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共同_1


 ちょっとした沈黙。話し終えた私は、ふぅ、と一息ついてからカゲに話しかけた。


「どう? 怖かった?」

「まぁまぁかな」

「え、まぁまぁ? 結構自信作だったのに……」


 私はあからさまに不服な顔をした。一晩で考えた割には、良いできだったと思っているのに。なかなかカゲの判定は厳しい。


「……最初は【タナカ先生】が不審者の隠語で、不審者が入ってきたからみんな注意しろって話だと思った。不審者なのはそうだけど、そっちが得体の知れないものだったとはね」

「イイ感じに処理できたと思うんだけどな? 面白いは面白かったんじゃない?」

「面白かったよ。一話目よりも派手になってるし」

「この手の話に、恨みつらみってつきものじゃない?」

「そうかも」


 面白いとやっと言ってもらえて、私は得意げな表情をした。一生懸命考えた甲斐がある。


「そうだ、ちょっと追加しても良いんじゃないかな? って部分があったんだけど。話してみても良い?」

「どこ?」


 良くできていたと思ったが、更にここから良くなるのであれば、それは是非参考にしたい。二人で一緒に作業をしている感じがして、なんだか少し嬉しかった。


「最後のアナウンスのところ。アナウンスを聞いて、それで大人が一人にならないように……って、下駄箱で友達と喋ったでしょ?」

「うん。……おかしかった?」

「いや? でも、そこにこういうのを追加したらどうかなと思って」

「うんうん」

「ホラ、話はアナウンスがいきなり聞こえてきたけど、そうじゃなくて……んんっ」


 一つ咳払いをして、カゲはまるで役に入ったかのような喋り口調で、私の考えた部分をそのまま話し始めた。


「僕はね、その後も何度か遭遇したんだよ、そのアナウンスに。心がシャットアウトしているみたいに、もう何にも反応しなかった。僕自身に危険がなかったのもあるかもね。そして、卒業式を迎えるほんの少し前。――最後のアナウンスを聞いたんだ。すごく寒くて、何なら雪も降ってたよ。でも雪だるまを作るには足りなくて。かなり降ったと思ったんだけど。もう帰るつもりだった。遅くなる前に。友達三人と教室を出て、階段を下りて下駄箱へ向かって」


 その後ろに、自分の考えた続きも添えて。


 ***



 下駄箱からそれなりに距離はあるけど、普通に見えるんだよね、門が。そう、校門ね。いつも、先生たちがアナウンスのときにチェックしているだろう校門だよ。その時ふと……本当に無意識だった。ふと、校門のほうへ目をやったんだ。


 ――そうしたら、見えたんだよ。ぼんやりと、でも、絶対に。大人の背丈くらいの、人影が。そして、目が合ったんだ。……目なんてないはずだ。だって、真っ黒な人型ではあったけど、ただそれだけだったんだから。何にもついていないはずだった。……それなのに、それなのに。目が合ってしまった。


 その瞬間「ダメだ!」って思ったよ。アレは間違いなく「タナカ先生を呼ぶ者だ」……って。心臓が止まるかと思った。話には聞いていたけど、まさか僕にも見えるなんて……って。思わずサッと目を逸らして、友達と話すフリをして、もう一度そっと校門へ目をやったんだけど。その人影は、もう見えることはなかった。目が合ったと思ったのは、気のせいだと祈りたかった。


 そしてすぐに理解したよ。アレは移動した、って。


 つまりは、大人を探しに行ったんだって。


 怖かったけど、勇気を出して聞いてみたんだ。なんでもないフリをして。「今、その校門に誰かいなかった?」って、友達に。友達は見てないって言ったけど、あれは間違いなく動くナニカだった。人の形をした、ナニカだった。


 今にも跳ねそうな心臓を手でグッと押さえて、友達に言おうとしたんだ。「そっか、気のせいだよな」ってさ。なにもないつもりで帰ろうとして、でもやっぱり駄目だった。


 ***


 そう言い終えたカゲは、表情は見えなかったが満足げに思えた。


「どう? ここから、タナカ先生呼び出しのアナウンスが入る」

「へぇ、なるほど」

「このあと、麻痺してる僕は『またか』って思ってるけど、そうじゃなくて『まだ来るのか』って恐怖を感じるように変えると、話も繋がるからよりイイよね」

「カゲ、才能あるんじゃない?」

「文章の?」

「妄想の」

「言い方」


 私はカゲの案を採用することにした。こっちのほうが、怖さに深みがあると思ったからだ。ずっと存在するかわからなくて、ガワだけ知って表面をなぞるより、そのガワに触れて中身もすべてを理解したほうがより怖い。少なくとも、私はそう思う。


「これ、また校舎の中央土間に貼りだすの?」

「もちろん。形式は、第一不思議と同じだよ。そのほうが、繋がってるし怖くない?」

「そうだね、怖いかも」

「でしょ? またあの、一番に登校する女の子が第一発見者になるのかな?」

「順当にいけばそうだよね」

「やっぱり、連続して貼られてるほうが怖い? 昨日、今日……って」

「そりゃそうじゃない? また……って気持ちになるでしょ?」

「でも、毎日出すのは話を考えるのが大変になっちゃう」

「……じゃあ、何個目の不思議なのかで、出すスピードを調節したら? 第一不思議が今日発見されたでしょ? その二日後……明後日に第二不思議を。第二不思議を出した三日後に、第三不思議を」

「なるほど」

「最後は第六不思議を出してから七日後ね。それなら、少しずつ出る期間は空いてくけど、数がリンクしているから気付いた人の恐怖は煽れるんじゃないかな」

「すごいねカゲ。よくそんなこと思いつくんだ」

「ちょっとずつ延びれば、一依の話を考える時間も増えると思ったから。それだけだよ」

「ありがと」


 カゲは面白い。私たちは同じじゃないのに、自分と同じように私のことを考えてくれるなんて。

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