巨人号の事件52
「いけるのか?全容もわからんぞ」
相棒の問いに
「なに言ってる!あたしの容量は体育館並みだよ!」
気丈にこたえた相棒は、自らに襲いかかる触手をそのまま飲みこんだ。それから掃除機のように全体を吸いこむ作業に入る。いつもなら、あっという間に一飲みだが……
なんてことだ!ロイドがなかなかすべてを飲みこめず、苦しそうな表情を見せている。
相棒の苦悶の表情を初めて見た。
(まさか……)
固唾を飲んで見守っていたリーだったが、ついには、会場に触手の影がなくなった。
(よし!全体を飲みこんだ)
「さすがの大食いだな。よくあれだけのも……」
めずらしく相棒に称賛の声をかけたリーだったが、すぐさま相棒の異変に気づいた。
彼女は
「だ、だめ……あたし、もうおなかいっぱ……」
苦しげに白目をむくと
「……うげっ!!うげげげげ、げごっ!!」
口から粘液が溢れ出たと思うと、体がまるで発情期のカエルのように膨らんで……
バンッ!
内部から弾け飛んだ。
その瞬きほどの間に危機を感じて必死に距離を取ったリーは、飛び散った長年のパートナーの肉片を総身に浴びながら、自分が生き残る方法を考えていた。
(――撤退だ。こいつはやばい)
ロイドの体を突き破って暴れるモノは、自分の手に負えるものではない。ここは一時退却して、対応を考え直すべき存在だ。生きた高性能アイテム・ボックスであるロイドを失ったことは今後の仕事に影響を与えるが、自分にとっては致命的なものではない。
(いつものとおり、おれだけは生き残る……)
リーが撤退を判断したことはまちがっていなかった。
「!」
ただ、遅かった。
扉に脱出しようとした彼の眼前にあるのは、粘り気のある肉の壁だった。よく見ると、それはスライム状の組織が成したものであり、すでに四方をおおっている。
(ロイドの体から四散した触手の肉片か?いや、それにしては早すぎる……まさか!?おれたちが今まで対峙した触手は、先触れ……全体から見てほんの一部分か?別部分が同時進行で侵攻している?)
まるで置かれた環境・時期にあわせて細胞を変形分離させる粘菌のように。それにしても、全体が巨大すぎる。
すでに、リーは周囲の空間を巨獣に掌握されていたのだ。
冷静をモットーとするリーも、これには叫んだ。
「KAIJU!!」
粘体に飲みこまれると判断したリーは、迫りくる肉の壁を防ごうと冷気を放った。しかし、この場合それは悪手だった。
リーの冷気が通じなかったのは、粘体部分が分厚いからではない。単に魔獣は、その圧倒的な魔力差によってリーの力を遮断していたのだ。ふつうの魔道者であればすぐにわかる実力差が、単純能力者で(かつ自分たちより強いものに接したことのない)リーやロイドには分からなかった。
上下四方を防がれた状態で最大級の冷気を放ったリーは、自らの能力により自身を凍らせる羽目になった。
(――やはり、おれの冷気は強力だ)
心臓までこおり切った時点で、彼の生命反応は途絶えたが、魔獣にそれを食すつもりなどない。
彼……もしくは彼らは、リーの凍った肉体を細かく潰し吐き出すと、上の階に侵出し始めた。
海底から上がってきたクラーケンが思っていたことは、ひとつだった。
(――やかましい)




