巨人号の事件51
それ以来、ふたりはフリーの術者コンビとしてこの業界を渡ってきた。
強者である彼らに、組織に属するメリットは少ない。
また、それは雇う側にとっても同様で、わざわざ扱いにくいワガママ能力者を組織に置いておく必要もない。多少高くは取られるが、外注契約しておくのが一番良い。
彼らが依頼(そのおおよそには「殺し」か「強奪」がからむ)をしくじったことは一度もない。特に、対魔道者戦には絶対の自信を持っている。
ロイドとリーは伝統的な魔道者……力の発現に詠唱を用いる術者を軽侮していた。呪文や祭文などのことばを詠唱するぶん、ふたりのような特殊魔能力者に比べて圧倒的に術(能力)の発動が遅かったからだ。
魔道家に生まれ育った伝統的術者は、一律の教育環境のもと伝えられてきた多彩な術を操る。が、多彩な術(能力)を切り替えるにはそれぞれの術の発動に応じて、スイッチを切り替えなければならない。そのスイッチに当たるのが、詠唱呪文である。
いっぽうリーやロイドのような固有能力者は、ほぼひとつの能力(術)しか使えないが、術の発動を無詠唱で行える。
対人戦で考えた場合、無詠唱のメリットは大きい。いくら相手が強力な術を持っていようとも、その術が発動する前に攻撃できるのだから。相手が棚から猟銃を取り出そうとする間に、手持ちの果物ナイフを投げつけるようなものである。
有名になったせいで能力への対策も講じられてきたが、それでもリーとロイドは常に勝利してきた。
だからある意味、ふたりとも仕事を舐めていた。魔の世界の深みを知らなかったのだ。
「――こいつはなんだ?キメラか?スライムか?」
一本一本がトレントの幹ほどもある巨大な触手がおそろしい速度でしなるのを、ふたりの能力者は必死に避ける。
「船底を突き破って来た。ずいぶんじゃじゃ馬ね」
「大きすぎて、全体が把握しきれん」
とはいえ
「……すこし凍らせたら、おとなしくするだろう」
リーがいつものように冷気をふりそそぐが
「!?動きが止まってないじゃない?どういうこと?」
「……ぬめり部分がぶ厚いのと、筋肉運動が激しいので凍りにくいようだな」
冷静な声音をたもって言ったが、内心リーも驚愕していた。彼の冷気を生身で受けて耐える生物など、初見だったからだ。
(いや、生物ではないか。これが野生のアチラモノ……)
今までも、いわゆるアチラモノ……異界存在を相手にしたことはたびたびあったが、正直そのどれもがたいした相手ではなかった。たしかにニンゲンに比べたら、動きが俊敏だったり力が強力なこともある。ただその動きひとつひとつには知性もなく、単調なロボットめいて対処もたやすかった。
リーとロイドが知っているアチラモノは、あくまで術師が飼い慣らしたものである。先程のトレントにしても、たしかに強力だがそれはニンゲンが扱いうるものである。
今ふたりが対峙しているのは、それらとまったく異なる範疇に属する、ほんものの魔獣だった。
二度三度とくりかえし冷気を浴びせても、すこし体をぬたらせると表面に張った氷をふるい落として触手をしならせる。
(速さも変わらん。むしろ速度を上げてきている)
攻撃を避けるのもむずかしくなったロイドは、辛抱できず
「――どけっ、リー!もうこうなったら、このままあたしが飲みこむ!」
能力を開放しようとする。




