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ある魔道家の跡取り息子  作者: みどりりゅう
巨人号の事件

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82/90

巨人号の事件53

 プロムナードに出ると、破損がひどい……というより、もはや船体が割れている!

 こんな大きな船が割れるように損壊されるだなんて、いったいどれだけの衝撃が下から来たのだろう?


「なにがあったかはわかりませんが、こうなってはなおのことはやく逃げないと。下りますよ」

 叔母のうながしに、


 翔之介は再度

「はい!」

 興奮と緊張の声音でこたえた。


 船内が破損したおかげで、迷宮化の術式も壊された。まっすぐ階段を下りて7階デッキの救命艇を目指す。段を急ぎ下る陽城家ふたりだったが、その前から


「グガガガガ!」

 襲いかかってくるのは、サメ型のヒトガタ・サーメくんだった。大口を開けて突進してくる。

 船体が壊れても、アチラモノを惑乱させる術は壊れず継続しているようだ。


「――ひさかた!」


 魔美子が一蹴するのをうしろから見守っていた少年だったが、そこに隙が生じた。


「翔之介、あぶない!」


 その声にふりかえると、上階に立っていたのはヒトデ型のヒトガタ・ヒトデくんだった。

 生態に忠実に、まんなかの口から胃袋を出して捕食しようとしてくる。

挿絵(By みてみん)

 サーメくんに手を取られた魔美子も、油断していた翔之介にも間に合わない。

 美少年の紅顔が無惨にもかじられようとした、そのとき


「――lesu(止まれ)」

 階の奥から重々しい声がかかったかと思うと、ヒトガタの動きが止まって倒れた。


「呪の制御を失ったのだな。いまいましい音のせいだ」

 杖をついて近づいてきたのは、ラビ……老ユダヤ僧だった。


「甥をたすけていただきありがとう存じます、your grace(高僧さま)」

「あ、ありがとうございます!」

 ふたりの感謝に


「なに。通りかかっただけのことよ。わしも降りようと思ってな」

 避難する気か、シンプルな巾着袋を手にしている。おそらく、もともと手持ちが簡素なのだろう。


「『音』とは、なんのことかお教えいただきますでしょうか?」

 魔美子の問いに


「わしの耳には聞こえんが、どうやら良くない音が船内で鳴り響いておるようだ……こいつが調子をおかしくしてな」

 肩に止まる鳥を指差す。かわった縞模様の頭頂を持っただいだいの小鳥だが


「そのヤツガシラは、ゴレムの一種ですか?」

 魔美子のさらなる問いに、少年もそれがつくりものの鳥であると気づく。


「まあな。わしのつくったものだが、急に誤作動を起こしてな。調べると、どうやら音波のせいだ。人間には聞こえん音でいたずらしているものがおるようだ。船内の配置をシッチャカメッチャカに変えたやつと同じかのぅ?とにかく嫌な感じがするので、荷物を持って部屋を出たのよ。そしたら、その直後に急な突き上げが来ておどろいたわ。船も長く保つまい」

 老僧はふたりにむかって

「避難なさるのなら、ごいっしょできるかな?なにせ、わしは現代のならいにつうじておらん。こういうとき、どう立ちまわったらよいかよくわからん」



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