第四不思議【サッカーボール】_3
「なぁんてなぁ……」
「あ、頭?」
「そう、頭だよ。首から上。この、重たいの」
「え? 何? その人、怖がりすぎて幻覚でも見てたの?」
「……ソイツがそう言って、それからもうお相手さんは、何も言わずコーチにも確認しないまま、全員コートから引き上げおった。残ったのは、私らの学校のチームのみ」
「相手のチームは、みんなその頭が見えてた……ってこと?」
「おそらくなぁ。こっちはわけがわからないまま、ただみんな突っ立っておったよ。選手で顔を見合わせて、お相手さんは誰も戻らんから、仕方なくこっちの先生が、生徒をベンチに戻したんだが……。結果、コートには人っ子一人おらんなった。残されたのは、今まで蹴っていたボールだけ」
「試合は終わり?」
「あぁ」
「勝負ついたの?」
「いや……そのまま終わったから、勝負はつかなんだ。お相手さんは促されてもコートへは戻らんかった。埒があかずにコーチ同士が話し合って、試合は終わった。奇声をあげたりブツブツ独り言を言うヤツらを形式的に見送ったけど、雨はまだ止まなかった」
「……ボール、ホントに頭に見えたの?」
「みんなでボールを見に行ったよ。コートにポツンと残されたボールを」
「どうだった?」
「何てことはない、ただのボールだった。当然ながら、お相手さんがあれだけ騒いでいた意味が全くわからんかったよ」
「何だったんだろうね」
じいちゃんは「さぁ?」って感じで、ちょっと首をかしげて眉をあげてた。その日はここまでで話は終わったんだよね。これで終わりって感じで、続きはありそうになかった。相手が本当にGさんの頭を見たのかはわからないけど、正常な精神状態じゃなかったことはわかってる。でもさ、もしこれがGさんの呪いだったとしても、相手は文句言えないよね。どう考えたって、悪いのは相手なんだもん。自業自得だよ。
この話を引っ提げて、僕は学校へ行った。友達に、じいちゃんから聞いた怖い話って、教えてやろうと思って。高校の怖い話って初めて聞いたから、テンション上がっちゃってさ。しかも、じいちゃんの友達がその渦中の人だなんて。滅多にないことでしょ? ほぼ自慢話みたいな感じで、友達に喋ろうと思ってた。
授業後、塾の宿題学校でやってから行く……ってヤツがいたからさ。その勉強してる姿見ながら、僕は聞いたことを話したんだ。そうしたら、そこへ先生がやってきて。「何の話だ?」って聞かれたから、また一から話をして。話し終わったら、先生が言ったんだ。
「その話、先生も知ってる」
って。
普段はそんなに接点のない先生だったけど、僕のお父さんくらいの年齢だなって思ったら、やっぱりそれくらいの年だった。それで、この学校が先生のお父さんの母校だってことを教えてくれたんだ。先生が自分の親と同じくらいで、先生のお父さんは僕のじいちゃんと同じくらいの年だった。……聞いたんだって。お父さんから。
偶然ってあるもんだな……って、呑気に考えてた。『偶然ってすごいですね』って、友達も含めてワイワイして、めちゃくちゃ楽しかったよ。今日話して良かったな、なんて思いながら、帰ったらじいちゃんに先生のお父さんを知ってるか聞こうと思ってたんだ。この話を知ってるってことは知り合いかもしれないし。先生のお父さんもサッカー部じゃなかったって言ってたけど、クラスが同じだった可能性もあるしね。
「……あれ? そういえば、その話ってそこで終わりだったっけ?」
先生が不意に口を開いて言ったんだ。僕はここまでしか聞いていなかったから、逆に聞いてみたんだよね。「この話って、続きがあるんですか?」って。だって、続きがあったら気になるじゃないですか。僕もあえて続きがあるのかどうかはじいちゃんに聞かなかったし、じいちゃんもそれ以上は言わなかったから、実は何かあるんじゃないかって。
「練習試合が途中で終わっただろ? 放棄みたいなかたちで。で、それからしばらく経って、他の学校も交えてちょっとした大会を開いたんだよ。この学校主催で」
知りませんでした。聞いてないから当たり前なんですけど。自分だったらどう思うかな……って考えて、よく大会開けるな……って思いましたね。だって、この話の流れだと、試合するとGさんの頭が現れるじゃないですか。……あ、いや。頭が見えるじゃないですか。相手だけに。そんな話が他の学校相手にも起こったら、誰も相手にしてもらえなくなりそうだなって。怖いですもん、試合しに行ってボールが頭になって、試合できなくなるって。
そこでちょっと、ようやくですけど「Gさんが怖いな」って思いました。元々、話的には怖いと思っていたけど、Gさんに対して思っちゃいました。失礼だったかな、こんなこと考えちゃったら。
それから、じいちゃんが話さなかったのに、僕が聞いて良いものなのかっていう不安がちょっと。……好奇心には勝てないから、こう言いましたけどね。「続きを教えてください」と。
先生は、そうこなくっちゃ! って顔をして、知っている続きを話してくれました。
……その学校主催の大会に、色んなところから参加表明があった。途中で練習試合を投げた学校も名前があって、それをそのまま受け入れたそうです。決着をつけるイメージだったのかな。気候も良い休みの日に、朝からその大会は始まりました。
運動場は二つあるし、やたらと広いでしょう? 昔はもっと広くて、一気に二試合やったとかなんとか。