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行商人と呼ばれていたのは、まさかの女の子だった。
しかも私よりも小さな。
彼女はシーアを見ると「おねーさん!」と嬉しそうに笑顔を浮かべて、私を見ると「は?だれ」と眉間に皺を寄せた。
なんて分かりやすいんだ。
「ミスティ、こちらはアスラ。
最近私の家に来た子なのよ!
アスラ、こちらはこの村によく来てくれる行商人のミスティ。
穀物とか野菜とかを向こう山の方から運んでくれているの」
「初めましてミスティ、アスラです」
「……ドーモ」
渋々と言った態度丸出しで、面白い。
そう思って笑ってしまうと「何がおかしいっての!?」と吠えた。
「こんな子供がって思ったんでしょ!!
勝手なイメージ持たないでよね、私はこれでもアンタなんかより年上よ!!」
「そうだったんだ、嫌な気分にさせたなら謝るよ。
1人で村を巡ったり山を越えたりして凄いね」
「ウチは昔からこの辺りを回ってたの。
見た事無いけど、アンタどこの出身よ?」
腕を組んで私を見ていたミスティに、シーアは「この子、記憶が無いのよ」と小さく付け足した。
「は?」
「最近、あっちの森から出たばかりで世の中の事分からなくって。
名前は何とか分かったんだけど……出身は分からない、かな」
「そ、そうだったの」
途端に勢いを無くした彼女は、眉を八の字にして困り顔。
本当はとっても良い子なのかもと思って手を差し伸べる。
「だから、色々な事教えて欲しいんだ。
よろしくね、ミスティ」
「そう言う事なら……まあ」
先程よりは少しだけ態度が穏やかになって、私はシーアと共にミスティの話しに耳を傾ける事にした。
ミスティ曰く、世界は広く大陸は更に複雑であると。
私がどうしたいのか、何を知りたいのか具体的に話してくれるなら知っている事を教えてあげると言われた。
「えーと……あ、魔法についてとか?」
「魔法?それなら王都にあるアカデミーや、その系列の教会・学園・ギルドじゃないと詳しい事は分からないわよ。
素質の問題が大きいって聞くし、何より国お抱えの魔法使いって中々外に出て来ないからあんまり本とかも残ってないのよね!」
「え?魔法ってそんなに難しいやつなの?」
「昔の人達は色んな魔法を使えたらしいけれど、どれもおとぎ話の中ばかりで本当のところはよく分からないままよね」
「もし本当に魔法が使える人が居るのなら、荷馬車にいーっぱい付加魔法施してもっと行動範囲を広げられるのに!」
「そう言えばアスラは初めから魔法や精霊の事に興味を持って居たわよね、うっすらとでも記憶があるのかしら?」
問われて、言っていいのかと一瞬黙り込む。
しかし私の力が誰かの役に立てるのであれば、それを商売にして稼ぐ事も出来るのかもしれないと前向きに捉えることにした。
「実は……」
小さく呟いた言葉に、シーアとミスティはびっくり顔で固まってしまう。
魔法が使えると言うのはそれほど珍しい事のようだ。
「な、使えるって……どの魔法が?」
「火をつける事、水を操る事、あとは木の枝をナイフに見立てて食材を切る事、かなぁ」
「え、おねーさん……森で暮らしてたってそう言う事?
狩猟民族とか?でもこの辺りでそう言う話し私は聞いた事無いんだけど」
「私も無いわね、それにあの森の中にはたくさんの獣が居るから村の人も滅多に入る事は無いし……。
ねぇアスラ、水の魔法ってどんなものなの?」
キラキラとキャラメル色の瞳を輝かせるシーア。
それに釣られてミスティまでも興味津々と言った様に身を乗り出した。
そこまで言われては断る理由もあるまい。
私は2人の前に水球を出現させると、空中にとどめた。
「これをどうするのよ?」
「主にお風呂として使ったり、出て来る獣の息の根を止めたりしてたよ。
初めは魚を取って食べたりその辺りになってるきのみを食べてたんだけど全然足りなくてさ。
まず初めにウサギ、小さめのイノシシなんかをこの水の玉で捕まえて、覚えてる範囲の中で解体したり洗ったりしてなんとか食べてた。
間違った調理方しか知らなかったから多分変な食べ方とかもしてたかな」
「ちょっと!野生の獣の中には毒のある生き物だっているのよ!?
知識皆無でよく生きていられたわね!?」
「分かりやすい獣しか食べてないよ!」
「分かりやすいって……」
大きな溜め息を吐き出したミスティは、御者台の足元からいくつかの本を取り出して私に投げた。
どうやらそれは獣のイラストが描かれた絵本のようで、シーアと共に目を丸くしていると「読みなさい」と言って指を指す。
「あのねアスラ、アナタが記憶が無くなったとか以前に生きる為の知識を付けるべきだと思うわ。
記憶を取り戻したいなら尚更ね。
魔法に興味があるのは結構だけどまずは幅広く知識を得る事が得策よ」
「……ありがとう、ミスティ。
心配してくれて」
「しっ、してないわよアンタなんか!」
瞬時に真っ赤になったミスティに笑いながら、私は絵本の背表紙を撫でたのだった。




