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Best of You  作者: 貴理山 映帆
1年春編
17/18

メンター①

「よし、アップが終わったら早速1本目だ。先発(スターター)は新堂、山本、佐々木、永原、種島でいく。今日はいろんなラインナップを試す。その中でそれぞれが自分の役割を果たすだけでなく、プラスα、自分の強みをアピールしろ」


「「「はい!!!」」」


「ベンチスタートでも、いつでも出場できる準備をしておけ。いつ投入されてもいいよう、自分なら何をするか考えながら試合を見ておけ」


「「「はい!!!」」」


 村木先生の言葉に、チーム全体が強く返事をする。

 GW(ゴールデンウィーク)、5連休初日の土曜日の昼前。場所は鳳城(ほうじょう)市から車を走らせること2時間半、大都市圏の郊外に位置する敷地の広い私立高校。

 そこで開かれる交流試合が今回の遠征先だった。10近い参加校の中には全国区の強豪校も複数あり、会場全体のレベルは非常に高い。

 そんな会場に鳳西(ほうせい)のような全国での実績がないチームがいられるのも、村木先生のツテあってこそだろう。

 先発の5人は春の県大会と変わりなかった。

 PG(ポイントガード)に2年の新堂さん。165cmとサイズはないが、ハンドリングとゲームメイクはダントツでチームNo. 1の正統派PGにして県選抜選手。ちなみに村木先生目当てで入学した最初の選手である。

 SG(シューティングガード)には3年の山本さん。先発5人の中で一番目立つことは少ないが、172cmの堅実なシューターだ。

 SF(スモールフォワード)はエースの佐々木さん。180cmの3年生で、ドライブとジャンプショットを得意とするスコアラー。鳳西のエースだ。

 PF(パワーフォワード)主将(キャプテン)の永原さん。178cmながら厚みのある体格が特徴で、フィジカルに戦えるリバウンダー兼ディフェンダー。精神的にも鳳西の大黒柱である。

 C(センター)は188cmの長身を誇る種島さん。竜之介と同じ身長ながら、竜之介よりはパワーがあり、シュートタッチも柔らかい。体格の割にフィジカルに押し込むタイプではないが、守備面ではショットブロッカーとして活躍する。

 これが鳳西の鉄板ラインナップ。地方の公立高校としてはそこそこの高さと、2年ながら県選抜常連の司令塔、同じく選抜に選ばれているスコアラー。この布陣は流石に県内屈指だ。

 だが、強豪ひしめくこの会場の中では話は違う。総合力では下から数えたほうが早いというのが実情。寧ろそれが好都合だ。1ヶ月後に控える県大会、その直前に強豪校の胸を借りられるというのは、この上なく貴重な機会だ。


(だからこそ本来は、主力で試したいことを試したり、主力の課題を見つける機会にしたいはず……なんだけど)


 ベンチの隅で竜之介は思案を巡らせる。先生はなぜ大会1ヶ月前にもなって主力以外にも多くの機会を与えるのか。

 思い出されるのは数日前の主将と田島さんの言葉。その中にあって強く印象に残った『期待』という言葉。単純に考えれば、先生はベンチメンバーやベンチ外の先輩たちにも、この1ヶ月でまだまだ成長の余地があると『期待』しているということだろうか。

 しかし、成長の余地はベンチメンバー同様に主力メンバーにだって見込めるはずだ。増してなまじレベルが高いだけ、彼らを成長させる相手は限られる。で、あれば……。

 竜之介は視線をコートに向ける。そこには練習試合用のリバーシブルに身を包んだ先輩たちの姿があった。相手は隣県の強豪校、確か2月の地方大会で3位のチームだったはずだ。


「相原、何を考えてるんだ?」


 コートを睨みつけたまま口を真一文字に結んでいる竜之介に、隣に座った田島さんが声をかけてくる。

 その声に竜之介はハッと我に返る。


「あ、すみません。声出ししないと」


 コート上にいる選手に声をかけてやるのはベンチの仕事の一つだ。特に1年は積極的にベンチを盛り上げなければならない、そういった風潮が体育会系には往々にしてあるものだ。


「いや、いいよ。真剣な顔してたからさ、何を考えてるのか知りたかっただけだよ。聞かせてくれないか?」


 けれど田島さんはそういうつもりで聞いたわけではなかった。純粋に竜之介の思考に興味を持ってくれたようだ。

 田島さんの問いに、竜之介は改めて自身の思考を整理していく。村木先生の目論見はなんなのか、推測っていく。


「俺が考えてたのは、なぜ村木先生がI・H(インターハイ)予選の1ヶ月前になっても先発以外にもPT(プレータイム)を積極的に与えるのかってことです。『現有戦力の底上げ』という意味なら、それは先発5人の練度を上げることでも可能です」


「なるほど、確かに相原の言うとおりだ。先発5人、正確には三国を加えた6人だけど、アイツらの成長や連携の向上にリソースを割くという手もある。寧ろ、そっちが地方公立高校の常套手段……か?」


 田島さんは竜之介の考えに同意しつつ、その先を促してくれる。恐らく、というか間違いなく田島さんは“答え”を持っているのだろう。

 けれど、それをすぐに示すことはしない。コートから目を離すことなく、隣で竜之介の思考を、言葉を待っている。


「そう、それです。高校野球で地方の高校がエースで4番の天才を擁して甲子園まで勝ち上がるように。もしくは宮ノ里中が『戦術、三国辰馬』で勝ち上がったように。高校バスケの何を知ってるわけでもないですけど、俺はそう思っていました」


 竜之介は中学時代に対戦した宮ノ里中を思い出す。別に辰馬以外の選手を貶めるつもりはなく、彼らもまた真剣にバスケットボールに打ち込んだ少年たちであったということは前提として、それでもその在り方は『三国辰馬が戦術』と言う他なかった。

 あまりに突出した才能があるのならば、その才能を与えられたロスターで最大限活かす形が()()であるのならば、例え歪んでいたとしても、『ワンマンチーム』という謗りを受けたとしても、依存することは悪いことではない。

 部活動が教育の一環であるという前提を一度忘れてしまえばの話だが、少なくとも竜之介はそう考えていた。

 限られた時間、限られた環境、限られた才能。その中で勝利を至上命題とするのならば、チームの天井を最大化する手段があるのならば、選択しないことは“嘘”であるとさえ思っていた。

 そこまで考えて、竜之介の心臓はドキリと跳ねる。自分の発言が、目の前の田島さんにとって、とてつもなく失礼な考えに基づいていると気づいたのだ。


「すみません!俺、田島さんにすげぇ失礼なこと……!!」


「いいって、俺も相原も立場は同じベンチ選手だ。俺たちは他の監督なら今頃切り捨てられてもおかしくない存在ってことだろ?それは間違いないよ」


 3年の自らにとって酷な現実を、なんてことないように口にし、田島さんは息を一つ吐く。


「俺が気にしているのはその先だ。それなのに、何故、俺たちはまだ当落線上に置かれているのかって理由の部分だ。その問いに対する相原の考えが知りたいんだ」


 それでもなお、田島さんは柔らかく微笑むだけだった。その目の奥には数日前に見た、あの光が宿っている気がした。

 本当はコートで起きていることに集中して、バスケへの理解度を上げるべきなのかもしれない。この後、自分もコートに入るのなら尚更だ。

 それでも、竜之介は田島さんから与えられる言葉、田島さんが竜之介の中から引き出そうとしている思考を逃すわけにはいかないという直感に従うことにした。

 

「俺は……俺はずっとストイックにやってきたわけじゃないス。与えられた練習はちゃんとやってたけど、練習が終わったら『あー、今日も終わった』って寮に帰って……一日一日をやり過ごしてただけの選手です。でも、分かることが一つだけあります」


「分かること?」


「それは勝利を目的としなくなった瞬間、全ては“嘘”になるってことです。コートに出る以上、チームとして試合をする以上、勝つことを目的として、そこに全てを注ぎ込むべきだ」


「なんだか相原らしくない言葉だな」


 田島さんの言うことはもっともだった。とても普段の竜之介の態度からは想像がつかない言葉。それは竜之介自身も感じていた。自分にこんな言葉を吐く資格はないと。


「……そうですね。俺は勝利に貪欲なアスリートじゃない、俺がやってきたことは辰馬なんかと比べておままごとだって分かってます。それでも……それでも俺はアイツらと『負けても悔しくないバスケ』をしてきたつもりはないです」


 竜之介が口にしたのは、なけなしのプライドだった。高校入学直前に、誰よりも自らが自分の才能を諦めていたと気付かされ、打ちひしがれた。その時でさえ、密かに手放せなかったプライド。

 例え自分の甘さ、弱さを山ほど突きつけられ、それを否定できなくても、少なくとも勝利を目指していたあの時間を、あのチームを否定されるわけにはいかなかった。


「だから、俺たちが当落線上に置かれている理由が『みんなに出番と居場所を与える』なんて綺麗事なら、それは“嘘”です。でも、そうじゃないと思う。村木先生はそんな浅はかじゃないし、先輩たちはそんな生温い優しさや同情で喜ぶような選手たちじゃない」


 同情で与えられた立場なんてものは、他でもない選手自身が強く屈辱に感じるもので、惨め以外の何者でもない。それは欺瞞で、寧ろ選手たちを侮った教育とは程遠い何かだ。

 自分が本当に必要とされているかどうか、それが分からないほど竜之介は鈍感にできていなかった。


「なるほど……。相原はそこまでこのチームを、俺たちを買ってくれてるんだな」


「当たり前ですよ。だからこそ俺はあの日、心が折れかけたし、こうして今ここにいるんです。だから、ここに“嘘”はない。それは分かる……それは分かるんですが……」


「ははは。相原、お前……」


 またも頭を悩ませる竜之介だったが、田島さんは何がおかしいのか、今度はカラッと笑い出す。


「田島さん、俺、なんかおかしなこと」


「田島、三国、出番だ!山本と佐々木と交代だ!」


 その理由を問おうとする竜之介だったが、遮るように村木先生の言葉が鋭く響く。


「「はい!!」」


 返事をし、勢いよく立ち上がる二人。ちなみに辰馬は先生のすぐ近くに座っていた。

 こうなってしまっては、竜之介が聞けることはない。そう思っていたが、田島さんはリバーシブルの上に羽織っていたTシャツを手早く畳みながら、竜之介に最後のアドバイスをくれる。


「相原、お前はもう答えに辿り着いてる。というか最初から答えは出ていたんだ。全ては勝つため。そのために俺たちにチャンスが与えられてるんだと、俺は思う」


「……そりゃそうでしょうけど、俺が知りたいのは」


「なぜ勝つための方法がベンチの起用なのか、だろ?その答えはな、俺たちが目指してるレベルにあるんだ」


 手早い割に綺麗に畳まれたTシャツをベンチの下に放り投げ、田島さんは竜之介に背を向ける。


「お前がらしくないことを言ったから、俺も言ってみることにする」


「田島さん?」


「俺のプレーを見ててくれ。俺がお前に答えを示す、そうできるようにベストを尽くすよ」


 珍しく不敵な言葉を呟くと、田島さんはテーブルオフィシャルの方へと向かっていった。

テーブルオフィシャル:タイマー等が置いてあるコート脇中央にある長机。そこに座って試合の進行をする人たちです。各種タイマーやファウル数の表示、スコアをつけたりする仕事です。通称『TO』。ちなみにバスケットボールには他にも頭文字がTOとなる用語が二つあり、タイムアウトとターンオーバーがそれに当たります。ややこしい。余談ですがターンオーバーは、差別化のためにTOVと表記されることもあります。

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