巨人号の事件42
男が、倒れた黒服のそばに転がった銃を蹴って
「……よくわからんな。魔道者の集いだろう。なぜ警護に、こんな意味のないおもちゃを持たせる?」
女は
「あら、そうでもないよ。あんたならともかく、あたしだって銃を向けられたら怖いよ。実弾って、おいしくないし」
飴玉を舐めていると
バンッ!
お下げ黒髪の男が吹き飛んだ。
「――そのとおり。弾丸はうまくない」
煙が上がる短銃を持つのは、ストラノビッチだ。
「……きさまら、どこのものだ?」
その問いに、
女は答えずしゃがむと
「……みっともねぇ。なに転がってんの?あんた。今、くだらねぇおもちゃだって言ったばっかじゃん」
「……ちげぇよ。あいつの弾丸は能力者のそれだ」
ふつうに返事する男のすがたに、
拳銃使は少しく驚いて
「おれの弾丸を受けて平気か?」
眉をひそめる。
体を起こしたお下げ髪の指先には、いまだ回転を続ける銃弾があった。
「ふむ。半物質で生成した弾丸か?具現化系の能力だな……しかし、やはりよくわからんな。なぜわざわざ『物質化』という強力な力を持ちながら、こんなくだらんおもちゃを作ろうとする?作成するモノの形状にこだわれば、そこにムダな力を取られるだろう。力の奔流という意味では、シンプルなものが一番だ。自分の感情をそのままエネルギー変換することさ」
指先の弾丸が動きを止めて破壊される。それこそ、氷を砕くように。
寒々とした冷気が廊下じゅうを覆う。
「凍結……?まさか!?おまえたち『リー&ロイド』か!?」
撃鉄を引かんとするストラノビッチは、しかしもう動けなかった。
すでに身体に冷気が到達して影響を与えていたからだ。
(くそっ!エネルギー効率もへったくれもない化け物が!)
「お見知りいただきありがとう。そして、さようなら」
お下げ髪……リーが手をふると、拳銃使の体は砕け散った。
翔之介は夢を見ていた。
またあの振り袖少女だ。
今までと違って、彼女はすっかりあきらめているようだった。
「手遅れだよ、まったく。言うこと聞かないんだから」
目線を下にすると
「……ほら、もう来ちゃうよ」
翔之介が横を見ると、魔美子はまだ眠っている。
下からゾッとする気配が来る気がしたが、あくまで夢の中のことだったらしい。
しかし、どうにも心は落ち着かない。
少年は叔母を起こさないように静かに起き出すと、寝巻きすがたで部屋の外に出た。
忍足は、魔美子自身から教わったワザだ。
「名家の子弟が使うにはいやしいとされるけど、命を守るのに有益な技術だから」
と、それこそ手とり足とり伝授されたものだが、教えてくれた叔母相手に使うとは思っていなかった。
船内廊下には照明がついているが、そこを
(あっ、あれは職人……奇多郎さんだ。案内しているのは、鬼利江さんの使い魔だ。こんな時間に、なにしに行くのかな?)
黒い目玉状の使い魔……ビッグ・アイに先導されて、これも寝巻きすがたの職人が斑玉家の特別エリアに入っていくのが見えた。
(ちょっと、追いかけてみようかな……)
すっかり親しんだ鬼利江の厚意で、翔之介も特別エリアへの自由な出入りが許されている。
それに甘えて、こっそり職人を追いかけようとすると
「……今時分、何をしに行くのです?」
にわかに後ろから、ことばをかけられた。




