探索
Λ
調査任務の早朝。
私めは仲間と共に輸送車へ荷物や武器の積み込みをしておりました。
この大陸では蒸気機関が特に発展していて、この国もその恩恵を大きく受けています。
車の機関部を点検していると背後から聞き慣れた声。
「ベル、わたしの荷物も載せてほしいのだけど。」
そこには両手でリュックを抱えた、腰ほどの金髪が映える少女の姿。
頭にはカチューシャ、肩を出した上着にコルセット、ペティコート型のミニスカートと太もも上まである靴下の活発な衣装。
「おはようございます、フィオ。どうぞ、一緒に置いてください。」
第十八分隊は十名で構成されていて、今回の実地調査は私めを含めた八人。
外部依頼した錬金術師のフィオナーレで行なうことになっています。
目的の調査場所は我らが王政国家都市の西側、深い森で発見された古い砦のような遺跡です。
そこは隣国の宗教国家都市、東部地区と国境が曖昧になっているところでもありました。
両国は休戦状態とはいえ、互いに牽制の銃撃戦が起こることも珍しくなく油断はできません。
森の周辺環境を調べつつ、砦も探索し安全を確認するのが主な目的です。
フィオナーレに同行してもらう理由は、そもそも錬金術師のそれ自体は単体の職業ではありません。
医師や様々な学者または鍛治師などの技術者が研究の一環として錬金術を習得している、というのが一般的でした。
そして、彼女は中でも特に植物学、薬学に力を入れているために今回の仕事を依頼したのです。
荷物の積み込みを終えた私めは、愛用している二メートルほどのパルチザン――幅広大型の三角形の穂先を付けた長槍を手に持って、刃と逆の先端部分の石突を石畳に打ち鳴らします。
「ずいぶん張り切ってるのね。それに思ったより武器が多いわ……戦いをする訳じゃないんでしょう?」
荷台に座って周囲を眺めながら訊いてくるフィオナーレです。
「隣国との国境付近ですし、万が一の備えですよ。それに野生の熊に遭遇するかもしれません。大丈夫、フィオのことはちゃんと私めが守護りますから!」
自信をもって胸を叩いて意志を表明します。
ですが――
「自分の身は自分で守れるから。――まぁ、気持ちだけもらっておくわ。」
フィオナーレは一瞬だけ目を見開いてから、そっぽを向いてしまいました。
ψ
わたし達は輸送車の荷台に乗って揺られながら、調査対象である西側の深い森へと向かっていた。
その道中に第十八分隊の隊長であるマト、という名だったかの男性が説明をする。
「森の中は天然の迷路になっていて、車の走行は不可能だ。問題の砦には徒歩で移動することになる。」
森の外縁に到着すると、自分の荷物を受け取って隊列を組んで進入を始めた。
わたしは真ん中あたりに配置され、隣にはベルファミーユが並び歩いている。
外側から見た印象では普通の森だったが、いざ突入して最短で奥へと進んでみると空気はすぐに変わった。
見る見るうちに周囲は緑色に包まれ、むせ返るような濃密で湿った草木の香りに満たされていく。
太い樹木や幹がはり出して、大きな岩や倒木に苔の群生と相まって歩行も一苦労になっている。
深い森、というよりはもはや樹海だった。
そして、樹海の地面が固い理由はそれが溶岩から出来ているため。
そのせいで樹は地下に根が張れず、地表にうねうねと這ってしまうのだ。
マト分隊長を含めた七人の騎士団員は帯剣に加えて、護身用に大きめの拳銃と銃剣を装着した散弾銃を携帯していた。
ベルファミーユにいたっては二メートル丈の大きな槍のみだ。
彼女は槍を杖代わりに森の獣道を進みつつ、飛び出した草木や枝を器用に切り落としてくれた。
「フィオのおみ足が傷付いたら大変であります。ちゃんと私めの後ろについてきてくださいね!」
「はいはい、わかったから。がんばって、わたしが歩きやすいようにしなさい。」
ちなみに、わたしは調査用の道具を詰め込んだリュックに加えて、先端に宝石や装飾を施した杖を手に散策していた。
この杖はベルファミーユいわく、『錬金術師には欠かせない必須アイテム』なのだという。
錬金術師にどんなイメージを持って、何を言ってるのか本当にわからなかったけれど、彼女の熱意に押されて持たされてしまった。
結果的に歩行の補助になっているから良しとすることにした――