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ある魔道家の跡取り息子  作者: みどりりゅう
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ぬばたま2 

 翔之介はそこで目が覚めた。いるのは、もちろん禍王家の寝間である。汗でびっしょりだった。時計を見るとまだ六時前だ。

(なんて嫌な夢だろう。もう一回、寝直したい……)


 しかし、そこで何やら部屋に面した内庭の方がさわがしいのに気付いた。

(なんだろう……)

 つい気になって、こっそり部屋を出て廊下から庭に回ると、寝間着姿の魔美子やたま子、それに龍臣や銀鹿医師がなにかを取り囲んで話をしていた。


「……どうかしたんですか?」

 と近づくと

「あら、翔之介さん。起こしてしまったのね、ごめんなさい」

 たま子は愛想よく言ってくれたが、魔美子は

「ここはこどもが来るようなところではありません。おもどりください」

 とすげない態度だ。

「まあ、そう言わないで、魔美子さん。来てしまったものはしょうがないわ」

 たま子が、そんなとりなしをしているうちに、翔之介は大人たちが何を取り囲んでいるのか、すきまから見えてしまった。

挿絵(By みてみん)

 それは傷ついて横たわっている翔之介の知らない男性の姿だった。おどろく翔之介に、たま子が説明をしてくれる。

「侵入者よ」

(侵入者!)

「有名な反禍王派の術者だ。夜間に侵入して、なにかよからぬことをたくらんでいたにちがいない」

 龍臣が言葉を添えたそのとき、ちらっとたま子が翔之介の方を見た。

(……そうか、ぼくか!?ぼくを狙いに侵入してきたのか、この人は?)


 昨日の高速道路の一件と同じく、あらたな表家の跡継ぎができたことをこころよく思わぬものが自分を始末するために来たにちがいない。翔之介はおののいた。


「なにかが起きる前に阻止することができたのは良かったけど……不思議なのは、この侵入者を倒したのが一体だれなのかわからないのよ」

「えっ?わからないって……」

「よりによって『この術』で倒されているとはな」

 龍臣の意味ありげな言い方に、翔之介は横たわる男をじっくりと見た。

(あれ?)

 彼はその残された黒い異形の傷跡に見覚えがあった。それは「今さっき」見たはずのものだった。


「……ぬばたま?」

 思わず、つぶやいた。

「――なんですって?いま翔之介さま、なんと?」

 魔美子がするどく問うた。

「翔之介さん、なぜその術の名を?」

 たま子も顔色が変わっている。

「えっ……あの……」


 翔之介は正直に、いま夢で父・龍雄が術を使うところを見たことを言った。(ただ、母・冬子と相手の白い男のことには触れなかった。なんとなく、その方がよいと思ったからだった)

 大人たちは興味深そうに聞いている。たま子がため息交じりに言った。

「そんな夢を見ることがあるのかしら?不思議ねえ」

「この家では何でも起こりえますからな。特に翔之介殿は優れた魔能をお持ちのようだから」

 銀鹿医師が説明した。

「確かにこの傷跡は『ぬばたま』によるものです。この術はすさまじい瘴気をともなった暗闇状のガスを浴びせることにより、人間を前後不覚または死に至らしめるおそろしい術です。……しかし解せませんな」


 みな、一様に顔を曇らせている。

「――この術は龍雄さまが表家専属のものとして開発されたものです。つまり自分の遺伝子を持つ者だけが使えるようにと、特別な術の設計をしておられるはずなのですが……」


 翔之介が訳がわからずきょとんとしていると、いつの間にか天鼠先生を伴いあらわれた豹子が

「つまり、その『ぬばたま』を使ったものは、龍雄おじさまの血を引き継いでいるという訳ね。同じ禍王の人間といっても、あたしや龍子大おばさまにその術は使えない」

 と言った。

「けども、龍雄お父さまの血を引いているといっても、わたしや龍臣お兄さまにはそんな術は使えないのよ。だって、もともと魔能自体がないんですもの」

 たま子が言うと、豹子は笑うようにつけくわえた。

「あら。龍雄おじさまの血を引く方なら、ここにもう一方おられるじゃありませんの?」


 みな一斉に、いまだ寝ぼけた顔をしている少年を見た。



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