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第四不思議【サッカーボール】_4


 実力はどこも似たり寄ったりだったけれど、何の因果かあの放棄された試合をした学校とこっちの学校が、最終試合……決勝戦でぶつかることになりまして。お昼を挟んで休憩して、とうとう試合開始となりました。お相手さんは……殺気立っていたそうです。殺気立っているのに、ベンチはお通夜状態で。気味悪かったけれど、試合はそのまま始まったそうですよ。決勝へ行かなかった他校は、どっちのことも応援していたらしいです。良いですね、何か。そういうのって。青春って感じがします。


 その日は本当に天気に恵まれていて、カラッとした空気に時折吹く風が、生徒の肌を撫でて熱を持って行ってくれて。絶好のスポーツ日和と言っても過言ではなかったでしょう。応援のために駆け付けた人たちも、試合をしている生徒たちも、全然苦はなかった。


 ……そう、すごく良い天気だったんです。すごく。神様がわざわざこんな天気にしてくれたんじゃないか……って思うくらいの。


 それなのに、雨が降ってきたんです。ビュウゥっと強い風がひとつ吹いて、分厚い雲がモクモクと太陽を半分隠して。影ができて校庭にいた人たちは、思わず空を見上げたそうです。その後すぐに、ポツポツと雨が降ってきました。でも、軽い雨だったんですって。これくらいなら……ということで、試合は続行しました。あの霧雨が降った、練習試合と同じように。


 雨が降ったからか、太陽が隠れたからか。あんなにカラッとした空気だったのに、急にネットリとした空気が肌を撫でた。


 試合はしたいけれど、これ以上雨が降ったら中止にしよう。そう思っていたそうです、各学校の先生たちは。一応、いくらか試合も終わっているし、残す決勝は別日に二校集まってやってもいい……って、判断だったんでしょうね。


「――っ! う、うわぁぁぁぁ‼︎」


 仲間からパスを受け取った、相手の学校の生徒が叫びました。「ああぁぁぁぁぁ‼︎」って、頭を両手で押さえながら、ものすごい勢いでベンチまで走っていったんです。試合をほったらかして。みんな何事かと思ったけど、コートにいる僕たちの学校と相手の学校は、何が起こったのかなんとなくでもすぐに悟ったんでしょう。敵味方関係なく、顔を見合わせました。


 そして、自然とボールを囲んで、円になっていました。みんながジッとそのボールを見つめていたら、相手は顔を歪ませながら、口を押さえて離れて行きました。こちらは何も変わりはないけれど、相手はみるみるうちに顔色が悪くなって、中には吐き出してしまった子もいたらしいです。

 これ以上試合はできないと、解散になりました。またこちらの生徒しか、コートに残らなかったんですから。


 ……それから、相手校が試合にやってくることはありませんでした。レギュラーだった全員が、サッカー部を辞めたんだそうです。今までは参加しなくたって意地で続けていたらしいけど、もうそんな気力もなくなってしまったんでしょうね。


 全員が全員「Gの頭を蹴った」……と。「グニャリと顔が歪んで、その歪んだ顔で笑っていた」と言うんです。あの時と、同じような。

 決勝の時以外に、他の学校とも戦ったけど、そんなことは起こらなかったんです。他の学校だって、あの学校と戦った時も、普通でしたし。なんなら、あの学校だって、何にも言わなかった。……そうなるともう、原因は一つしかないですよね。


 そこからしばらくは、サッカー部は廃部になったそうです。この学校も、相手の学校も。


 いえね、確かに、あの学校だけだったんですよ、Gさんを見たのは。確かにそうなんだけど、でも、こちらのサッカー部も、Gが可哀想だからと、サッカーをしなくなったんですって。

 あの学校が来なければ、Gは蹴られないかもしれない。でも、サッカーをするたびに思い出すんですよ、やっぱり。同時に、授業で取り入れていたサッカーも、なくなりました。


 ……全部、こちらの学校で起こってるんですよ。だから、あのGさんの頭だと言われたサッカーボールは、この学校の持ち物なんです。


 校舎の一部崩落で、建て直しをしてから、サッカー部は復活しました。今はありますよ、サッカーの授業も。


 規格とかあるんですかね? よくは知りませんが、サッカーボールもサッカーゴールも新しくなって、試合で着るユニフォームも一新したらしいです。昔の名残を消すために。


 ――あ。相手の学校ですか? サッカー部はどうなったか? 今も廃部になったままだそうですよ。噂では、あれから何人かすぐに亡くなったとか……。定かじゃないですけど。死んでてもおかしくはないか……って思えるくらいの、説得力はありますね。僕的には。


 終わってからじいちゃんの名前を聞かれて、先生に伝えました。次の日、どうやら先生のお父さんはじいちゃんを知っていたみたいで、教えてくれました。お互いサッカーはしないけど、友達の応援に来ている共通点で、クラスも別だったけどちょこちょこ話したらしいです。


 先生は「誰にも言うなよ」とか「内緒だぞ」って言わなかったんで、じいちゃんに聞いてみたんです。


「この前のサッカー部の話、続きってあるの?」


 と。じいちゃんは、一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに言いました。


「続きなんかない」


 って。


 どうなんでしょう? もしかして、僕も先生も知らない話が、この続きにあったりするんでしょうか? だって、ここまでの話なら、別に聞いても害はなさそう……ですよ、ね?


 それとも、先生から聞いた話は、聞いてはいけない話だったのでしょうか。僕は聞いてしまったから、少しだけ不安です。

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