第3話 なまりのおなご、出会う
夕陽が沈みゆく海辺の小さなレストラン、そこは幸せな香りで満ち溢れている。
新鮮な海の幸が豪快に盛り付けられた魚介のプレートから漂うその濃厚な香りは、鼻腔をくすぐり、アシュリーの食欲をそそった。
「うめえなぁ…」
一口噛みしめると、口いっぱいに広がる旨味が舌を刺激し先程までの鬱憤を晴らしてくれた。
周囲の小さな声に耳を傾けながら、うっとりとその味を嚙みしめる。
「……そうよねぇ、そろそろこの店も考え時なのかもしれないわ」
様々な囁きの中で、ふと気になる話題が耳に届いた。
声の主は誰だろうかと、周囲を探る。
どうやらこの店の女将と常連客の話のようだ。
なんでも、王室の後継者争いが始まりそうだとか、なんとか。
情報収集のために聞き耳を立てていたとはいえ、褒められた行為ではないと思い至り少しきまづくなった。
いつも情報は金になると聞きかじってるヤツが今更何をと、苦笑がこぼれる。
取引相手の褒め殺しを思いのほか引きづっているようだった。
さっさと食べ終えてしまおうと、かきこんでいると常連客が嘆くように言い放った。
「はあ、どちらにしろ苦労するのは目に見えてるわ。ウィルバート王子も、ローレン王子も心から安心できる存在ではないもの」
「そうねえ…いつもならアナタのこと不躾だと怒るところだけど、今回ばかりはね…」
この国を代表する二人の王子の話題に気をひかれはしたが、自分には関係のないことだとさっさと代金を支払い宿へ急いだ。
移動している間にもすっかり日は落ち、辺りは優雅な街灯によって柔らかく照らされ情緒的な雰囲気を醸し出している。
宿へ急いでいたアシュリーだったが、夜店で並べられた工芸品に気を取られ歩みが遅くなっていた。
掘り出し物の一つでも見つけたいと物色し始めてから、早一時間ほど。
いくつかの店を行ったり来たり。
惹かれるものがあると視野が狭くなる悪癖が支障をきたし始めていた。
最初こそ店主もお決まりの褒め殺しをかましてやろうと躍起になっていたものの、右から左へと受け流し存在を認識されているのかすら危うい様子に話しかけるのをやめてしまった。
アシュリーはというと、ガラス製のペンダントに釘付けになっていた。
街灯の温かな光が差し込み、透明な表面には無数の輝きが宿っている。
光を受けるたびに浮かび上がる幻想的な星の模様は、このペンダントが他の有象無象とは異なり上等な物であることを示していた。
「これにすっぺがなぁ」
思いがけない出会いに、笑みをこぼす。
どこか他とは違う輝きに手を取ってみたが、不思議なことにガラスであるソレは指先に熱をもたらしてくる。
まるでペンダント自体が生きているような、そんな錯覚さえ覚えさせる。
ー誰にも受げ入れられねえ寂しさが、埋まるみだいな
これは買うしかないと、店主に話しかけようと腰を上げようとした…その時だった。
「きみ、それを僕に譲ってくれないかい?」
真横から話しかけられた声に驚くと同時に、横取りしようとする不届き物は誰だと目を向けた。
「っっ!?」
苦言の一つでもこぼしてやろうと口を開けたアシュリーだったが、相手との距離の近さに声も出なかった。
鼻先が触れてしまいそうなほどの距離で、視線が絡み合う。
あまりの驚きの中で理解できたのは、宝石の如くきらめく萌黄色が視界一杯に広がっているということ。
「頼むよ…」
甘く低い声は、今まで出会ってきた誰とも似つかない魅了することに長けたものだ。
あまりの美しさに、きらめく瞳をただ見つめていたくなる。
深い夜の闇が喧騒や現実を二人から遠ざけていく。
気付けば騒がしかったはずの通りは静寂に包まれていた。
何を勝手なことを、だとか言いたいことは山ほど思いつくのにも関わらず、口からこぼれたのは別のことで。
「……おめの瞳、宝石みだいに綺麗だな」
その瞳に自分の姿を見つける。
ちょっとだけ嬉しいと感じた自分が、アシュリーはなんだか恥ずかしかった。




