巨人号の事件48
「あ――っ、冷た……それで、帰りはどうする?来たときのゴム・ボートなんて壊れたでしょ」
「あれは、接近してもレーダーに映りにくいから使っただけだ。帰りは、スマートにヘリにでも乗りたい。だれか操縦できるやつがいるだろ?」
「いても殺したんじゃない?あんた大規模に冷気を展開しすぎよ。おかげでこのフロアの人間、みんな凍っちゃったじゃない……ほら、じいさんまで死んじゃった」
わきには凍って落ちたガンクルージョの首が転がっていた。
「あんたは考えなしに殺しすぎなのよ。いつも言ってるでしょ。殺す前に胸に手を当てて、こいつはほんとうにいま殺してよいのか、考えろって」
「そんなひまはない。おれは考えるより感じて動くタイプだ」
「ただバカってことでしょう?」
口ではかなわないのか、お下げ髪は言い返さず
「……最悪、海面を少しずつ凍らせてその上を行く手もある。青キジ先輩みたく自転車でも漕ぐか?」
自分とよく似た能力を持つマンガ・キャラのまねを提案する。
男のこどもっぽいロマンを解さない女性は
「いやよ、そんな手間がかかるマネ……って、どうもヘンね」
文句を言いつつ、自分の腹部を撫でる。
「どうした?」
「おなかの中のトレントが怯えてる。この子はかしこい。凍らされていても、あたしたちがそれ以上傷つけないことを理解している。なのに、なにか恐れている。さっきまではただイライラしていたようだったのに」
「どういうことだ?魔獣だけに感じ取れるなにかというわけか?」
ロイドは、腹中の魔植物と交流するように話しかけて
「……下?そいつは下から来るって言うの?」
次の瞬間、船底から衝撃が来た。
「……おまえが箱を持ち逃げたんだろう!箱の在りかをはやく言え、この下郎が!」
後ろ手に縛られた職人……奇多郎を小突いてうながすのは、十鬼太郎だった。
船内の一室で、ふたりきりだ。
殴られて弱った職人は
「……気の荒いやつだな、おめぇ。ヒトをどついてモノたずねるとは、育ちが悪いな」
「だまれ!」
縛られた腹に蹴りが入る。
「ぐへぇ!」
苦しむ奇多郎に
「おまえがあの箱の秘密を知っていることはわかっている。とっとと白状しろ!」
ととのった顔をゆがめてせまる名家の魔道者に、
職人は痛みをこらえながら
「おら、箱がどこに行ったかなんて知らねぇよ……それより、本当に鬼利江さんは死んだのか?」
「そうだ。まさかおまえが殺したのではあるまいな?」
「おら、そんなことしねえ。おら、ただあの奥さんに箱のことで相談されただけだ。おら断って、早々と部屋を出た。それからひとり甲板に出て、ものを考えてたら急に船内がぐちゃぐちゃになって戸惑ってたら、おめえに見つかってしょっぴかれたんだ。無体な野郎だ、おめぇさんは」
うめくと、つづけて
「それにしても、あの奥さんが亡くなっちまうとはな。もうしわけねえことしちまったな。こんなことなら……」
「やはり、箱の開け方を知っているのだろう!?教えろ、下郎が!」
なぐる十鬼太郎に、
奇多郎はジトッと上目づかいで
「……なんで、おらがあの箱を開けられると思った?だれかにインガ含められたか?おめぇの目、もうまともじゃねえぞ……そもそも、おめぇさんは蠏呪家伝来の力とやらで、箱の呪いを解くんじゃなかったか?」
口の端を曲げてわらうと、続けて
「……そんなこと、そもそも出来やしなかったんだろう?このホラ吹きめ。自力で無理だから、おらを使って開ける気だな?言っちゃあなんだが、蠏呪家の解呪能力はおめぇさんの代で大分落ちているんだろう?




