巨人号の事件49
おら、最初っからおめぇが言ってるのはみんな嘘っぱちだって気づいていたけど、言わねぇでやっていたんだ。なにせ、おめぇさんプライド高そうだし、それを明かしたところで、なにも事態は変わらねぇからな……その恩も知らずに、おらにこんな暴力ふるうたぁ、ふてぇやつだ。この外道が!……船の中は大騒ぎだど。どうする気だ?おめぇ」
ただす職人に、
蠏呪家は貌をドス黒く紅潮させて
「だまれ!この劣民が!おまえが箱の開け方を教えれば、それですむことだ!」
大声と暴力で訴える。
しかし、殴られる職人は冷ややかに
「どうせ、教えたところでそのあと殺す気だろ?このズルっ子め……たしかに、おらはおめぇさんよりあの箱について少しは知ってはいるが、開ける手助けはしてやれねぇよ。おらのことばで、これ以上死人増やしたくねぇからな。それにしても、鬼利江さんは気の毒だった。あの人はなにも死ぬ必要なんかなかったのに……おめぇがあの女を殺したわけではねぇんだな?」
くり返しの問いに、
十鬼太郎は
「そんな恥知らずなふるまいを、誇り高き蠏呪家の人間がするか!……たしかに、我が家の解呪能力は往時に比べて衰えている。遺伝子が経年劣化を起こしているようだ。しかし、現在の魔能補修技術ならばその補いもできよう。伝統こそないが財力のある斑玉家とひっつけば、財力にまかせて十分挽回可能だ。こんなカネだけでなにも伝統のない魔道家など乗っとればよい。蠏呪の栄光は続くのだ!」
目を爛々とさせて言う。
「おめえさん、本気でそれ言ってるだか?……そりゃまあ、えれぇものに誑かされちまったなぁ。あわれなおひとだ、あんたは。せっかく良い家に生まれ育ったのに、人間こんなことになっちまうんだな」
あきれた、というよりあわれなものを見る目を向ける職人を
「だまれ、この劣民が!しかたない、強情を張るならそのまま死ぬがよい。おまえはそこで縛られたまま沈むのだ」
十鬼太郎が放置して部屋を出ようとした、そのとき……下から衝撃が来た。
「このまま、船から逃げます」
ターコくんを撃退したあと、魔美子は翔之介に告げた。
「何者かが、鬼利江さまを殺害したうえあなたに罪を着せようとしている。そんな状況になったからは、なによりもまずあなたの安全を確保しないとね。さっきは『運良く』急な転送があってまぎれたけど、少なくともツァーリはあなたがあの短剣を抜くことができる唯一の人間であることを知っている。今ごろ斑玉家の
中では、あなたが鬼利江さま殺害の第一容疑者になっているでしょう」
そんな……ぼくは小学生だよ、殺人の容疑者だなんて。
「そんなことは、魔道の世界ではべつにめずらしくないわ。禍王龍雄なんて、あなたの年ごろには、何人も殺していた。それだけ人を殺しても文句が出なかったのは、禍王家が強力だったからよ。ただ現状、わが陽城家はそこまで強くない。あなたが責められないようにするには、真犯人を特定するぐらいしかない」
「真犯人さがしですか?」
推理小説みたいになってしまうな。でも、そんなことできる?
「できないでしょうね。その前にあなたが束縛されてしまう。そんなの堪ったものじゃない。だからこのまま船から逃げるのよ、ふたりして。お兄さまの絵は持っているでしょう?」
少年は胸元のペンダントをにぎりしめながらうなずく。父・鷹太郎が母を描いた絵は肌身はなさず持ち歩いている。
「それがあれば、いいわ」
でも……逃げるって、どうやって?
「迷路化の混乱に乗じて、とにかく外部に逃げましょう。ヘリに乗ることができればよいけど、それはむずかしいだろうから、狙いは救命艇かしらね?」
そんな……映画みたいにうまいこといく?
甥の不安な表情に、叔母はめずらしくにっこり微笑むと
「……よい訓練です。これくらいの危機を乗り越えられないようでは、今後、魔道家としての発展など望めないでしょう……さあ、生き残って新たな陽城家の力を見せてやりましょう」
「は、はい!」
返事したとき、すさまじい衝撃が下からきた。




