巨人号の事件43
かけたのはもちろん叔母……魔美子だ。これも寝巻きに上着を羽織ったすがたで立っている。
翔之介はごまかそうと
「ねぼけて外に出ちゃった……かな?」
頭をかきかき言うと
「うそおっしゃい。忍び足なんか使って」
(やっぱり最初からバレてたか)
素直に頭を下げて
「ごめんなさい。ねえさまを起こしたらいけないかなと思って……なんだか胸さわぎがしたんだ」
正直に言った。
「胸さわぎ?」
魔に生きる者として、叔母は甥の予感を一笑に付したりはしない。
「それはいったいどんな……」
くわしく問質そうとしたとき
わんわんわんわんわん!
耳を聾するさけび声が、階内に鳴り響いた。
あれは、張り子犬の声!
まさか、鬼利江さんの身になにか!?
「あなたは部屋に帰……」
「ぼくをひとりにしておく気?」
「……しかたない。ついておいで」
ふたりして、鬼利江の部屋に駆けつける。
部屋に入ると
「ああ……陽城さま、陽城さま。大変なことが起きてしまいました」
崩子がおろおろ顔で涙ぐんでいる。
そのそばに立っているのは婚約者の十鬼太郎、そして世話役のツァーリだ。
そのかたわらには、鬼利江……斑玉家の当主がうつぶせに倒れていた。背中には瀟洒な黄金飾り柄を持つものが突き立てられている。
(えっ?これって、まさか!?)
自分が知っているらしいものに刺さっていることに困惑する翔之介をよそに、
主人の首筋に手を当てた世話役は首をふって
「……亡くなっておられます」
青ざめて言った。
「そんな……」
鬼利江さんが亡くなるだなんて。親しくなった女性の非業な死に、少年はショックを受ける。
「……まさか、箱の呪いが発動したんですの?」
崩子の問いに、
婚約者は強く首をふって
「そんなことはない!呪いは呪符によって防いである……そもそも、このような刃物を突き刺されて死ぬことを呪いとは言うまい。これは歴然たる殺人だ!」
どう見ても、その殺人に用いられた黄金の短剣は、その被害者本人から翔之介に向けて贈られたものだ。世界に一つしか無いというルビー……『羅刹王の血』が赤く輝いている。
崩子と十鬼太郎は、両家当主のあいだで贈答があったことを知らないらしい。
(いまここでそれを言ったほうが良いのだろうが、そんなことしたら一番にぼくが疑われちゃうよ。なんたって、あの剣はぼくにしか扱うことができないはずなんだから。でも少なくともツァーリは知っている)
従僕は鬼利江への処置に手を取られているので、まだ切り出していないが、あきらかに少年に不審の目を向けている。
(こちらから言い出さずによいのだろうか?)
思わず叔母……魔美子の顔をうかがうと、への字顔で甥を見ている。
(ヘンに口を開くなってことかな?ただ、だまっていても……)
どうすべきか少年が迷っていると
崩子が
「箱は?箱がありませんことよ!」
さけんだ。
あの魔神の小箱が見当たらない?




