巨人号の事件47
それを聞いた崩子はしかし
「そうはおっしゃいますけど、ドクター。縊々子さまは今歌っておられませんよ」
疑問には
「ええ。彼女はもうその声を出すことはない。なぜならば、すでにその魔能を売却して手放したからです」
そのことばに、
若い歌手は
「ええ、そうよ!売ったわよ!」
さけんだ。
「この呪われた雑音さえ無ければ、あたしはもっと歌手として成功できる!邪魔な能力を欲しいと言われたから、売っただけじゃない!なに?それを今さら悪いというの!?まさか、あの声を使ってこんなバカなことをするだなんて思っていなかった!……せっかく、あの呪われた声がなくなって気持ちよくステージを勤め上げることができたっていうのに、なんであたしがこんな目にあわなきゃいけないの?」
さめざめと泣く。
どういうこと?まだよくわからない崩子嬢に
「船内放送です。われわれには聞こえませんが、おそらく先程からずっと、スピーカーを通して船内中に鳴り響いているのです。魔能自体は手放しても、きみはこの声を聞き取ることができているのだろう?いったいなにを歌っているんだね?」
「歌なんていうほどのものはなにもない。ただずっと、がなっているのよ!
『狂え!狂え!暴れろ!暴れろ!眼の前にあるすべてを壊せ!滅ぼせ……!』」
「うぅぅぅぅぅう……ちょっと、リー!強すぎる!あたしまで凍らせる気!?」
オークション会場は、冷却能力者の力で氷の世界と化していた。まるで冷凍庫内のような冷気の奔流に、ロイドがふるえる。
「……しかたないだろう。こいつが予想以上に暴れるものだから、出力を上げたんだ」
こたえる相棒の吐く息は白い。
目の前にはトレント……巨大な樹木のばけものが固まっている。動かないでいると、まるっきりただの凍りついた巨木だ。
(どうも不自然に気が立っていたな。もしかして、なにかの作用か?)
リーはすぐれた能力者らしく、魔獣の異常を感じ取っていた。
「生きてるんでしょうね?生きたのを運ぶのが、依頼主の条件なんだから」
「……急速冷凍させたから大丈夫だろう。細胞を傷つけにくい」
気づいていない相棒には、あえて言うまい。ただ、問いにのみ答えた。
そんなふたりの刺客を見て
(まさか、トレントを一瞬で凍らせるとは……)
自らも凍りつきつつあるガンクルージョがうめく。
そんな魔比亜のボスを放置して
「ほら、とっとと飲みこめ」
うながすリーに、
ロイドは
「……容積はともかく、冷たいのが嫌なのよね。お腹こわしそうな気がする」
ぼやきつつも
――すうっ。
巨大な植物体を一飲に、胃袋の中へと収納した。




