巨人号の事件53
プロムナードに出ると、破損がひどい……というより、もはや船体が割れている!
こんな大きな船が割れるように損壊されるだなんて、いったいどれだけの衝撃が下から来たのだろう?
「なにがあったかはわかりませんが、こうなってはなおのことはやく逃げないと。下りますよ」
叔母のうながしに、
翔之介は再度
「はい!」
興奮と緊張の声音でこたえた。
船内が破損したおかげで、迷宮化の術式も壊された。まっすぐ階段を下りて7階デッキの救命艇を目指す。段を急ぎ下る陽城家ふたりだったが、その前から
「グガガガガ!」
襲いかかってくるのは、サメ型のヒトガタ・サーメくんだった。大口を開けて突進してくる。
船体が壊れても、アチラモノを惑乱させる術は壊れず継続しているようだ。
「――ひさかた!」
魔美子が一蹴するのをうしろから見守っていた少年だったが、そこに隙が生じた。
「翔之介、あぶない!」
その声にふりかえると、上階に立っていたのはヒトデ型のヒトガタ・ヒトデくんだった。
生態に忠実に、まんなかの口から胃袋を出して捕食しようとしてくる。
サーメくんに手を取られた魔美子も、油断していた翔之介にも間に合わない。
美少年の紅顔が無惨にもかじられようとした、そのとき
「――lesu(止まれ)」
階の奥から重々しい声がかかったかと思うと、ヒトガタの動きが止まって倒れた。
「呪の制御を失ったのだな。いまいましい音のせいだ」
杖をついて近づいてきたのは、ラビ……老ユダヤ僧だった。
「甥をたすけていただきありがとう存じます、your grace(高僧さま)」
「あ、ありがとうございます!」
ふたりの感謝に
「なに。通りかかっただけのことよ。わしも降りようと思ってな」
避難する気か、シンプルな巾着袋を手にしている。おそらく、もともと手持ちが簡素なのだろう。
「『音』とは、なんのことかお教えいただきますでしょうか?」
魔美子の問いに
「わしの耳には聞こえんが、どうやら良くない音が船内で鳴り響いておるようだ……こいつが調子をおかしくしてな」
肩に止まる鳥を指差す。かわった縞模様の頭頂を持った橙の小鳥だが
「そのヤツガシラは、ゴレムの一種ですか?」
魔美子のさらなる問いに、少年もそれがつくりものの鳥であると気づく。
「まあな。わしのつくったものだが、急に誤作動を起こしてな。調べると、どうやら音波のせいだ。人間には聞こえん音でいたずらしているものがおるようだ。船内の配置をシッチャカメッチャカに変えたやつと同じかのぅ?とにかく嫌な感じがするので、荷物を持って部屋を出たのよ。そしたら、その直後に急な突き上げが来ておどろいたわ。船も長く保つまい」
老僧はふたりにむかって
「避難なさるのなら、ごいっしょできるかな?なにせ、わしは現代の習につうじておらん。こういうとき、どう立ちまわったらよいかよくわからん」




