巨人号の事件45
「感じた?リー。なんだか上のほうでおっきい術式が展開されたよ。空間がいじられたっぽい……下層まではおよんでないみたいだけど」
「こっちに関係ないなら、ほっとけ。俺たちは自分の仕事ができればそれでいい」
オークション会場の真ん中では、リーがガンクルージョの体を氷柱でぶら下げていた。
その周囲は、相棒のロイド以外すべてのものが凍っていた。数百名からなる運営、警護スタッフおよび参加客はすでに凍死している。
生者は、ふたりの闖入者および魔比亜のボスのみだった。
「きさま、よくもわしにこんな……」
吐く息も白くたえだえで、老人がうめく。
「しかたないだろう。あんたが持ってる商品をどうしても手に入れたいという依頼があったからさ」
「……そんなもの、買い落とせばすむことだ」
「それが、あんたに金を払うぐらいなら、その倍おれたちに払うから奪ってこいとよ……よっぽど嫌われてんだな、あんた」
「……このまま、わしを殺す気か?」
「うん?いや、それは依頼に入ってなかったな。邪魔をしないかぎり、そんなことしないぜ。まあこの会場にいた者は、どれが邪魔になるかわからなかったからまとめて処理させてもらったがな。おれたちは、ただ依頼されたものをいただきにあがっただけだ」
「リー、凍らせすぎよぉ。おかげで、商品が張りついてわからないじゃなーい」
置かれたコンテナ類を確認するロイドが、不平の声を上げる。
「そのまま適当に持ってきゃいいだろう?」
「だめよ。ちゃんと中身を確認しないと。クライアントの前で開けてちがってたなんて、 カッコ悪いじゃない……おっ、このでかいコンテナか?」
吊られた老人は絶え絶えの力をふりしぼって
「その封を解いてはならん!こんなところで、そんな怪物を放っては!」
そのことばに、
栗色髪は頬をふくらかせて
「えーっ、そんなこと言われても……もう開けちゃったわよ」
電子錠が解けて、コンテナの中からすがたを見せたのは
「えっ?なにこれ?」
「おいおい……まさか、こんな……聞いてないぞ。こんなもの」
まるで大蛇のようにのたくり暴れる、無数の太い植物の枝だった。
「バカめ……巨木の精たるトレントを解き放って、おまえたちも生きて帰ることができると思うか?」
吊られたガンクルージョは、毒々しい笑みを浮かべた。




