第4話 なまりのおなご、やらかす
突如現れた相手に心惹かれ、自嘲する。
相手の目的は、あくまでこのペンダントだ。
アシュリーに興味を持って話しかけたでも何でもない。
アシュリーは一考し相手の様子を伺う。
鼠色のフードで隠れてはいるが、金色の髪は一本一本が繊細で平民ではないことは一目瞭然だ。
見たところ、貴族が変装して遊びに来ているといったところだろうか。
この街の住人は他国と比べてそれなりに身なりも整っているし、生活水準も高い暮らしをしているが貴族との差は歴然としていてすぐにわかる。
顔の良さに免じて譲ってあげたいところだが、並々ならぬ運命を感じたのだ。
そう簡単にペンダントを渡す気にはなれなかった。
ーこれはもうあだしのもんだ
「ほれっお金だよ、ちゃんと払ったがらね」
そういうや否やアシュリーはペンダントのお金を店主に投げ告げると、「ほんじゃあ、さいなら」とだけ告げ店を去った。
しかし、それで少年が納得するわけもなく。
「ちょ、ちょっと!こっちが頼んでる最中だっていうのにいい態度じゃあないか!」
焦ったように手首を掴まれ、たたらを踏みながら立ち止まる。
「はあ…。これはおめには譲れねえ…これで十分だっぺ?」
返事もなく買い上げたことに文句を付けたいのなら、これでいいだろう。
そう思い手を振りほどこうとするも、細っこい見かけにしては思いのほか力が強い。
逃さないと言わんばかりに掴んでくる手を見て、眉を寄せた。
ーこのペンダントをちゃんとペンダント見でもいねえくせに!
これは、アシュリーが周辺の店を行き来して、見つけ出したペンダントなのだ。
ただ美丈夫に頼まれたからと言って渡す気にはなれない。
確かに少年の瞳は綺麗だし、心惹かれたのも事実だがそれとこれとは話が別なのである。
それに相手は貴族階級なのだ、このような下町の出店でなくとも、ちゃんとした宝石商に命じればこれ以上の物を作らせるのは容易であろう。
少年を睨みつけるも、手を放す気配はなく膠着状態が続いた。
少年は離さないまま尋ねる。
「なぜそのペンダントに拘るんだ?」
訝し気に尋ねる様子に、良さを分からずに譲るよう声をかけたのか…とムッとする。
やはり他人が欲しいものを横からかすめ取りたいだけなのだと理解し、怒りがわいてきた。
「そーたの、このペンダントが一番輝いでっからに決まってっぺ!」
掴みかかる勢いで、言い放つアシュリーに少年は面食らい、マヌケにもポカンと口を開けた。
「ふん!これがらは自分の目で見定めで品選ぶごった!」
緩んだすきに、手を払いのけ手首をさする。
かなり力強く掴まれていたようで、うっすらと赤く跡が残ってしまっていた。
「ま、まってくれ。そのペンダントが輝いて見えるっていうのか!?」
尚も言い募る少年に、しびれを切らしながらも答える。
「あだしは紋章なしの商人だけんど、こーたにも輝ぎ放づものは見だごどがねえ。しかもこれはガラス製、売り物どしてじゃなぐ自分で持っていでえぐれえだ」
奪われないよう気を付けながらも、アシュリーはペンダントをそっと少年に見せた。
ーまあ、ペンダントどはいえガラス製だ、高価でねえどわがれば少年も引ぐべ
そう思っての行動だった。
しかし、当の少年はというと一瞬俯いたものの何か関心を引くものがあったのか、きらきらとした目でアシュリーを見つめてきた。
「それじゃあ…君は、きみは…それに運命を感じたってことかい?」
ぐいっと覗き込むように詰め寄られ、アシュリーはタジタジと後ずさった。
「ああ、確がにごいづは有象無象どは違う品だど思ったけんど…」
「それで?他に感じたことは?」
「…そーたごど言われでも」
先程までとは打って変わり、雰囲気の変わった少年に距離を取ろうとするもすぐに追いつかれる。
じりじりと、攻防しながら移動している内に、壁際まで追い詰められてしまっていた。
ーなにがこの人の興味ひいちったんだっぺが…
「実はね…そのペンダントの元の持ち主は僕だったんだ…それがどういうわけか市に流れてしまったようでね」
その言葉にアシュリーはギョッとし咄嗟にペンダントに目を向ける。
たしかに夜の出店で回ってくるにしては凝った技術であり、庶民が手に入れられるような代物ではないことに今更ながら気付いた。
どんな有象無象の物とも異なる輝きを持っていることは、この目で確認済みだ。
おそらく、この少年は嘘をついていないことは容易に察せられる。
ー掘り出しもんだど思って拾っちったが、もっと考えで行動すべぎだったが!?
目を見張る事実に今更ながら後悔したが、今までの少年にしてきた態度を思い出し血の気が引いていく。
ガシガシと頭を掻きむしり、しゃがみこんで過去の自分を詰った。
「…この街もしばらぐは取引中止すべぎがもしれねぇ」
ボソボソと現実逃避気味に呟く。
実際問題、アシュリーはこの国の貴族に粗相をしでかしてしまったのだ。
出店でのやり取りの時点で手遅れだった感は否めないが、もともとの持ち主を振り切って手に入れようとしたのだ、訴えられても仕方がない。
「…仕方ねえ、他にもアテはあるし何十年が後に、頃合い見で再開でぎれば良いか…」
ここまで来てペンダントを返さなければならないのは非常に惜しいが、背に腹は代えられない。
ペンダントを返そうとしてはて、と固まる。
先ほどまで、何故やら他に感じたことやら質問責めしてきていた声が鳴りやんだことに気づいたのだ。
そうして、拭いていた顔を上げ…直面した状況に再び固まった。
「え…あ…」
鼻先が触れてしまいそうなほどの距離で、視線が絡み合う。
あまりの驚きの中で理解できたのは、宝石の如くきらめく萌黄色が視界一杯に広がっているということ。
「君のペンダントへの執着は、そんな簡単に手放せてしまえるほど弱いものだったの?」
出会ったときと同じ状況で、甘く低い声が不満そうにこぼされた。
ーおめが譲ってぐれって言ったんだっぺが!
咄嗟に叫びそうになった口を塞ぎながら、内心絶叫した。




