第2話 なまりのおなご、賞賛を受ける
小舟から身を乗り出し、宙に浮かぶ感覚に身を委ねる。
エルの大きな身体は、荒々しい風にも揺らぐことなく悠々と大空を漂う。
目指す先は積み荷の取引相手が住む街、ガルンダだ。
気候は1年を通して一定で、そういった点においては非常に住みやすい場所だと言える。
その気候ゆえに育つ作物には限りがあるが、物の加工技術に秀でており街並みも芸術的雰囲気の漂う建物が並んでいる。
そのため、他国からの観光客も後を絶たないんだとか。
アシュリーとしても、ガルンダには観光がてら商売しようという心積もりである。
「おおっ見えでぎだ!あいがわらずうんときれえな建物ばっかだなあ」
視界には、絵画から飛び出したような繊細で色鮮やかな景色が、一面に広がっている。
古い建物が美しい色彩で彩られ、花々が窓辺やバルコニーからはみ出していた。
道沿いにはカフェやレストランが立ち並び、石造りのテラスでは人々が楽しいひとときを過ごしている様子が見える。
アシュリーはその景色にうっとりするも、これからのことをが頭をよぎり、うへえと声を漏らした。
「住民もこの景色みだいに、綺麗な心の持ぢ主だったらよがったのにねえ」
この街で暮らす住民の気質は表面的には、友好的だ。
他者を褒めたたえる心優しい者ばかりに見えるし、ガルンダを訪れたものは皆からかけられる讃辞に心を躍らせる。
しかし人々は気づくのだ、住民達の陰険な性格に。
目的地から近い浅瀬で降ろしてもらい、停泊場所に愛用の小舟をロープで繋ぎとめる。
積んできた荷物を、よっこらせと降ろしていると見知った顔の男が意気揚々と近づいてきた。
アシュリーはその男にかまう間もなく、次々と荷を運んでいく。
すると、男は肩をすくめにこやかに話しかけてきた。
「やあ、アシュリーひどいじゃないかぁ。俺を無視するなんてさ、相変わらず君の健康的なその肌には目を引き付けられるよ。太陽の女神イリヤと並んだら、さぞかし素晴らしいんだろうな」
話しかけられてもなお黙々と作業を続けていたアシュリーだったが、男はそんなことは気にも留めずアシュリーへの讃辞を述べ続ける。
「はは、君ってば恥ずかしがり屋なんだから」
べらべらと積荷そっちのけで話し続ける様に、ようやく荷を運び終えたアシュリーは心の中で独りごちる。
よくもまあ悪口がポンポン出でぐるなあ、と。
この美しき街、ガルンダはある特徴を持つ。
後を絶たない観光客、これはほとんどの場合、新規の客に限るということだ。
二回三回と訪れる客は、住民達の“あること”に気づかない幸せ者かとんだマゾヒズムの嗜好を持つ者だけであろう。
「ほら、早ぐ品見でぐれよ。あだしの顔が日焼げで荒れでるなんて、いづものごどだっぺ?」
アシュリーはそれだけ言い、意趣返しに肩をすくめて見せる。
一瞬の沈黙と同時に、男は口を引きつらせた。
しかし、「なんてこと言うんだ!」と大げさに嘆くと、積荷の検分をしながらもアシュリーを褒めたたえることはやめようとはしなかった。
ガルンダの誉め言葉は、真逆の意味を持つ皮肉である。
これは、この地を踏み入れたもののみが知る住民達の悪癖なのだ。




