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Best of You  作者: 貴理山 映帆
1年春編
13/18

先輩と後輩①

今更ですけど、基本的に一人(ひとり)二人(ふたり)の場合は漢数字で表記しています。なんか気持ち悪いので。3以上の場合は英数字です。これもこれでしっくりこないんですが、四人とか書くのも読みづらいし。

 あれから数日後、木崎さんと彼女の同伴をはじめ数人のマネージャー希望者が見学に訪れた。そして、誰も二度は来なかった。

 GWを目前に控えた、4月の第4週。少し前は寒さに顔を顰めたり、桜が咲かないことにヤキモキしていたのに、気づけば数日に1日は猛暑と言って差し支えない温度へと変わっていた。

 帰郷、幼馴染との対立、人生を変える覚悟、そして高校生活。全てが刺激的に過ぎていくが、世間的にはたった1ヶ月と少しの間の出来事だった。

 ここしばらく、いつになく早起きし、竜之介は始業前に体育館に通っていた。勤勉なスポーツマンを象徴する行動、所謂「朝練」だ。

 正直なところ、竜之介は辰馬と違い先輩たちに馴染めているわけではない。竜之介は目上の人間に可愛がられる性質(たち)ではないのだ。だから、先輩たちも練習している体育館で朝練をすることに気が引けている自分もいる。

 何せそれは竜之介にとって、特に仲良くもなく、自分を品定めしているような先輩たちに


『自分はバスケが好きだ』


とメッセージを送っているも同義で、自らの能力に自信がない人間にとって、それはハードルの高いことだった。

 けれど、下手だろうがなんだろうが、自分のバスケへの愛について、もう誰にも遠慮しないと決めたのは竜之介だ。辰馬と晴にもらった勇気が、後退りしかけた背中を押してくれる。それどころか、時折勢いよくしばいてくる。

 だから今日も今日とて、竜之介は早起きして自転車に跨る。初めて練習に行った日は天気が悪かったので三国父に送ってもらったが、相原家と三国家は自転車(チャリ)通学圏内だ。

 春の早朝。やる気を削ぐようなだるんとした生暖かい空気と、全身にもたれかかる眠気を引き裂くべく、竜之介はペダルを強く踏み込む。

 そして、坂道を走らせること僅か数十秒。三国家の前では丁度、晴も家を出るところだった。ジャージ姿の晴がいつも以上にキリッとした目つきで自転車を漕ぎ出そうとしている。なんと真剣な表情であろう。


(いや、アレは多分眠いだけだな)


 すこぶる機嫌が悪そうな晴に声をかけるか一瞬悩むが、無視して目の前を通れば、その方がかえって機嫌を損ねそうだ。そう考え、竜之介は腹を括って三国家の近くに自転車を寄せる。


「おはよう。相変わらず朝は弱いんだな」


「……おはよ。それはリュウもでしょ。目やについてるよ」


「え、嘘だろ」


 重たい腕を動かし、指先を目元へと運ぶ。ちゃんと顔を洗ったはずだが、と起きてからの自分の行動を思い返すこと数秒。


「フッ……嘘だよ」


 眠そうな目を一段と細めて、晴は鼻で笑った。

 そんな晴を、こちらも目を細めて見つめた後、竜之介はふいっと視線を逸らして、再び自転車を漕ぎ出す。


「だいぶスポーツマンらしくなってきたじゃん」


 自転車を横につけてきた晴は、視線を前に向けたまま話しかけてくる。内容は恐らく竜之介のジャージ姿を指している。どうやら先程のイタズラを謝罪する気はなさそうだ。


「そういうスポーツウーマンの晴さんは、校則違反なんじゃねぇの?」


 対する竜之介も、晴に一瞥もくれずに下り坂を走らせる。

 数年前、兄が中学に通っていた頃の竜之介の記憶が正しければ、ここらの公立中学は制服以外での通学は認められていないはずだ。


「いいんだよ。バレなきゃ」


主将(キャプテン)がそんなこと言っていいのか?みんなに言って聞かせる立場だろ?」


「……私はそういうタイプじゃない。分かってるでしょ?」


 イタズラの仕返しという意味も込められた竜之介の言葉に、晴は少し黙った後、淡々と返してくる。

 横顔を見るまでもなく、竜之介の言葉が予想外に晴の中の何かに触れて、それが晴の機嫌を損ねたことは理解できた。


「だな。お前はそういう主将(キャプテン)像じゃねぇな」


 だから竜之介は然程意識した様子もなく、こちらも淡々と返す。


「それより、最近どう?」


 話題を切り替えるように、晴は久しぶりにあった親戚のような質問をしてくる。それが竜之介のバスケ事情について訊いていることは、明白だった。


「まぁ、劇的なことはなんもないけど。亀は亀なりに進んでるよ」


 一足跳びに行くことは何もない。シュートフォームの習得一つ取ったってそうだ。

 キッカケを掴めば加速度的に体に馴染んでくる感覚はあった。けれどキッカケを掴むためには、繰り返し繰り返し何度も正しいアプローチを試すしかない。

 キッカケを掴むために必要な時間は人によって違うだろう。必ずいつか掴めるとも限らないだろう。それでも腐っていたって仕方がない。ひたすらに現状考え得る最良の正攻法で、地道にトライし続けるのだ。

 そんな竜之介の考えが詰まった、一見とぼけたような言葉。それを聞いた晴は、困惑するでもなく、嘲笑するでもなく。


「そっか」


といつものようにそっけなかった。

 けれど、視線を前に向けたままの竜之介は気づかなかった。いつかの夜と同じように、晴の口元が小さく笑みを湛えていたことに。


「ねぇ、リュウ」


 坂を下り切った町の出口、分かれ道で晴が何かを聞きたげに見つめてくる。けれど、晴はその先を言葉にすることはなかった。


「なんだよ」


「ううん、なんでもない」


「は?」


 困惑する竜之介を置き去りに、晴は逆方向に消えていく。その姿を見送った後も、しばし竜之介はその場に立ち尽くす。けれど、いつまでもここに留まる理由はなかった。


「なんだそりゃ」


 晴が去った方向に背を向け、竜之介もペダルを強く踏み込む。その顔には年相応に無邪気な笑顔が浮かんでいた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 辰馬の指導を受け始めてから、早くも1ヶ月強。


・脚の力でシュートを飛ばす

・指先で強く回転をかけようとしない


という2点については、徐々に感覚を掴み始めていた竜之介だった。

 一方で、やはり距離が伸びると、ボールを安定させるために右手を添える必要が生まれると、そのバランスが崩れてしまうという課題に直面している。

 あれからも朝練や居残り練の際に時折辰馬から助言は貰っているが、辰馬にも辰馬の時間があるし、感覚的な問題は人によって落とし込み方が違う。やはり安定したシュートフォームの習得にはまだまだ時間がかかりそうだった。

 そんな現状に頭を悩ませつつ、今日もハードなメニューを乗り切り、最後のメニュー、シューティングが始まる。

 シューティングは3人組に分かれて行う。一人がシュートを撃って、残りの二人がそれを拾って次のボールをパスする至極単純な形だ。これを数分単位で役割を入れ替えて行う。

 何も難しいところなどないメニュー……に見えるが、実は竜之介はこの手のメニューが昔から苦手だった。正確には、この手のメニューを始める前段階が苦手だったのである。


(先輩と絡みがない後輩って、こういう時地味に困るんだよなぁ)


 次々と組が出来上がっていく中、所在なさげにコートに立ち尽くし、視線を左右に動かす。

 実力によるもの、気質によるもの、理由には色々あるが、体育会系には中高通して先輩に可愛がられやすい後輩と、基本的にそうではない後輩がいる。前者の代表例は辰馬であり、後者の代表例は竜之介だ。

 こういう時、積極的に先輩に話しかけられる性格(たち)なら、最初からそうしているし、最後まで余ることなどない。

 バスケに関しては誰にも遠慮しないと決めた手前、いつかはこういう性格も変えていかないといけないとは思っているが、竜之介のヘタレはそう簡単に治らない。

 今日も今日とて、最後の方まで「自分、相手を探してまーす」みたいなツラをぶら下げて、どこかに拾われるのを待つのだろう。

 そう思い、ため息と同時に覚悟を決めた数秒後。


「相原、まだ組んでないなら俺とやろう」


予想外に声をかけられ、竜之介の心臓は跳ねる。


「は、はい!」


 慌てて声のする方へ振り返れば、170cmそこそこの穏やかそうな、それでいて大人びた顔をした青年がいた。


「俺、3年の田島(たじま)清太郎(せいたろう)。2年のことは覚えてるかもだけど、3年って人数多いし、まだ覚えてないだろ?」


 そう言って田島と名乗った先輩は屈託なく笑う。

 田島さんの言う通り、この部は3年が多い。3年が16人、2年は僅か3人、そして1年が12人。同い年は顔合わせの時点でなんとなく覚えるし、2年も人数が少ないから簡単だ。

 一方で3年全員の名前と顔を一致させるのは、この時点では至難の業である。その辺りの事情を即座に慮ってくれるあたりに、竜之介は既に田島さんの人の良さを感じていた。


「ありがとうございます、田島さん。お願いします」


「おう、よろしくな。お、雨宮。お前も余ってるなら、こっちに入らないか?」


 恭しく頭を下げる竜之介に爽やかな笑顔を向けた後、田島さんは雨宮にも声をかける。声をかけられた雨宮は、ビクッと驚いた後、おずおずとこちらに向かってくる。


(俺も、あんな感じなんだろうな)


 人のふり見て、なんとやらである。竜之介は誰も見ていないのに背筋を伸ばした。

しばらく練習パートに入ります。

ついでに登場人物のスペックもたまに後書に書いていきます。


相原 竜之介

188cm 75kg

高校1年生

利き手:左

ポジション:センター

シュートレンジは狭く、フックシュート以外に得点源がない。細身の体格でサイズの割には動ける。

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