巨人号の事件44
「叔母さまが常に手元に置かれていたのに……」
そこで、翔之介はハッとして
「あれ?職人さんは?」
つぶやく。
「職人?どういうことだ?」
十鬼太郎の問いに
「えっ?さっき、ビッグ・アイがこっちに奇多郎さんを案内して……」
返すと、
みなまで聞かず十鬼太郎が
「あやつか!あのものが箱を奪ったにちがいない!それで鬼利江さままで手にかけたか!?」
えっ?あれ、ぼく余計なこと言っちゃった?奇多郎さんがそ……
「そんなことありえませんわ!奇多郎さまは高潔な魂をお持ちの方です!ひとを殺めるなどありえませんことよ!」
少年の思いを崩子が先にさけんでくれた。
翔之介もあの職人が殺しなどするはずないと思う。
しかし蠏呪氏は
「あなたはたぶらかされているのです、崩子さん。しょせんあの者はいやしき職人……われわれとは住む世界の生きものです。どんなことで妄念に取り憑かれたか知れやしない……すぐにでもやつの身柄をおさえなければならない」
そう言って、部屋の扉を開けて廊下に出ようとしたら
「……なんだ、これは?」
翔之介がわきからのぞくと、廊下の真ん中にガラス細工というか仮面がたくさんついた装置が浮かんでいた。
それを見た魔美子が
「!蠏呪どの、はやく扉を閉……!」
さけんだが、
遅かった。
「「「「うっ!!!!」」」」
その装置?は扉が開くのを待ち受けていたように起動して、鮮烈な光をはなった。
その場にいるものが、みな一瞬目を閉じずにはいられないほどのまばゆい閃光だった。
「うわっ!?いったいなんだよ、もう……って、あれ?」
翔之介が目をまばたかせながら開けると、そこにはなぜか酒瓶が並んだ棚があった。
「えっ?」
となりには肩に手を置く魔美子がいたが、他のもののすがたは見えない。
鬼利江の居室にいたはずなのに、ここはたしか……
「下の階にあるバーね」
魔美子が言う。
「えっ?なんでこんなところに?……あれ?でも、あれは上階のジムにあるウォーキング・マシン?」
なんだか、いろんな階のいろんな部屋がごちゃごちゃにまじりあっているようだ。
叔母は
「だれか大規模な術式を展開したわね。船内のものを無作為に配置転換したのよ」
どうやらあの装置が光った瞬間に、その転換とやらが実施されたらしい。叔母は甥とはぐれないよう、とっさに肩に手を置いたのだ。
「まったく。これでは船内すべてが迷路じゃない。部屋にもどるのもたいへんよ」
「あ、あれ」
翔之介が指差すのは、向こうから近づいてくる蛸型のヒトガタ……ターコくんだ。
少しでも状況のたすけになるかと少年が
「ああ、ターコくん。どうや……」
たずねようとしたが、
そのくねくねとした肢に握られているのは物騒なアイス・ピックだった。
「ひっ」
そのままこちら目がけて襲ってくる蛸型ヒトガタを
「――あまつかぜ」
魔美子がコトノハで吹き飛ばす。
「ヒトガタたちもすべておかしくなったようね」
ごちゃごちゃになった壁や扉のむこうから、乗客の悲鳴と怒号が聞こえる。
「まったく……大混乱ね」




