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反応_2


 「ふあぁ……なるほど……」

「名前が消されたら戻ってくる感じ。もっと理由付けしても良いと思うけど。簡易だね、まだまだ」

「でも、いなくなったことと帰ってきたことに、ちゃんとした理由ができたよね」

「大事かなって。みんな戻ってきたから、この話はハッピーエンド。……実は、昔いなくなった子は戻って来てないから、ちょっとバットかも」

「制服の違う……って子たちだよね。時間が経ち過ぎていた……って理由はできるよね」

「そうだね。じゃあ次は、バッドエンドにしようか」


 カゲの作るバッドエンドが、どんなものなのかすごく気になる。私はじっとカゲの口元を見た。


「そうだね、Bちゃんが戻ってきたところまでは同じにしようか。ひとりは戻ってきた。その後」


 ***


 Bちゃんが帰ってきたから、先生たちは全員の名前を消そうとしました。ただ、消えるボールペンを使ったのは、Bちゃんだけだったみたいで。消すことがないからか、鉛筆やシャープペンシルで書いている子はいなくて、どうやって消そうかと、先生たちは躍起になっていました。Bちゃんが戻って来た今、みんなを解放できるかもしれないのに、消せない名前がある。砂消しゴムは、表面をなんとか削ってはくれたけど、紙も同じくダメになっちゃったんですよね、削れた部分が薄くなって破れて。修正液は、やっぱり文字を上から見えなくするだけで消してはいない……という扱いなのか、そこから何日経っても、Bちゃん以外誰も戻って来てくれませんでした。書いてあるのは小さくて薄い紙だから、何を試すにも限界が出てしまって。


「いっそのこと、なかったことにすれば良いんじゃないのか……?」


 誰だったかはわからないけれど、先生の一人がそう言ったのを覚えています。それを聞いた担任は、生徒手帳を持って職員室を出て行きました。


 何でこんなことを知っているのかって? 他の生徒へ教えない代わりに、担任に無理を言って同席させてもらったんです。だって、私の拾った誰のかわからない生徒手帳に、いなくなった人たちの命がかかっているかもしれないんですよ? 私は当事者なんです。私だって、向こう側へ行っていた可能性があるんですから。


 ――えぇっと、担任はそのまま中庭まで行って、コンクリートの地面の上で生徒手帳を燃やし始めました。正確には、名前が書いてあるページを。先生、すごくストレスが溜まると、煙草を吸う人だったんですよね。生徒には隠してたみたいだけど、ニオイでわかります。ウチはよく、父が吸っていたので。


 チリチリと生徒手帳の紙が焼けていくと、みんなの名前があった場所が黒く焦げて穴も開いて、すぐに灰になりました。ユラユラと揺れる炎は、少しだけ綺麗でした。


 ……予定外だったのは、生徒手帳自体がすべて燃え尽きてしまったことでしょうか。燃え尽きて、後には少量の灰と焦げたニオイに、少しばかり焼けたコンクリートしか残らなかった。該当のページだけ燃やして終わりにするつもりが、全部燃えちゃったんですよね。私はその一瞬を見逃していて、先生が「やばい」と言った時には、もう全体的に火が点いていました。そんな状態でも『名前を燃やして消した』ことには変わらないと思いました、私は。


 でもね。こういうときにピッタリな言葉だと思うんです。「運命とは時に残酷である」って。


 なぜかって、知りたいですか? ……そりゃあそうか……ここまで話したなら、結果どうなったのか勿論知りたいですよね。私だって知りたいと思いますよ、同じ立場なら。


 黒とか白っぽいカサカサした粉と小さな塊、そして灰が、みんなの家の前に置かれていたそうです。白い紙が敷いてあって、その上に盛られるようなかたちで。誰かの悪戯でもおかしくないけれど、どの家も丁寧にそれを袋や箱へ入れて、学校に連絡したそうです。……みんなが誰かって? 勿論行方不明になった生徒ですよ。

 示し合わせたように置かれたソレは、粉っぽくってすえたニオイがしたそうです。悪戯かもしれないけど、それだけ置かれた家は、生徒は戻って来ませんでした。Bちゃんの家の前には、置かれなかったそうです。

 保護者のひとりが、ソレがなんなのか、成分を調べたんですって。……人の骨でした。全部ひっくるめて、遺灰って意味なのでしょうかね?


 燃えちゃいました、みんな。みんな。


 担任はそこから気を病んで、学校へは来なくなりました。この流れなら、誰だって思いますよね?


『自分が生徒手帳を燃やしたから、名前を書いた生徒たちも一緒に燃えてしまった』


 って。すぐに新しい先生がやってきて、今も私のクラスの担任をしています。……生徒が消えたことも、戻ってきた生徒が一人だっていうことも、前の担任がしてしまったことも。何も知らない先生が、ちょっと羨ましいです、私。


 ――たまに、考えちゃうんですよね。今ここにいるBちゃんは、私がクラスで一緒に過ごしてきた、あのBちゃんなのか……って。だってそんなの、誰にもわからないじゃないですか! 文字の跡は残ってたから、百パーセント消えたわけじゃないですし。ときどき、意識がなくなったみたいにボーっとしているBちゃんを見ていると、なんだか無性に不安になるんですよね。


 ***


「……とまぁ、こんな感じなんだけど」

「Bちゃん以外全滅エンド……確かにバッドエンドだ。しかも、Bちゃんも本当の意味で無事なのか不明……か」

「わりと面白く仕上がったんじゃない?」

「バッドエンド利用させてもらう! ふふふ、明日を楽しみにしてなさい!」

「張り切ってるねぇ」


 ――相変わらず、一番に登校してきたのは例の女子生徒だ。いつもと変わらない日常に突然現れる不思議は、もう彼女を不安にはさせずに、その顔に笑みを称えさせるようになっていた。

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