入学③
今回は専門用語多めです。先に末尾の説明を読むことをお勧めします。解説合ってるか自信ないな。
(なんだってアイツが俺の考えを読んでやがる……)
更に翌日の昼休み。自分の机で弁当を食べながら、竜之介は物思いに耽っていた。
(バスケ以外はてんで阿呆なあの三国辰馬だぞ?)
おかずと一緒に米を咀嚼する竜之介だったが、その間も唇はへの字に曲がっている。
(いや、まぁバスケ絡みなら言われるまでもなく、ああいう提案をするやつだけどさ……。そりゃ分かってんだけどさ、分かってんだけどさ)
ドツボにハマりそうな思考を断ち切るべく、竜之介は母の手作りの煮物を少し大袈裟に箸で摘んで口に運ぶ。料理上手な母の煮物は冷めても美味しかった。その旨みがジワジワと舌と心に沁みてくると同時に、竜之介は自分の苛立ちの理由に気づく。
否、気づくまでもなく最初から分かってはいるのだ。分かっていながら、冷静になるために一度苛立ちを自覚する過程が必要だっただけだ。
『残念、俺が一歩早かったな』
昨日の辰馬の声と顔が脳裏に浮かぶ。すると、その場にいるわけでもないのに、竜之介の心は再びほんの少しささくれ立つ。
竜之介にしてみれば、先生に追加で練習できるよう頼むということは、それなりに大きな意味を持つことだった。
『自分はバスケがしたい』
『自分はバスケが好きだ』
そう主張しているのも同義な行動。ただ一言、
『俺はバスケが好きだ』
その一言が言えなかった男にしてみれば、それは大変に勇気がいることだった。
しかし、辰馬は当たり前のように竜之介の一歩先を行った。何事もないように
『バスケは俺のモンだ』
と主張してみせた。挙句のあの言葉である。
(バスケを始めたのは俺の方が先だ、俺がやろうって言ったんだ)
今更、そんな些細なことに苛立つ自分の器の小ささにもまた腹が立つ。けれど、その苛立ちを素直に認められる自分の成長を感じないでもない。そんなわけで、15歳の竜之介の心情はフクザツだった。
悶々としている間に弁当を完食した竜之介は、丁寧に手を合わせ
「ごちそうさまでした」
と小さく声に出す。そんな殊勝な態度とは裏腹に、少々大雑把に弁当をカバンにしまい、既に日課となった昼寝に移ろうとする。
ちなみに、竜之介のクラスにはチームメイトの雨宮がいるが、彼が中学時代からの知り合いと昼食を共にしているのに対し、竜之介は未だに一人だ。
浮いているというほどではなく、クラスメイトと談笑程度ならするが、どうにも自分から彼らに踏み込む勇気とモチベーションに欠けている。それが現状の竜之介である。
そんなわけで今日も昼休みに竜之介に声をかける生徒はいないはずだったのだが、竜之介が枕にすべく部活用のリュックを机に置いたところで、その視界の中心になんとも可愛げのない女子制服が現れた。
「ん……?」
竜之介がほんの少し視線を上に向けると、そこには当然見たことがない顔があった。この学校の女子生徒に竜之介の知り合いは3年生のマネージャー以外にいないはずだ。入学して1ヶ月も経っていないので、まだクラスメイトかどうかも判別がつかない。
「あの、相原くん、だよね?」
「そうですけど」
『どちら様?』という言葉を飲み込みながら、竜之介は怪しまれない程度に女子生徒の顔を見る。万が一にも小学生以前の知り合いだと困るからだ。
女子生徒はこの学校の生徒にしては些か目立つ容姿だった。顔立ちは竜之介からすれば普通だが、何故だか「陽の者」のオーラがある。
後になって考えてみれば、それは髪型や何気ない所作から滲み出るモノだと気づく。この学校の制服自体は田舎の公立高校らしく冴えないものだが、それでも彼女には幾分か華があった。
見覚えのない女子生徒に話しかけられるという状況を1ヶ月前に経験したばかりの竜之介は、今更様々な可能性に想像を巡らせたりはしなかった。そもそも卒業式というシチュエーションでもないし、入学早々のこのタイミングで何を期待できよう。
「私、2組の木崎鈴香」
「はぁ、どうも。相原竜之介です」
気のない返事をしつつ、本当に聞き覚えのない名前に竜之介は困惑する。こちらが一方的に覚えていないというパターンではなかったみたいだが、今度は何の用なのか、まるで見当がつかないという問題がある。
そんな竜之介をよそに、木崎さんは自然な動作で空席となっている竜之介の前の席に腰掛ける。
(え?この人長話する気なの?)
眉根を顰める竜之介に気づいた様子もなく、木崎さんは
「少し話、いいかな」
と椅子の背もたれ越しに竜之介の方に身を乗り出す。
(それは座る前に言うことじゃねぇかな)
既に座っている彼女を今更邪険にするわけにもいかず、竜之介は適当に頷いて返事する。
それをしっかり肯定と受け取った木崎さんは竜之介に質問を始める。
内容はと言えば、バスケ部の状況についてだ。練習環境、日時、そしてマネージャーの有無。
木崎さんに聞かれて竜之介は初めて気づいたが、そう言えばマネージャーは2学年上の3人だけで、同級生に希望者はいなかった。ちなみに2年生にはマネージャーはいないし、部員も3人しかいない。
そんな話を一通りした後、彼女は唐突に切り出してきた。
「あのさ、山本くんに聞いたんだけど、相原くんって三国くんと幼馴染なんだよね?」
その一言で竜之介は木崎さんの用件を何となく察した。これは非常に面倒な匂いがする、と。
「山本っていうと……どの?」
「アハハ、隣のクラスだよ?」
木崎さんは笑うが、逆に何故、『隣のクラスの山本』などという、なんら特徴のないフレーズで答えに辿り着けると思ったのか。
この辺り、山本という姓から該当しそうな人物を思い返してみるが、竜之介の記憶に確実にコイツだという顔は浮かばなかった。そもそも山本という姓がこの辺りには多すぎる。
「山本……名前なんだったかな。しん……しんや?ほら、あの元気な奴」
「ああ、山本慎吾?」
あと一文字が出てこないという様子の木崎さんを見て、竜之介は答えに辿り着く。しかし、『あの元気な奴』ではあまりにも山本が不憫だ。
「そ、同じ小学校なんでしょ?2組にいるんだけど気づいてなかった?」
「ハハ、クラスが違うとね」
木崎さんのイタズラっぽい微笑みとは対照的な乾いた笑いを浮かべつつ、竜之介は山本の顔を思い出そうとする。
(ダメだ、出てこない)
それほど仲が良いわけではなかったし、少々お調子者という点以外記憶にない。この点では竜之介も木崎さんのことを言えた口ではない。
しかし、それだけ思い出せれば、話の大筋は見える。派手目な木崎さんと、お調子者の山本。二人は同じクラスで早々に仲良くなった。
そして、辰馬のことが気になった木崎さんは同じ中学の山本に相談、とまではいかずとも、それとなく探りを入れたはずだ。そこで三国辰馬研究の第一人者とされる相原竜之介の名前が浮上したわけである。
脳内で「わけである」などと言っているが、完全に竜之介の推測だ。とは言え、そう的外れということもないはずだという確信が竜之介にはあった。
「それで三国くんと仲良いってホント?山本くんは多分一番仲が良いって言ってたけど」
「不本意ながら。アイツの中学時代を知らないから一番かどうかは何とも言えないけど」
「アハハ、なにそれ。相原くん面白いね〜。それでさ、三国くんってどんな人?」
竜之介の斜に構えた態度を一笑に付して、木崎さんは本題をぶっ込んでくる。なんというスピード感だろう。
三国辰馬とはどういう男か。改めて聞かれて龍之介は考え込む。
まずはそうだな、シュートが上手い。3ptにはムラがあるが、ミッドレンジは難なく決める。ストップジャンプシュート、フェイダウェイ、全部流麗なフォームで、竜之介と違って撃つ度にフォームが変わるなんてことはない。
自分のリズムってやつを持っていて、特にプルアップジャンパーは驚異的だ。そこには確かに繰り返されてきた練習の積み重ね、その痕跡を垣間見ることができる。
ドライブも強力だ。「あのサイズの日本人選手にしては」なんて前置きをしなくてもいいくらい、ハンドリングがずば抜けている。クロスオーバー、接触からのロール、選択肢は豊富で判断も的確だ。
そして、何よりも高さと身体能力の掛け算で言えば、奴の右に出る奴はほぼいない。持ち前のハンドリングにスピードと高さが伴うのだから、インサイドでのフィニッシュ能力は抜群。中と外、二つの武器は互いを輝かせる手札だ。
あとは見過ごされがちだが、対面での守備能力も才能だけでなく地道に積み重ねた基礎を窺わせるし、特別突き抜けてはいないがパスも卒なく……。
(て、そんなことじゃねぇわな)
そこまで考えて竜之介は思考をストップする。最近、辰馬のせいで自分までバスケ脳になっていることに改めて気づく。ちなみに、竜之介のバスケットボール色の脳細胞がフル回転してる間、現実ではうんうん唸る少年と、それを不審そうに見守る少女という構図ができていた。
さて、翻って話は三国辰馬という男の人間性についてだ。恐らく、というか間違いなく木崎さんが聞きたいのはこちらだ。
「辰馬は……いつだってバスケのことしか頭になくて、全部を捧げてる奴、かな」
「そ、そうだよね!三国くんってバスケすごい上手いんだよね!天才ってやつ?」
簡潔に言えば、三国辰馬とはそういう男で、それ自体はパブリックイメージと大差なかった。けれど竜之介は、木崎さんが軽々しく放った『天才』という言葉に同意はできるのに、何故か反発を覚えた。
そんな小さな苛立ちを尻目に、竜之介は最早目の前の木崎さんを通り越し、目下頭を悩ませている幼馴染について思考を深めていく。
「なんでそんな奴になったのか、いつからそうなったのか、一緒にいた俺にもイマイチわかんなくて、それがすげー不気味」
「不気味……?三国くんが?」
「多分、周りの奴らには優しくて、気遣いもできて、そこそこリーダーシップのある奴って思われてんだけど」
「そ、そうだよね。三国くんってそういうイメージ」
「でも、俺たちのことはいつだって身勝手に振り回す傲慢野郎で。それを自覚してるのに悪びれなくて。アイツのせいで俺たちの老化が深刻化してる。大体そんな感じ」
「……三国くんのこと嫌いなの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
(けど、2、3発殴る権利はあると思ってる)
という言葉を伏せて竜之介は話し終える。
竜之介が唐突に語った、恐らく期待していたのとは違う三国辰馬像に、木崎さんは困惑している。
ちなみに竜之介の言う『俺たち』とは竜之介と晴のことだ。辰馬と話していると、二人の周りはため息で二酸化炭素濃度が上がるし、眉間の皺は深まるばかりだ。
こんなことを言っても木崎さんに伝わらないのは分かっている。それでも思わず口を突いてしまったのは、ここ最近のあれこれがあったからだろう。竜之介は我ながら、なんと無駄で未熟な言動かと呆れる。
これ以上、貴重な昼寝時間を削られるのもなんなので、竜之介はより簡潔な答えを木崎さんに提示することにした。
「まぁ、幼馴染以外には人当たりも良いし、誰がいきなり話しかけたって嫌な顔はしない奴だよ。顔だけじゃなくて、心底気を悪くしてないと思うし、変に疑ったりもしない」
「そうなの?」
「多分ね。誰にでも優しい代わりに誰にも興味がないって奴もいるけど、少なくとも辰馬はそうじゃない」
そう、バスケが絡まなければ、その上で相手が竜之介と晴でなければ、辰馬は立派に人の出来た好青年である。それが尚のこと竜之介からすると納得ができないのだが。
そんな私情は伏せつつ、竜之介は決定的な一言をさらりと木崎さんの眼前に差し出す。
「だからさ、俺にどんな奴か聞くより、直接アイツと話した方が早いし、効果的だと思う」
竜之介は木崎さんが何故辰馬について知りたいのかは聞かなかった。それは野暮だし、聞くまでもなくわかることだから。
きっと木崎さんは、竜之介を“外堀”と見定めたのだろう。小学生の頃はこんな回りくどいことをする女子は少なかったが、それでも辰馬のそばにいれば覚えがないでもないことだ。
そして、その僅かな経験だけで一度流されるまま協力を承諾すれば、どれほど長期的で面倒なことになるかを、竜之介は身を以て知っていた。
だからこそ、暗に告げたのだ。
(だから、俺に頼らずテメェでなんとかしろ)
と。
「もし部活の見学に来るようなら、俺から村木先生に言っておくよ。もしくは森島に話しておいてくれたらいい。アイツ、確か2組だろ?」
人の良さそうな柔和な顔をしたチームメイトを思い出しつつ、竜之介は「これで話は終わり」と切り上げる。
「りょーかい!!相原くん、ありがとね!」
体良くあしらわれたことにも気づかず、木崎さんは笑顔で去って行った。
実の所、彼女は“外堀”を埋めるどころか、協力を取り付けられず、得たのは三国辰馬攻略になんら役に立たなさそうな情報、それとバスケ部の活動状況だけである。
にも関わらず、彼女は弾むような足取りで去って行った。その背中を見て竜之介は
(ま、辰馬目当てでのマネージャー志望はオススメしないけど)
と内心で付け加える。
これもまた誰にも聞こえない本音だ。言うだけ面倒だと思ったから、竜之介は伏せた。しかし、それに気づいた者が教室には一人だけいた。
「相原くんも結構残酷なことするんだね」
予想外の声に驚きつつ、振り返ると最近少し見慣れ始めた顔が竜之介を見下ろしていた。
「見てたのか、雨宮」
「僕の席、君の席のすぐ後ろだからね。嫌でも見えるし、聞こえるよ」
窓側の最前列にある竜之介の席。雨宮一意の席はその二つ後ろにあった。二人の苗字は「あいはら」と「あまみや」だから、席が近いのは当然だ。
ちなみに二人の間に挟まる「あかだ」さんなる真面目な女生徒からは
『前後の背が高くて圧が凄いので、早く席替えをしてほしい』
と先生に要望が出ている。
竜之介は後になって知ったが、雨宮は級友たちと昼食を共にした後は、竜之介が仮眠を取り始める頃に自分の席に戻り、読書或いは竜之介同様の仮眠を始めるらしかった。
そして今日は、そのタイミングで珍しく起きていた竜之介を目撃したというわけだ。
「それで、俺の何が残酷なんだ?」
「いやさ。僕は別に三国くんのこと、そんなに知らないけど。でも、練習中の三国くんにあんな子を近づければ、どうなるかは少し考えれば想像がつく」
「と言うと?」
皮肉めいた苦笑を浮かべる雨宮。その表情はどことなく、竜之介が毎朝鏡で見るものと似ていた。
「君、僕なんかより分かってるだろ。三国くんは、少なくとも自分が“舞台”に立っている時、“舞台”の下にいる人間なんか眼中にない。だろ?」
雨宮の言うことは竜之介にも理解できたし、概ね竜之介の見解と一致していた。驚くべきは、辰馬と同じチームでプレーしたことがない雨宮がこの時点ですでに結果を予見したことだ。
雨宮は同じ地区で中学3年間を過ごしているので、対戦相手、或いは友達の友達として接する機会はあったのだろうが、それにしても抜群の洞察力だ。
「雨宮……凄いな。確かに、多分あの子が浮ついた気分でバスケ中の辰馬に近づいたら、見るも無惨な結果になるだろうな」
竜之介の言う『無惨な結果』とは、彼自身が何度も見てきた光景だった。
三国辰馬は、バスケットボール中毒である。それはきっと、周囲の誰もが知っている。
だが、ほとんどの人間はその度合いを知らない。それがどれほどの狂気を孕んだものか、その全てはバスケットボールという競技を介して相対した者にしか分からない。竜之介がそうであるように、きっと雨宮がそうであるように。
三国辰馬という男は、さながら太陽である。と、竜之介は常々思う。いかにもありふれていて詩的な表現だが、そうとしか形容しようがない。そして、それは往々にして悪い意味でだ。
辰馬は熱く、眩しい。近づくことはおろか、直視するだけで目を灼かれるほどに。
三国辰馬の狂気的な情熱は、純粋な渇望は、近づけば近づく程に、相対した人間の黒々とした陰を暴き、その心の輪郭を炙り出していく。
竜之介が長年そうであったように、あの迷いも躊躇いも疑いもない直線的な衝動にあてられた者は、皆一様に絶望、無力感、或いは自己嫌悪に囚われてしまう。
「アレの異常性、その全てを理解するためにはコートに立つ必要がある。でもコートに立たない素人だって一目見れば、ある程度は分かる。辰馬と自分は別の世界の住人だって。増して浮ついた空気でバスケ中の辰馬に近づけば、尚更自分の人生について省みる羽目になる」
「それを分かってて止めないの?」
「昔はそうしたかもしれないけど。でも、どうせ言って聞く手合いでもないだろ?ああいうのは、直接体感しなきゃ分からない」
これも有り体な表現だが、『近づけば火傷する』というやつである。そして、火傷しなければ分からない人種もいる。竜之介はそういった手合いについては最早諦めていた。
もしくは火傷をするだけの感受性を持ち合わせていないという場合もある。その場合、きっと彼女は、無遠慮に無神経に辰馬という人間の奥深くに踏み込もうとし、そこで初めて気づくのだろう。
少なくともバスケと向かい合っている時、三国辰馬という人間の目には競技と選手しか映っておらず、自分など眼中にないことに。
繰り返すが辰馬に悪意はないし、普段の辰馬は誰にも興味がないなんて男でもない。だが、殊更にバスケが絡んだ時だけは、どこまでも残酷だ。
全ての価値基準がバスケに置かれた時、辰馬が舞台の外にいる人間に向ける目を、竜之介は知っていた。
「本当に残酷なのはアイツだ。でも、近づくと決めたのはあの子だし、その先のことまで辰馬や、増して俺が責任を負う必要はない」
竜之介は木崎さんが去って行った教室の出口を見る。竜之介とて、彼女に傷ついて欲しいわけではない。辰馬の存在が、本人の意志とは裏腹に誰かを傷つける場面をまた見たいわけでもない。
けれど、避けられないのなら、自分がどうにかする手段を持たないのなら、辰馬の傍にいる以上「仕方ない」と受け入れていくしかないことだ。
「ふーん、相原くんもやっぱり苦労してんだね」
話を一通り聞いた雨宮もまた、木崎さんが去った方を見ている。
その目に浮かんでいるのは彼女への憐憫だろうか、それとも侮蔑だろうか。同中の猿渡には分かるのかもしれないが、竜之介にはまだ分からない。
竜之介は雨宮の横顔から視線を外し、前方のホワイトボードに移す。何も書かれていないそれを見ていると、思考もクリアになっていく気がした。
「ま、そんなの抜きにしても、あの子に見学に来て欲しくはないかな」
「なんで?」
「あの先生に言うの、気が引けるし、何よりめんどくせぇだろ?」
「言えてるね。おっと、昼寝を邪魔してごめんね」
柔らかく笑い、雨宮は自分の席に帰って行った。
ストップジャンプシュート:ストップ&ジャンプシュートとも言う。スピードのついた状態から急激にブレーキをかけて立ち止まり、そのまま飛び上がってジャンプシュートを撃つこと。
フェイダウェイ:Fadeaway。相手ディフェンス及びゴールから遠ざかるよう、後ろ向きに飛び上がって撃つジャンプシュート。相手に触られづらい代わりに、重心が後ろに傾くので力がボールにうまく伝わりづらい玄人向けの技。
プルアップジャンパー:概ねストップジャンプシュートと一緒。この言葉が使われる際には、大体「相手の意表をつくような急なジャンプシュート」を意味することが多い……気がする。
クロスオーバー:ドリブルの動きの一つで、ドリブルをついている手から逆側の手にボールを移し、同時に進行方向と逆の足をクロスステップで踏み出してドライブする。極めて初歩のシンプルな動きだが、これに体重移動のスピード、タイミングなど諸々の条件が噛み合えば必殺の一撃となる。
ロール:ドリブル中に相手と自分の前方の肩が接触した瞬間に、ドリブルをついている手(相手から離れている方の片手)だけでボールをコントロールし、相手の体を軸にして体を入れ替えるように回転すること。上手く決まれば、ゴールに対して自分が前、相手が後ろという構図になり、一気にフリーになれる。が、高いハンドリング技術を求められる。




