巨人号の事件38
「どうぞ、素直に受け取っていただきたいの。あたしはほんとうにあなたに感謝しているのよ、翔之介さま。あなたのおかげで、あたくしは少しばかり目が開いてものが見えるようになった。そのお礼は生きているうちにしておきたいの」
生きているうちにって……。
「奥様、あまり思いつめられてはお体に響きます」
世話役のことばに
「そうね……ありがとう、ツァーリ。あなたは頼りになるわ」
斑玉家の当主は横になって目を閉じた。
(……こまったなぁ、もらってよかったんだろうか?)
けっきょく贈品を受け取ってしまった少年は、なやみなやみ自らの部屋にもどった。包みをおそるおそる胸に抱きながらだ。
「ねえさま?……ああ、いないの」
返事がないので、ひとりでゆっくりソファに腰かけて叔母への言い訳を考えようと奥の間に入ると
「ヒッ!」
ソファのわきで、魔美子がヨガと言うか座禅というか独特なポーズでかたまっていた。
(死んでる!?)
あわてて駆けよると、
叔母の口がゆっくり開いて
「……なにをうろたえているの?これぐらいで声など出さないの」
たしなめる。
「で、でも返事もないし気配も感じなかったから、おどろいて……」
「……ただ体内の魔素の巡りを極限までゆっくりさせていただけよ。体を休めるのと同時に魔能の点検になるの」
急にはもどらないのか、だるげな口調だ。
(念能力者の『絶』みたいだな。というか『隠』してない?)
「……あたしとて、まだまだ修行の身の上だからね。魔能を向上させないと……で、それは何?」
布包みを指摘された。
翔之介はさっそく事情を説明する。
魔美子は宝石がはめられた豪奢な短剣を見ると、さすがにおどろきの表情を浮かべたが
「……そう、よほどあなたは鬼利江さまに良いことをしたのね。いただいておきなさい。あたくしからもお礼を申し上げておきます」
なにも言われなかった。
「いいんですか?」
「ええ。斑玉家から陽城家への正式な贈物と言われたら、それは受け取らないと逆に失礼よ」
鞘に収められた短剣を手に取ると
「――ふむ、あたしでは剣が抜けない。あなたにだけ扱えるよう調整してあるわね」
たしかに、翔之介が持つとすんなり鞘から剣が抜ける。
「個人を識別しているのよ。それに名持ちの紅玉まで……これは、さすがにいただいてばかりでは申し訳ないわね」
叔母は少し考えると
「待っていなさい」
衣服を調えて部屋を出た。
しばらくしてもどってきたその手には、かわいらしい2匹の犬人形があった。
「番の犬張子よ。商会場で見て、良いと思っていたの」
購入してきたということは……
「……もしかして、これを短剣のお返しにする気ですか?」
かわいらしいけど、金づくりの短剣とはちょっと価値の差がありすぎない?そもそも、これって安産のお守りでしょ。
魔美子が、実は小さなおもちゃやぬいぐるみなどを愛好していることを翔之介は知っているが、その趣味で魔道家間の贈答品を選んで良いのだろうか?
甥の疑問に、
叔母は
「いまの我が家に余裕がないことは先さまとてご存知よ。無理して高級な品を返す必要はない。それに、この犬張子とて立派な魔道具。持ち主に危害がおよびそうになったら、察知して吠えるの。あなたぐらいの年齢からの返礼品としてはちょうどよいでしょう」
なにも問題無いらしい。




