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これは私が異世界に転生した先での物語。

夢にまで見た異世界転生、最強チートでシンデレラストーリーにより私は幸せになるんだと……思っていた時期が私にもありました。




「アスラ、こっちの棚整理どれくらいで終わりそう!?」


「あと1時間ちょうだいっ!

キッチン人足りてる!?庭の方の飾り付けどうなってるか分かる人居たら連れて来て!」


「キッチンさっき補充で入ってくれた人居るから大丈夫!

庭はミリーがヘルプに入ってくれてるからそっちも大丈夫よ!」


「ありがとう!じゃあ棚整理終わったらまた声掛けるから、出来ることあれば教えて!」



パタパタと駆け出す彼女を見送って、私は懐中時計を取り出して時間を確認する。

手を付け始めて40分だが、ようやく終わりが見えて来た。

この屋敷では明後日、大きなパーティが執り行われる。

いわゆるガーデンパーティと言われるものだが、その準備を手伝って今日で3日目、間に合いそうだなと安堵の溜め息を吐き出すのは一体何度目なのか。



異世界に転生して来た私は、初めこそはしゃぎまくっていた。

ファンタジー系の小説を読み漁っていたので予備知識はばっちりで、この世界保有の生き物や魔法、安全を確保されていない広大な大地に胸を躍らせていた。

しかし、目を覚ました先では神様に出会う事も無ければ信頼出来るバディも居ない、街も無ければ国すらどこに行けば良いなど案内役も居ない。

魔法の使い方を教えてくれる先生も、この世界の秩序や法律を教えてくれる人も居なかった。

何も知らず何も持たされず、私は1人大陸を彷徨った。

体力も人並の私が生きようとどれだけのサバイバルをこなしたか……今思い出しても可哀想だと思う。

むしろあの時代が懐かしかった。

携帯ひとつで何でも出来て、調べ物だって検索ワードでちょちょいのちょいだ。

水はなんか勝手に出て来るし、お風呂には入れるけど木の実探しで1日過ごしてたんじゃ生きられない。

なので森に入って川を探して魚を採った。

捌き方もネットでよく見ていたからなんとなく出来た。

何度もする内にどうすればやりやすいかのコツも掴めるようになってくる。

初めは頭を折って背骨を抜いてはらわたを出したものを川で洗って焼いて食べて居たけれど、まあ、それもどんどんと慣れてくる。

日付を数える事を辞めた頃、私はようやく森を抜けた。



その時初めて、あれはそう言う物語なんだと理解した。

助けてくれる人も、案内役も、知識も。

お膳立てがあって始めて彼らは生きられるし、生き方を選択出来るのだと。

私は今自分が持っているものも何一つ理解出来ていないし、それを知る術が何一つ分からないのだ。

お金も無いし信頼出来る友も居ない、ただ少しだけ水の出し方を知っていて、転がっている木の枝をナイフの代わりに強化出来る程度しかない。

そんな私は、今とある街で便利屋をしている。

生きて行くためにはお金と知識と居場所が居るからだ。

森の中で磨いたサバイバルスキル、自然の中で確かに感じる人や生き物以外の気配、自分の扱う魔法について。

生き抜くと決めてからの私はとても頑張った。



人の居る場所に行くにはまだ早い事。

魔法がどの程度扱えるのか、それを知るのに1年かかった。

まずは水の魔法。

生きて行くために必要であり、尚且つお風呂や飲み水など初歩的な事を始めるのに、形の無い目に見える物は便利だった。

初めはちょろちょろと指先から流れていたそれを、どうやって出ているのだろうかと首を捻る。

指先でなくても良いのであれば、自分の示した場所に留める事も可能なはずだ。

まずはひとつ指定した場所に水球を留める練習をした。

安定して出来るようになってからは、その水球を移動させてみる。

水の魔法と並行して、落ちている木の枝をナイフと同じ物に扱う術を得た。

頭の中を空っぽにして、この枝はナイフだと自分に言い聞かせる。

そしてその枝の先がゆっくりと切っ先の鋭い物に見え始めたら近くに落ちていた木の実を傷付けてみて、切る事が出来たら成功だ。

ナイフと水、ただそれだけ。

私は森の中でその2つに絞ってスキルを磨いた。



森を抜けた頃、私は水球を5つ同時に空中に浮かべる事が出来るようになっていた。

木の枝をナイフに脳内で変換するのも一瞬で出来るようになり、少なくともこの辺りの獣であれば負けないと言う自信もついたし、何より心に余裕が出来た。

水と並行して炎を出す練習もしたが、水の魔法との上達に差が出るようで精々が私の手のひらほどの炎しか出現させる事が出来ないでいる。

森は木々の密度も高く、山火事の危険性もあって中々思い切った練習が出来なかったので、森を抜けた先にある山に向かう事にする。



とても広く整備された道に出て、脳内に「街道」と言う文字が呼び起こされた。

国と国を繋ぐ整備された道の事を街道と言うのだったか。

それとも大きな街だろうか。

行先の規模も分からず、ひとまずは先に見える山を目指す事に決めた。



1人だと何も話さないと思っていたが、かなり独り言が増えたなと我ながら頭を抱える。

だって気付けばこんな場所に居て、ひとりぼっちなんだもの。

寂しいと思いながら焚き火を囲う事何ヶ月。

無駄に髪は伸びるし、服は水で洗うだけだから伸びたりしていてちょっと格好悪い。

新しい服がそろそろ欲しいと思っていたところで、街道をそれた場所に小さな村があるように見えた。


よく見るとかなり小規模な村のようだ。

端から端が見える範囲にあって、弱々しい作りの家に老人や女の子が畑の世話をしながら暮らしている。

大きめの屋根の下には見慣れた牛や鶏などの家畜が見える事から、酪農の村かと勝手に決める事にした。



久しぶりの人だと思いつつも、いきなり「異世界に転生して来ましたー!」って言うのも変なので記憶を無くして森に居たことにして、労働を対価に何か食料とか服とかを頂くとしよう。

そう決めて、私は街道からそれた小さな村へ行く事に決めたのだ。



「……旅の方かね?」



そう言って近付いて来たのは、杖をついたおばあちゃんだった。

顔のシワを取ればすごく綺麗な顔立ちなのが見て取れて思わず息を飲んだが、当初の目的を思い出して詰まりながらも事情を説明する。

話しながら、旅の方と言う言い方に余所者が入って来る場合が少なからずあるのだと分かった。

自分が誰かも分からず、森に居た。

手伝える事があれば何か仕事がしたい事を伝えると、途端に私の手を取って「こちらにいらっしゃい」と言って近くに居た何人かの女の子に私を任せた。



「たった1人であの森を彷徨っていたなんて……良く無事で」


「その様子だと水浴びは出来ていたようね、お洋服を用意するわ。

アナタは何か栄養のつく物を作って来てあげて」


「お湯を沸かしてくるからお風呂にはいりましょ、森の中では何を食べていたの?

木の実や魚は取れたわよね……牛乳粥にしましょうか」



3人の女の子達は私の手を取るとそれぞれ役目を果たした。

私と言えば何を答えれば良いのか分からず、されるがままに身体を洗われ髪を整えられ周りの子達が着ているシンプルなワンピースと歩きやすいブーツを履いてどこか別の家へと連れられた。



「あ、あの」


「なあに?」


「こんなにしてもらって……私、返せる物を持っていない」


「困った時はお互い様よ?

それに対価なんて要らないわ、まずは食べて休んで……私達とたくさんお話しましょ?」



そう言って笑った女の子は、私の手を引きながら席に着いた。



牛乳のお粥だと言われて出された他にも、見た事のないフルーツが目の前に置かれる。

先程話していたおばあちゃんが「食べられそうな物を食べると良いよ」と笑った。



「しばらく村に居て、身体を休めると良い。

なぜ自分があの森に居たのかと不安だろうけれど、まずは心に余裕を持つ事さ。

なに、急く事は無いよ。

ここには何も無いけれど、時間はある。

アンタがここに来たのもひとつの縁だろう?

精霊様の導きなのかもしれないよ」


「精霊様」



この世界にも、やはり精霊と言う存在はあるのか。

魔法が使えている理由の一つなのか、それともただの信仰上の産物なのか。

とにかく今は甘える事にしよう。



出された牛乳粥を食べながら、人と話している事に何故だか酷く安心した。

泣きながら食べている私に「泣かなくて良いのよ」と優しい声があちこちから聞こえて来て、やっぱり1人は寂しいのだと理解したのだ。



この酪農の村は、名を「インソン」と言うらしく。

王都を中心とした大陸の端の橋に位置する小さな小さな村だ。

私の居た森には名前が無く、逆に抜けると別の村へ出ていただろうとの事。

この世界はたくさんの国とたくさんの人で成り立っているようで、その中でもひときわ大きな領土を確保しているのが王都と呼ばれる大陸の真ん中にある国だ。

王都を中心に5つの国があり、そこから様々な街道や山や川などが街と町と村を繋ぐ。

何十年か前に隅々の区間整理が終わったと王都がお触れを出した事から、それなりに広く広大な大陸なのだと位置付ける。


しかし王都と端の村との格差はやはり大きく、この村は餓死する程では無いがギリキリで食べていける位の収入で成り立っているらしい。

毎日取れる牛乳や卵などの特産物を馴染みの行商人に託して収入を得たりするものの、新鮮さが売りのそれらは持ち歩ける日数が決まっている為どうしても遠くまでその品物は届ける事が出来ない。

村の人達はそれで満足しているようなので、私はそれらの作業を手伝う事にした。



「アスラ、足元に気を付けてね?

無理してはダメよ?」


「うん」



心配性のシーアに頷いて、私は鶏小屋に入る。

鶏達が何事だとコケコケ鳴いているのを尻目に「仲間だよ、仲間」と答えつつわらを探ると、まるい物体を捕らえることに成功した。

持っていたカゴの中に4ついれて入り口に戻ると「すごいわ!」とシーアが手を叩いて喜んだ。



「鶏達が全然逃げなかったわね、いつもなら私でさえ卵を取る時はつつかれるのに」


「たまたま弱そうに見えたのかもね」


「そうなのかしら……アスラは動物に好かれやすいんじゃない?

警戒心の強いうちのベスも、アナタが来てからずーっとべったりですもの」


「好かれやすいのは良い事だね。

ベスも可愛いし、嫌われるより良いよ」



シーアは「そうね」と笑って私の隣を歩いた。


この村に来て、初めこそ村長であるおばあちゃんの家に居たけれど。

シーアが「私の家へ来て!」と言うと次の日からはシーアの家へお世話になる事に決まった。

曰く「同年代の女の子が居なかったから」との事だけれど、私もやっぱり同年代の女の子と一緒の方がとても安心出来たので良かった。

それに彼女はとても明るくて、外の事にも興味を持っているようで様々な事を教えてくれる。


魔法の事、世界の事、大陸の事、街の事。

狭い場所だからこそ外に出たいと願っていると言う切なる願い。

いつかと思ってはいるものの、ここの生活もすごく楽しいので中々決心が付かないらしい。



私はこことは別の世界から来た事は秘密にしているが、もし私がここで産まれたら……シーアと同じ様な考え方になったのだろうか。



「あ、今日は行商人の方が来る日なのよ!

アスラもお話し聞きたいでしょう?」


「うん」


「それなら早く行きましょう!」



明るい笑顔に私は救われながら、その手を取る暖かさに笑みを浮かべた。

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