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第1話 なまりのおなご、はじまり

よろしくお願いいたします。

太陽が輝く青空が広がる。

風はアシュリーの頬を、海面を、やさしくなでるように通り過ぎる。

波は穏やかで、透明度の高い水は瑞々しさを感じさせた。


砂浜に足を踏み入れると、その柔らかさが心地よく広がった。

薄い金色の砂粒が足の裏にやさしく触れ、ほのかな温かさえ伝わってくる。


人の気配が感じられない離島でただひとり、少女が空を仰いでいた。





その少女の名は、アシュリー。

相棒の鯨と離島を転々としていた。


「とうとう、15になっちったなぁ…」


のほほんとしたそのなまりは、物心ついたときには直しようがなくなっていたもので、まだ家から追い出される前は、親や兄弟からは奇異な目で見られたものだ。


今世と前世、二つの異なる世界の記憶はやがて周囲からは受けいれ難い、歪な存在を生み出してしまった。


常とはどこか違う、ある日のことだ。

とうとう父親は、幼いアシュリーが返れぬほど離れた島に置き去りにするという暴挙にでた。


いつもはアシュリーの存在など空気のように扱っている父親が、話しかけてきたのである。


海の商いを学んでみないかと言って。

今世は裕福な商家の生まれだったため、子が教えを得るのは当然のことだ。

6人ほどいた兄弟姉妹は皆、分野や進捗は異なれど両親から商いを教わっていたのだから。


しかし、アシュリーだけは別だった。

アシュリーだけは、両親から商いの知恵を授かることはなった。

たとえ、どれほど他の兄弟達より算術が優れていたとしても。

両親の仕事を手伝おうと乞い願っても、辺鄙な方言と形容できないなにかが邪魔をして。


家族からの愛と興味と関心。

自分は得られないけど、他の兄弟姉妹は当たり前に持っているもの。

それが、どうしても欲しくてたまらなかった少女は違和感を感じながらも父親の伸ばす手に、縋ってしまったのである。


そこからどう置き去りにされたのかは想像するに容易い。


いとも簡単に麻紐で手足を拘束され、泣いて暴れるアシュリーに応えることなく、父親はただただ作業的に、無感情に一人の娘を島に放った。


アシュリーはというと一瞥することなく去っていく後姿に泣き喚いていた。

歪んでいく視界の中、その背が豆粒ほど小さくなるまで。



到底泳いで帰る力などなく、約1年をその島で生きながらえ耐え忍ぶこととなった。

もともと青白かった肌が小麦色へと色づいていくのは一瞬だった。

裕福な商家で育ったアシュリーは、貴族程ではないが下々の者に傅かれて生きてきた。

ふかふかの寝台もお風呂もない生活に最初は、泣く毎日だった。


今世で教わり得た知識は、アシュリーを生き長らえさせるものは、ほとんどなく。

頼りにしたのは前世での記憶だ。


残念なことに前世での家族は顔も声も覚えていなかったが。

火おこしや簡易的な家のつくり方、身の守り方は息をするように思い出すことができたのだ。


その記憶は確かにアシュリーの命を繋いでくれた。

愛に餓えた心は救ってくれなかったけれど。


「エルゥ!!そろそろ次の島に移っぺ!」


そうアシュリーが空に向かって叫ぶ。

すると、頭上から地面を揺るがすような鳴き声が返ってきた。


「へへっそうごなぐっちゃねぇ」


自作の帆引き船には、この島で採取した色とりどりの果物がぎっしりと詰まれている。


見捨てられたという事実は、幼いアシュリーにとって悲劇的で涙にくれる日々を過ごしていた。

しかし、それも鯨のエルに出会ってからは変わった。


誰ひとり訪れないその島にやってきた、たった一頭の鯨がアシュリーの家族になったのである。


「ようし、それじゃあエル頼んだよ」


了承の嘶きを聞き、とっさに小舟に乗る。

エルはその大きな背に小舟ごとさらうと徐々に泳ぐスピードを上げていく。


そうして、背の荷物のバランスが取れたのを確認すると青々とした空の海へ、泳ぎを進めていった。






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