巨人号の事件41
(……このオークションも、イイチロウが死んですっかり退屈なものになったな)
魔比亜のボス・ガンクルージョはミネラル・ウォーターで唇をぬらせながら、会場にあつまる魔商たちを見渡した。
(あのじいさんはイヤなやつだったが商売人として抜け目がなく、だましあいが愉快だった。それに比べると、あとつぎたちはまるでだめだな。魔道者としてはどうか知らんが、会場に顔も出さんとは魔商としての感覚を持っていない。おそらく今後は、イイチロウの残した財を食いつぶすだけになるだろう。
この会も次回開催はあるまい……そう思えば、古い敵への弔問として来てよかったか。今回のオークションは『あれ』を買いつけたら、もうそれだけでよい。わしも夜がとんと弱くなった。
わざわざこの国に来たのだから、明日は名高い『あの街』に行ってみたい。たしかに、リスクはある。なにせ先月、あのおそるべき妖女王が昇天させられたという噂まである街だ。訪問するだけでも命がけだが……まあそれに見合ったリターンがあればな。なんとか「アンノウシミツ」をひとふり手に入れたいものだ……今夜はそれに備えて、適当に過ごすか)
あくびが出た。
「うん?」
会場を巡回警護していたストラノビッチは、下方からの振動を感じた。すぐさま下階警護班に確認する。
「――わかりません。なにか漂流物が船体にぶつかったのかも知れませんが」
「ちゃんと確認しろ」
指示を与えると
「……ちょっと下に行ってくる」
部下に言う。
「あなた自身がですか?報告を待てばよろしいのでは?」
「待っておれん。小さな異変にこそ早く対処せねばならん。さもないと……」
そう。いつだって気づいたときには手遅れなのだ。
艦橋では、副船長が
「なんだ!?今の異音は?船底になにか当たったか?」
「レーダーに異常はありません」
「左舷を目視!異常はないか!?」
船員が双眼鏡で確認する。
「……おかしいな」
「どうした?」
「いや……この海域に流氷などありえますか?」
「あるわけないだろう!緯度を考えろ!」
「……ですよね?じゃあ、なぜ船壁に氷が付いているんでしょう?」
「もう船の中に入ったんだから、脱いでいいでしょ?これ」
ウエット・スーツを脱ぎながら
「あたし、これきらいなのよ。船に入ってすぐ脱ぐのなら、初めから着なくていいじゃない。ふつうの水着でいいでしょ?」
なじる女に
「ゴム製の服ってのは、レーダーに映りにくいんだ。だからバレずに船に近づけた。それに、寒いのがイヤってお前が言うからだ。防寒だ」
男が答える。
「ちゃんとふさいだんでしょうね?いやよ、水に飲まれるのは」
女は後ろの船壁をふりかえる。そこには人がらくに通るほどの穴が開いていたが、海水は一滴も侵入していない。なぜならば
「ああ。ちゃんと凍らせた」
巨大な氷の栓がしてあるからだ。
「はやく上の階に行きましょう。あんたのクソ能力のおかげで、ここは寒くてかなわない」
「……おまえは、おれの能力に対する敬意がない」
栗色髪のヨーロッパ系女性と、おさげ黒髪のアジア系男性。シャツすがたになったふたりは、客船下層の廊下を歩く。
「おまえたち、どこへ行く!?」
そうさけんで銃を手に立ちふさがる黒服警護の胸に
ブシュ
穴が空いた。




