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第二不思議【タナカ先生、至急、職員室までお戻りください。】_3


 怖かったけど、学校へはちゃんと行ったんだ。それくらいで休むのもな、って。その日も相変わらず生徒会室で勉強してたんだけど、顧問の先生は何も言わなかった。だから、僕も何も言わなかった。

 みんなバラバラに帰っていって、気が付いたら三年生の先輩と、二年生の先輩と、僕と顧問の先生しか生徒会室には残ってなかった。わからないところはもう教えてもらったし、そろそろ自分も帰ろうかなって思ってたんだよね。なんとなく、一番最後には帰りたくなかった。


 ……三年の先輩だったと思うんだけど、不意に口を開いて言ったんだよね。


「タナカ先生なんてこの学校にいたっけ? 三年間一度も当たったことないと思うんだよな」


 って。


 僕の知ってる範囲にはいなかった。少なくとも、一年に関係する先生の苗字に、タナカは含まれなかったんだ。だから、勝手に僕は二年か三年に関係する先生だと思ってたんだけど。


「一年にいる?」


 ってその流れで聞かれたから「いないですね」って答えて。


「二年はどう?」


 って言ったあと、二年の先輩もしばらく考えて「いないかな」って言ったんだよ。


 一瞬シーンってした後に、みんな必死に考えているのがわかったよ。みんな、タナカ先生を探してたんだ、頭のなかで。僕だって探した。でも、何度僕が会ったことのある学校の先生の名前と顔を浮かべても、一人も一致しなかった。

 それはみんな同じだったみたいで、その後みんなして黙っちゃったんだよ。僕も含めて。聞いてきた三年生も、同じように答えた二年生も。


 痺れを切らしたのか、言い出しっぺの三年生がファイルを一つ持ってきてね。パラパラめくって、一生懸命何かを探してて。……多分一通り必要なところを見て、言ったんだ。


「俺がいたこの三年間の集合写真を見ても、どこにもタナカなんて名前は載ってない。でも、一年の時にも二年の時にも、俺はあの放送を聞いている」


 ……先輩の持ってたファイルは、今までの教員の集合写真がしまわれているものだった。何年分あったのか知らないけれど、必要なのは先輩がいた三年間だから、じっくりその三年分を見たんだろうね。でもいなかった。

 僕も見たかったから貸してもらって、先輩と同じように名前を確認していったんだよね。名前ってさ、写真には載ってないんだよ。僕も入学した記念に学級写真と職員写真を買ったんだけれど、写真の配置で名前だけ載ってる紙が入ってるの、写真と一緒に封筒に。ファイルにも同じように入ってた。それで先輩みたいに探したけど、僕にも見つけられなかったんだ。二年の先輩もやったよ。でもダメだった。


 そうなったら、もう生徒会の顧問の先生しか答えを持っていそうな人はいなくて。三人分の視線が、期待とともに顧問へ注がれたよ。


 今まで何も言わなかったけど、流石に黙っているには限界があるだと思ったのか「絶対に他の生徒には言うな。先生にも」って前置きして、あの放送について教えてくれたんだ。


 まず、呼ばれている【タナカ先生】は存在しなかった。……それはやっぱりなくらいの気持ちだったよ。だって、名前がそもそも載っていないわけだし。誰も知らない先生が、校内に存在する訳もないし。


 知らなかったけど、この古い校舎も、昔々に一度建て直したことがあったんだって。それで、今ある校舎が建った。その前の校舎を立て直した理由が問題でね。……酷く杜撰な建築だったらしくて、建物の一部が倒壊したらしい。……たまたま授業後だったから、授業中ほど生徒は残っていなくて。校舎だけだから、体育館や実験室なんかのある別棟は無事だった。


 ……なんだけど。校舎に残っていた生徒がゼロじゃなかったからね。犠牲者が出たんだって。怪我人と死亡者と、両方。こんなことが起きたわけだから、当時新聞にも載ったらしい。裁判沙汰になって、信用も落ちてその建築業者は倒産、新しい業者に校舎の建て替えを依頼したらしい。そりゃあ、そんなぶっ壊れた校舎で授業もできないよね。一部を直したって同じ校舎に変わりはないし、次はどこが壊れるのか気が気じゃないよ、そんなの。


 それでも、後遺症を負った生徒もいれば、亡くなって戻ってこない生徒もいるわけで。保護者は許さなかった。校舎の倒壊は事故だけど、保護者のは故意の事件だよ。建築業者の社長は殺された。保護者の一人に。社員も……関わった人間は事故に遭ったり自殺したり。……事故かどうかは怪しいけれど。それに、子どもを失ったことに耐え切れず、後を追う親御さんもいたんだって。一人二人じゃない。その死は、抗議も含めていたと言われているらしい。


 校舎の倒壊で亡くなった生徒より、その後の事件で亡くなった大人のほうが多いって言われてる……って。それで、新しい校舎が建ってしばらくしてから、先生が怪我をする事件が多発したらしい。でも、誰がやったのかはわからないまま。共通していたのは、それは全部授業後で、一人でいた先生が怪我をしたこと、誰かがわからないが人の気配を感じたこと。職員室にいた先生が、その前後で校門のところにいる人影を目撃していること、だった。生徒は不思議なことに、一人も怪我をしなかった。


「自殺した保護者が、今も建設業者の人間へ復讐しに来ているんじゃないか」


 って、まことしやかに囁かれ始めたんだ。現実的ではないけれど、辻褄は合う。教師は建築業者じゃないけれど、そこの区別はつかなくて、大人と子どもの区別しかつかないんじゃないかって。それに自分の子どもも生徒だったから。もしくはさ、生徒を守れなかった教師に怒りを抱えてたんじゃないかな? どうしようもないことだから、逆恨みだよね。

 そこから、今のアナウンスが始まった。教師を一人にしないために。アナウンスが流れた後、教師は職員室へ急いで戻るか、生徒のいる場所があればそこへ合流する。人影が校門で見られたのは二回だから、職員室にいる人間が校門をチェックして、二回目の人影が消えた時に、安全になったアナウンスをする。


 それが、この不思議なアナウンスの正体だった。

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