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天蓋孤独の狂想曲~カプリチオ  作者: 黒乃羽衣
第一話 錬金術師の少女
7/12

苦闘

    Λ


 この場で起こった現象を、(わたくし)めは理解することが出来ませんでした。


 目の前に立つ神官の女性の背後に巨大な白い大蜘蛛が現れて。

 そして、彼女が何か『力ある言葉』を発した瞬間に、あらゆる音が消失したのであります。


 周囲の音はもちろん、自分の声すら聴こえません。

 わずかに認識できるのは体内の脈動や強い耳鳴りだけ。

 そのあまりの閉塞感に足元がふらついて、(パルチザン)の底部の石突を地面に突いて躰が倒れないように支えます。


 平衡感覚が失われていき、まるで自分が宙に浮いているような感覚に陥りました。

 呼吸が荒くなりながらも周りを見ると、宗教国家の信徒はみな(ひざまず)いて手を組み合わせ祈っております。

 第十八分隊の仲間たちへと目を向けると――


 同じく不可思議な現象に苦しんでいた、そのうちの一人が竜の吐く火炎のごとき散弾に飲まれました。

 敵の主導者である背の高いシスターは、この一帯の異常の中を平然と歩んで(わたくし)めに銃口を向けています。


 身体中に嫌な汗が吹き出しながらも、その場から駆け出しました。

 立っていた場所は焔の散弾に灼かれます。

 別の物陰に隠れて尻餅をつくと、頭の中がぐらぐらしておかしくなりそうでした。


 この敵は危険極まりません。

 何とかこの場を切り抜けなければ、我々は全滅してしまいます。

 物陰から様子を確認すると、大蜘蛛の怪物を引き連れた神官はマト分隊長とフィオナーレに散弾銃を向けていました。


 (わたくし)めは躰と心臓が熱くなります。

 彼女を――フィオナーレを守護(まも)らないと!


(わたくし)めは……約束をしたのでありますから!!」


 (パルチザン)を手に無我夢中で飛び出しました。

 今なら敵の神官からは死角になっております。

 狙いは地面に近い白い大蜘蛛の頭部!


 必死になって叫びながら(パルチザン)投擲(とうてき)しました。


 ――しかし、命中する寸前になって大蜘蛛はあり得ない速さで跳躍します。

 着地と同時に音の衝撃波を発したのか、(わたくし)めの躰は後方に吹き飛ばされて……意識を失いました――


    ♢


「あの小娘。私の神鎧(アンヘル)に立ち向かう気概があるとはな。全く見上げた根性だが――神に刃向かった罪は万死に値する。」


 散弾銃の弾薬を詰め直しながら、失神して倒れた愚かな娘の兵士へと近づく。


「名も知らぬ憐れな兵の娘よ。愚昧(ぐまい)な己の軽挙妄動(※1)よって朽ち果てる、その身の運命を呪うがいい。」

※1 深く考えず、軽はずみな行動をすること


 そして、銃の引き(がね)を握ろうとした瞬間、私の躰に強い衝撃が襲いかかった。


 蹌踉(よろ)めきながらも踏み留まると、視界の端に流れる金髪が見えた。

 私の躰にしがみつくその少女は倒れた兵士の娘へと声をかける。


「ベルっ!何やってんのよ!早く起きなさい!」


 振り(ほど)こうとするも少女は力の限りに抱きついて、私の散弾銃も握って離さない。


 神鎧(アンヘル)『バルトアンデルス』の力は音を自在に操る。

 そして、神力の全解放『血算起動』によって周囲のあらゆる音を吸収し、パイプオルガン型連装砲の弾丸として射出する言語兵器だ。

 その弾丸は命中した生物を分子レベルで変異消失させる威力を持つ。

 しかし、私と神鎧(アンヘル)の加護を受けた者や()()()()()()()()には影響を及ぼさない。


 私は少女の髪を強く掴んで、顔を向けさせる。


「貴様……!巫女神官である私に易々と触れようなどと烏滸(おこ)がましい(※2)も程があるぞ!」

※2 出過ぎたこと、分不相応であること


「うぐっ……あんたのことなんか知らないっ!ベルは絶対に殺させないんだからっ……!」


 乱暴に髪を引っ張り、少女を躰から引き剥がすと散弾銃の銃口をその頭に突きつけた。


「今までに無軌道で暴虐な殺戮(さつりく)を繰り返してきた、王政国家の異教徒共がっ!」


 再び神鎧(アンヘル)の力の影響を受けて無音状態であろう少女は、平衡感覚を失って崩れ落ちる寸前だ。


 ――だが、またもや銃を撃つことはかなわなかった。

 兵士の娘を背に抱えた隊長格の男が、私の散弾銃を狙撃して破壊したのだ。

 男は銃を捨てて金髪の少女も抱え、逃げ出すのを横目に見送る。


 武器は壊れ、私の神鎧(アンヘル)は近距離での戦闘を得意とはしない。

 連中は蜘蛛の子を散らすように森の中へと、その姿を消して行った。


 神鎧(アンヘル)を召喚回帰させ、溜め息をつく。


「あの男……私を殺すより仲間を助けることを選んだか――今回ばかりは見逃してやるとしよう。これで貸し借りは無しだ。」


 私は信徒達を引き連れ、砦の中へと戻って行った。

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