表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/51

第三不思議【持ち物検査】_3


 先生の言った通り、それから三日経っても、一週間経っても、半月経っても、A君は学校へ来ませんでした。席は残してあるんです。だから机はそのままだし、彼が教室に置いていった教科書や体育館シューズ、下駄箱の上履きもそのままで。フラッと「おはよ」って教室に入ってきても、おかしくないと思っていました。……というか、みんなそれを望んでました。望んでいたんです、戻ってくるのを。だって別に、不良でもなんでもなかったし。普通の子だったから、悪い付き合いも想像できなくて。そういうトラブルに巻き込まれていないなら、きて欲しいと思っていました。……元気な姿を見て、安心したかった。


 でも、その話にこれ以上の進展はありませんでした。A君は行方不明のまま。時間だけが過ぎていって、気が付いたら次の持ち物検査の日が来たんです。生徒手帳を持っているかどうかの。


「……これ、名前はどうしたんだ?」

「洗濯して消えちゃったんです」

「おいおい、洗濯する前に何も入れてないかチェックしないとだな」

「お母さんがそのまま洗っちゃったんだもん」

「母親のせいにするんじゃない。自分で確認しなさい、自分で」

「……はーい」

「はぁ。乾いたときにちゃんと書いておけよ」

「ごめんなさい、今書きまーす」


 この子もBちゃんとします。今度はBちゃんが生徒手帳を洗濯していました。ポケットティッシュよりはマシですよね。幼稚園の時、小石を園の制服に入れっぱなしで洗濯しちゃったこともあります。その辺よりはね。まだカバーもついてますし、水に溶けにくいですし、ウッカリ選択しても壊れなさそう……くらいのレベルですけど。

 やっぱりあるあるなんだな、って思うと同時に『そういえばA君も生徒手帳を洗濯してたな』って思ったんです。この持ち物検査のときに。だからどうしたってこともないですけど、妙に引っかかっちゃって。


 何か言われたのは彼女だけで、そのまま授業へと入っていきました。私はずーっと、こう、魚の小骨が喉の奥に引っかかったような感じで、上手く言えないですけど納得……? できていなくて。帰り際、声をかけてみました。


「私もこの前、うっかり洗濯しちゃったんだよね。二回目だから、正直買い換えたい」


 って。これは本当の話で、私、生徒手帳の存在忘れて、制服洗っちゃって。二回目は、もうこれは自分でもアホだなって思うんですけど、サブバッグとして使っていた綿のトートバッグを洗濯に出したんですよ。中身全部出したつもりだったのに、底にこれだけ残っていて。


 「あー」って言いながら、Bちゃんは笑っていました。その笑顔にホッとしたりして。


「あの生徒手帳、私のじゃないんだよね」


 そう言って私を見たBちゃんの目は、なんだか見たことのないくらいおっかなくて、ただの黒目なのにヒヤッとする冷たさを感じました。


「そうだったんだ! じゃあ、Bちゃんのは綺麗なまんまだ」


 何て言って良いかわからなくて、当たり障りなく返して。で、ちょっと待てよ? って。Bちゃん、躊躇うことなく名前を書いていたんですよね。その、自分のモノじゃない生徒手帳に。Bちゃんにその空気が伝わったのか、聞いていないけれど教えてくれました。


「今日生徒手帳忘れちゃって。廊下に落ちてたんだよね。名前も読めなかったし、職員室へ届けるつもりだったんだけど、持ち物検査始まっちゃったからさ。ちょっとだけ拝借したの」

「……名前、書いちゃって大丈夫だった?」

「あれ、消えるボールペンだし。あとで消して明日にでも職員室へ持って行くよ」

「そっか」


 消えるなら良いのかな……? でも、落とした人は困ったんじゃないのかな……? ばっかり、頭の片隅に残りました。少なくとも、その日は全学年一律持ち物検査をしていたので。誰かが落としたなら、その人は学校へ持ってきたはずなのに手元になくて、怒られたはずですよね。可哀想だなって。ちゃんと持ってきたのに。


 それからは特に会話もなくて、すぐに別れました。私はバスに乗ってまっすぐ家に帰ったんですけど。


 ――次の日、Bちゃんはきませんでした。A君と同じように。


 気味が悪くないですか? 立て続けにこんなことが起こるなんて。でも、たったまだ一日だったから。風邪かもしれないし、何か用事があったのかもしれないし。私が気にし過ぎなのかな、って。


 結果、やっぱりBちゃんがこのあと登校することはありませんでした。


 クラスで二人もいなくなったら、空席も目立ちますよね。でも、先生もこれ以上のことは教えてくれないし、私たちも調べられないし。まさか、ご家族に声をかけるわけにもいかないし。なんだかな……って思ったまま、時間だけ過ぎていきました。


 持ち物検査は、それ以降もありました。普通の持ち物検査と、生徒手帳の持ち物検査。生徒手帳に関しては、私のクラスはみんな持ってきてたから引っかかることもなく。チラホラと、たまに他の学年やクラスで忘れた人がいたという話は聞きました。人数は多いから、毎回一人くらいいてもおかしくないですよね。


 ……そしてやっぱり、持ち物検査が終わってから、誰かがいなくなるんです。一人、また一人……と。クラスも学年もバラバラで、共通点はありませんでした。先生たちも必死になりますよね。生徒たちが行方不明になって、それが増えていくんだから。周囲に説明なくて済む話じゃないですもん。子どもの私が不安になるんだから、大人はもっとですよね。

 中には子どもの送迎をするお母さんもいたし、普段は違うグループだけど、電車やバスが同じだったり、家の近い子は示し合わせて一緒に帰ってました。ウチですか? ウチは兄と連絡を取り合って、自宅の最寄り駅で待ち合わせして帰りました。こまめに連絡を入れて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ