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反応_3


 昨日文化棟へ行ったが、今日も文化棟へ行く。授業の終わるチャイムを聞き流して、すぐに向かったのだが、なぜかカゲはまだいなかった。


「……あれ? まだ来てないのかな?」


 まだ来てない……はずはない。私はカゲが文化棟以外にいるところを見たことがないし、彼の居場所はここのはずだ。誰もいないのは退屈である。仕方なしに、そういえば頼まれていたかもしれない資料整理の続きをやることにした。


「……新聞多くない?」


 新聞のやま、ヤマ、山。どれも古い新聞だ。色褪せていたり、シミができていたり。中にはくっついてしまったものもある。てっきり掃除用に残してあるのかと思ったが、こんなに古い新聞でなくても、最近の新聞を使えば良いはずだ。


「何か、理由でもあるのかな?」


 残していたということは、何かしら理由があるはずだ。しかし、幾つか中身を見てみたが、特に思い当たる節はなかった。


 ガチャッ。


「……あぁ、ここにいたんだ」

「カゲ!」

「いつもの部屋にいなかったから、こっちかなって」

「どこにいたの? 見当たらなかったから、資料整理に来たんだけど」

「悪かったね。今日の朝の掲示板も盛況だっただろ?」

「そうなの! いつも通り女の子が登校してきて、みんなそこから続々と来たと思ったら、キャーキャー悲鳴上げていっぱい写真撮ってたの!」

「そりゃ盛り上がったようで何より」

「カゲの考えた話使って良かった! ……またよろしくお願いします」


 私は胸の前で手を合わせ、カゲを拝むように目を閉じた。


「やめてよ。俺神様じゃないし」

「つい」


 ありがたくて拝んでしまった。ハッキリしないカゲで、全体の見えないところが、ちょっと本物の神様っぽい。


「……あれ? 何持ってるの?」


 カゲは手になにか持っていた。


「え、あ、これ?」

「うん」

「あー……新聞」

「カゲ、新聞読むの?」

「たまにね。……七不思議を作るにも、ちょうど良い資料になると思うけど」

「そう? でも、確かにそうかもね。事件事故の話も載ってるし、悪くないかも」


 私はさっきまでぼんやり見ていた古い新聞を読むことにした。


「大きな事件事故なら、話の素になるかな?」

「なるかもしれない……けれど、しっかり精査しないとただの不謹慎な話にしかならないよ」

「が、頑張るよ……」


 怖がらせたいが、誰かを悲しませたくはない。傷付けたくもない。


「そっちの新聞は、何が書いてあるの?」

「これは……事件の話だよ」

「どんな?」

「……」


 カゲは言い辛そうだった。手に持っていた新聞をクシャリと握りしめて、見えない彼の目は、私を見据えているように思えた。


「……女の子が、自殺したんだ」

「自殺で新聞に載るの?」

「そこへ至るまでがね。……彼女の辿ってきた人生が、壮絶だったんだ」

「だから? 新聞に載ったの?」

「そんなところだよ」

「可哀想。……七不思議にできる?」

「俺の話聞いてた?」

「聞いてた」


 大きな溜息を吐いて、カゲは呆れたように言った。


「不謹慎」

「……ごめん」


 そんなつもりはなかった。ただちょっと、ネタを思いつく糧になれば良いなと思っただけだ。


「……小さなころから、親きょうだいから虐待を受けていた。幼稚園へは行かず、小学校は休みがちだったけど通った。中学校も。……いじめにあっていたみたいだね。それでも、高校も通ったと。虐待されてもいじめにあっても、彼女は頑張った。……その結果が」

「自殺?」

「そうだよ。そうだ」


 カゲの声は震えていて、怒っているようにも泣いているようにも感じた。こういう時、表情がわからないのは不便だ。


「古い新聞のほうが、規制も少なくて詳しく載ってるんじゃない?」


 話のすり替えだと思ったが、私は気まずさからその話に乗った。


「それもそっか。こっちの記事読んでみるよ」

「この学校の七不思議でしょ? こういう記事だけじゃなくて、学校が出してるちっちゃい新聞とか、今までの卒業アルバムとか、そういうのも見たら? 幸い、資料はいっぱいあるわけだし」


 この部屋を見渡す。カゲの言う通り、資料なら沢山ある。……というか、資料しかない。


「次の話を載せるまで、あと四日か……」

「考えるのも意外と大変だよな。俺は一依の話聞いて、自分が思いついたことを付け足してるだけだけど。一から物語を作るって大変だと思うよ」

「だからあの朝一の反応が、めちゃくちゃ気になっちゃうんだよねぇ。自分は頑張ったと思ってるし、それなりに自信もあるからさ。どうしても良い反応がもらいたいなって」

「真っ当な感覚だと思うよ?」

「ありがと」

「……楽しみにしてるよ、俺は三日後を」

「うん、うん」


 カゲから期待をされたら、張り切るしかない。張り切って良い話を作るしか。私はそれが楽しいから、やりがいを感じていた。今までの人生で、一番やりがいを感じているかもしれない。だって、こんなに期待されることはなかったから。


 それから毎日資料を漁って、ネットで学校の七不思議や都市伝説について調べながら、あーでもないこーでもないと話を練った。昔の新聞は自分の知らない事件や事故が載っていて、読み物としてつい何時間も読んでしまった。学校新聞は、今と昔を比較できて面白かった。書く人の個性も出ている。今もまだ、文化部として新聞部が存続している理由がわかった気がした。


 この新聞に負けないように、私は読んだ話を頭の中で反芻させて、一本の話を作った。第四不思議となり得る話を。

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