アツい子
溶けそうなアイスと僕の頭。頭が溶けるというのはどういう事なのだろうかと云う事を考えると余計溶けそうになると感じたので、もう放棄。
「夏は暑いよね、っていうのを「あつはなついよね」って言う事はそれほど」
「それほど、」
アイスキャンディーを咥えて焦点が定まっていないケイジは僕が放棄した言葉を拾いかける。でも考えるのが面倒くさくなってきたようで、それより先の言葉が出てこない。
「アイス食べたい」
「買ってこいよ。ってか買ってきて」
「あじぃー。もう駄目だ」
僕も僕でもうそれより先の行動に移るつもりがない。
夏、公園の日陰にあるベンチでだれているという典型的な状況下でするべきことは簡単である。本当に何もしないという事だ。動きもしないどころではない考えもしないのだ。おそらく相当戯けた事をぬかしているのだが、何故こういう時に限って僕の相方は僕よりも低レベルに堕ちて行こうとするのだろうか。もうその下はないくらいってくらいに堕ちているのに、彼は平然とその下にゆく。
「俺、前世は蝉だったんだよ」
「は?」
「蝉だよ。みーんみーんって鳴くあれ」
「知ってるよ。そうじゃなくて前世とか本当に面倒くさいんだけど」
「ばかやろう現実逃避だよ」
「現実逃避?」
「暑いという現実を逃避する為にはそうじゃないテキトー設定に逃げ込めばいい」
まあ分らなくもなかったが、どうしても確認しておかなければなならないこと。
「一ついいか?」
「なに?」
「よりによって現実と変わんないところに逃避すんなよ、効果が無い」
「あ…言われてみればそうだな」
ケイジはアイスを齧って上空を見上げ、何かを見ているようで何も見ていないような目つき。
「でもあれだよ、蝉だったら夏に負けないだろ」
「勝ってもいないけどな」
そんな世界で一二を争うくらい愚かな僕等の傍を同じ学校のベストを着ている女子生徒が通りがかった。微妙に話をする人なので、目が合うと「あ、いたんだ」と声を掛けてくれたが関係的にその後が続かない。気を遣って、
「今日学校あったの?」
と訊くと、
「部活」
と答えた。何となくこちらが気になったのか、ベンチに寄ってきた。
「何してるの?」
「みりゃ分かんだろ暑いから前世の話をしているんだ。蝉」
ケイジはもう頭がやられていて荒々しい上に訳が分らない事をのたまわっている。ダメだこりゃ。
「はぁ?わかんないし。蝉って何よ」
「夏にみーんみーんって鳴くやつ。キモくてグロい」
真面目に説明すると頭を使うので僕も便乗した。敦子という女の子は一瞬変な顔をしてムっとした表情を浮かべたが、ちょっとだけ噴き出して、
「漫才ですか?」
と何故か丁寧語で訊いてきた。
「漫才っていうか、二人ともボケてるから」
「いやだってこいつが『あつはなつい』とか言うからさ…」
敦子という女の子は結構ノリが良い子なので、
「あぁ、あるよねそういう、、、ダジャレ?」
「ベタベタ過ぎると暑い。クールにボケないと。ダジャレっていうか、言葉遊び?」
「じゃあ私もちょっとボケるから聞いて!」
「なになに?」
僕は結構興味津々だった。女の人がボケを積極的にやるのはあまり見たことがなかったからだ。でも聞かない方が良かったかも知れない。
「敦子はあつい」
「「へ?」「は?」」
今のはボケだったのだろうか。彼女にとっては会心の出来だったのかニヤニヤしている。基本的な事が疑問だったので訊いた。
「その「あつい」って、どういう意味?」
「え?普通に今暑いなって」
「あ、よく宣伝文句とかでいう「アツい」じゃなくてね」
「ううん。あ、私って・・・アツい?」
打って変わって恥ずかしそうに訊ねてくる女の子の様子は可愛いとは思ったが、「アツい」と言えるのだろうか?
「アツいっていうか敦子」
ケイジはまた手抜きをして言う。
「そうだね、敦子だね」
僕も再び便乗する。予期していない返事が返ってきたので困惑している彼女。どうしたらいいのかちょっと考えていたようだが、だんだんこちらのペースに呑み込まれてきて面倒くさくなってきたのか、
「ここ座るから」
と言って空いていたスペースに座って彼女もボーっとしはじめる。しばらくして、
「アイス買ってきてよ」
と言い始めたので、僕はアイスを買ってくる人をジャンケンで決めるという提案をする。
「いいね」
「よし」
結論から言うと敦子という女の子はジャンケンが弱かった。
「なんで私が行かなきゃいけないのよ」
文句を垂れながらしぶしぶ買いに行ったようだが、しばらくたっても中々帰ってこない。
「敦子まじ敦子」
「それどういう意味だよ」
おそらく帰ってこないであろう彼女を待ちながら、「敦子の前世は蝉に違いない」という設定でボケボケしている僕等だった。




