第二不思議【タナカ先生、至急、職員室までお戻りください。】_2
そのころにはもう外も暗くなっていて、先生も時間が気になるのか時計を見ていて、ぼんやりこの流れで解散すんのかな? って考えてた。
そんな時だったね。
『――連絡します。連絡します。対応が完了しましたので、担当以外の方は引き続き持ち場での作業をお願いいたします。――繰り返します。連絡します。連絡します。対応が完了しましたので、担当以外の方は引き続き持ち場での作業をお願いいたします』
聞いたことある? こんな校内放送。さっきのタナカ先生の呼び出しに比べたら、イマイチ対象もわからないし、対応って何の対応? って感じだし。持ち場での作業? 何それ? って。わかるのは、僕ら生徒向けじゃないよね、ってことくらい。後は、多分、一回目のタナカ先生に宛てた校内放送と、もしかして繋がってるのかな? 担当ってタナカ先生? くらいでさ。あんまり要領を得ない放送だったよ。耳馴染みもないし。不思議だよね。
「……もうこんな時間か。ちょうど話も落ち着いたんじゃないか? ホラ、もう帰るんだぞ」
って、その教科担任が言って。僕らも「はぁい」って帰りました。この声掛けは、最初に声をかけられた時とまた違ったんだよね。顔はちょっと強張ってるのに、声色は落ち着いてて穏やかっていうのかな。またチグハグだったけど。何か聞くのも違うかと思ったから、素直に帰ったよね。みんなね。
――そこから次は、三か月くらい経ったころだったかな。……四か月だったかも。そこは定かじゃないけど、あんまり話とは関係ないと思ってるから、ちょっとくらいズレてても良いよね。昔の話だし。あ、でも、同じ一年の時の話だから。
その日は、生徒会の友達にくっついて、生徒会室にいたんだよね、そいつは気の良いヤツで。僕は生徒会のメンバーじゃなかったけど、誰でも自由に出入りしてたし、テストの時期だったかなんだかで、生徒会室で勉強してたんだよ。先輩もいたから、わかんないところ教えてもらって。部活にも入ってないから、先輩の知り合いいなかったんだけど、そこで知り合えたからめちゃくちゃありがたかったよ。ちょっとお菓子摘まみながら、みんなであーだこーだ言いながら、同学年同士でも得意な科目は教えて、苦手な科目は教えられて。青春って感じで、今思い出しても良い時間だったね。
なのにさ。
『――タナカ先生、タナカ先生、至急、職員室までお戻りください。保護者の方からお電話です。――もう一度繰り返します。タナカ先生、タナカ先生、至急、職員室までお戻りください。保護者の方からお電話です』
久し振りに聞いたよ。『これ前も聞いたな』って思って、同時イイ感じだった空気壊された気がして、無性にイライラして。思わず言っちゃったんだよね。
「またかよ」
って。でもさ、そんなこと言ったって、普通なら『タナカ先生、授業後によく電話来るんだな』とか『毎回対応してんだな』とか、思ってもそれくらいでしょ? ……生徒会の顧問の先生がさ、何とも言えない顔してたんだよ。だから『もしかして、もしかしなくてもおかしい?』って直観的に感じて。その後は黙ってたね。正確には、勉強に集中するフリしてた。全然集中できなかったんだけど。
おもむろに顧問が立ち上がって、開いてたドアと窓を閉めて、また席に戻って。ぼんやりと『そういえば、あのとき教科担任もおんなじことしてたなー』って考えて。
しばらくしたら、放送の入る音がしたんだよね。ちょっとノイズ音が走るでしょ? マイク動かしたり。タナカ先生宛のアナウンスの後は、前回セットで流れたアナウンスもあるから、必死に思い出して言ってやろうと思ったわけ。みんなを驚かせたい気持ち半分、自分の記憶力を試したい気持ち半分ってところで。
『――連絡します。連絡します。対応が完了しましたので、担当以外の方は引き続き持ち場での作業をお願いいたします。――繰り返します。連絡します。連絡します。対応が完了しましたので、担当以外の方は引き続き持ち場での作業をお願いいたします』
「――連絡します。連絡します。対応が完了しましたので、担当以外の方は引き続き持ち場での作業をお願いいたします。――繰り返します。連絡します。連絡します。対応が完了しましたので、担当以外の方は引き続き持ち場での作業をお願いいたします」
……ちょーっと声はアナウンスとズレたけど、僕一言一句間違えずに、同じセリフを吐けたんだよ。
思わず笑っちゃった。できちゃったから。その時のみんなの顔? 『うわ、コイツ何言ってんの?』って顔だったね。生徒はね。でも、先生は違った。
「やめなさい!」
って、結構な剣幕で僕は怒られた。……ちょっとふざけたくらいの気持ちしかなかったから、ビックリしたよ。その先生が怒る印象もそんなになかったから、余計に。僕だけじゃなくて、一緒に勉強してた友達も、生徒会の人間も、みーんな驚いてたよ。
その反応を見た先生は『しまった』って顔をして、咳払いしてからちっちゃくゴメンって言ってた。そう言われたら僕も謝るしかないから、ふざけてごめんなさいって謝って、その場は微妙な空気のまま逃げるように帰ったよ。もういたくなかったんだよね、その場に。たったそれだけなんだけど、やらかした感が酷くて。落ち込んだし、悲しかったし、複雑な気持ちになった。『それくらいで怒る?』って思ったあとに『あれ、もしかして知らないところでヤバいことが起きてる?』って気持ちが育ってきて。次の日学校へ行くのが怖かったよ。