて人を呼ぶこともあったんだとか。割れていなくても、そういう鏡は後で割れたそうだ。

 この話が出回ると、パニックが起こると思ったのだろう。実際の内容を伏せて誤魔化し、同じ事件が起こらないように鏡を撤去した。面白いのは女子トイレだけじゃなくて、男子トイレでも起こっていたということだ。こういう話は大体女子トイレだし、それはカゲも認めていた。私だってそう思っている。神出鬼没なこのナニカは、男女関係なく驚かせたかったのだろうか。


「どう? 第五不思議に繋がりそう?」

「頑張ってみる」

「いいね。……ところで、何で鏡が苦手なの?」

「だって、怖いじゃん。考えない? 自分以外のものが映ったらとか、鏡の中の自分が、今の私と違う動きをしたら……とか」

「一依でもそういうこと考えるんだね?」

「そりゃあ考えるよ! 合わせ鏡もずーっと続いたら、その中に入り込んで二度と出られなくなりそうだし」


 昔は鏡を見て、笑顔の練習をしたっけ。うんと小さいころ、誰からも愛されたくて必死だったころ。鏡に映る私が笑わなくなった時、自分が笑えなくなったことを知った。傷だらけでも目に光を灯して笑っていた鏡の中の私は、いつの間にか私のいない食卓に並ぶ、死んだ魚と同じ目をしていた。


「今何考えているか当てようか?」

「えっ?」

「昔のこと考えてるでしょ?」

「何でわかったの!?」

「なんとなく」


 笑っている。カゲは。


「物語を作る時は、自分の話か自分がよく知っている話を混ぜるとリアリティが増すと思うよ?」

「アドバイス?」

「……嘘を吐く時は、適度に本当の話を混ぜるとバレにくいんだ。全部嘘よりもね。それと同じだよ」

「じゃあ、今回のこの記事の話と、それからよくありそうな話と、私が聞いた話と……」

「第四不思議は建て替える前だから何十年も昔の話、第一不思議は数年前で、第二不思議は十年くらい前? 第三不思議は今の話だろ? 次はどうする?」

「ちなみに、第七不思議は? いつの話にするの?」

「今の話にするつもりだよ。それは変わらないし、変えるつもりもない」

「拘りがあるんだ」

「まぁね」


 話を考えながら、私は適当に時期を選んでいた。話し手がいつこの話をしているのかも、その不思議なりたる出来事がいつ起こったのかも。


「うーん、今よりも昔のほうが怖くないかな。鏡って昔からあるけど、時間の経った鏡って雰囲気あるよね」

「確かに。……昔、家族旅行と親戚で古い旅館へ行ったんだ。ただ古いだけじゃなくて、趣があるって言うのかな。二間続きの部屋で、真ん中に短い廊下があって。そこに、一枚の絵と鏡が飾ってあったんだ。ぼんやりとしか覚えてないけど、そこの壁が真っ黒でね。鏡と一緒になって、すごく怖かったのを覚えているよ。飾ってあった絵も女の子の絵で、雰囲気があった。そこを通らないと二部屋移動はできなかったんだけど、できるだけ通りたくなかった。勘……って言うのかな。それに、そんなところにトイレを作ったのを恨んだよ。お風呂の隣で良かったのに」


 間取りを想像して、背筋が寒くなった。真っ黒の壁紙に、そこに飾られた女の子の絵。


「あ、そうそう。出入口の付近に、もう一枚絵が飾ってあったんだ。そっちはなんの絵だったか忘れちゃったけど。そういうところって、聞かない? 『絵の裏にお札がビッシリ貼ってある』っていう話。気になるじゃん? 確か父だったかな。面白がってその絵を外して、裏を見たんだ。……ビッシリのお札はなかった。一枚はあったけどね」

「一枚は貼ってあったんだ!?」

「貼ってないのが理想なのに貼ってある。怖いだろ?」

「怖いよ十分!!」

「釣られやすくて良いなぁ。お札が貼られていた話は嘘だよ」

「はぁ!?」

「あっはっはっ! お札の話を聞いたのは本当。父が絵の裏を見たのも本当。一枚だけ貼ってあったのは嘘」

「だ、騙された……!!」

「リアリティが増しただろ? ……もし裏を見たのが廊下にあった女の子の絵だったら、お札も貼ってあったかもね? それはもう、ビッシリと……」

「ストップストップ! 私の担当なのに! 怖い話!」

「俺の作る第七不思議、良い仕上がりになりそうだろ?」

「絶対! 鏡を使った怖い話! 作ってやるんだから!」

「はいはい。待ってるよ、楽しみに」


 きっと今、カゲはニマニマ笑っているに違いない。私にはわかる。


 今日は早々に文化棟を出た。しっかりと学校新聞を目に焼き付けて、次の不思議作成に取り掛かる。


 ――第四不思議も、生徒たちに中々好評だったようだ。ただ、今回はいつもの女子生徒が第一発見者ではなく、たまたま通った先生が第一発見者だった。貼り紙を見て驚いた後、そのまま剥がしてしまうかと思ったのだが、意外にも貼りっぱなしにしていた。他の先生を呼びに行っている間に、女子生徒は登校してきた。他の生徒も。

 心なしか、生徒たちの登校時間が早まっている気がしている。門が開く時間は決まっているから、早くきすぎると門の前で待っていないといけないのだが。一気に土間へやってくる生徒が増えた気がするのだ。


 私の作る七不思議を楽しみにして、早くきてくれているなら嬉しい。ちょっとくらい、そう期待しても良いだろう。

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