巨人号の事件33
斑玉家一同は、鬼利江がその箱を卓に出したことにおどろいたようだった。(箱のことは把握しているらしい)
「叔母さま。そのおそるべきものを部外の方にお見せするなんて……」
崩子のためらいながらのことばに
「あなたはだまってらっしゃい。当主はあたくしです!」
鬼利江はピシャリと返し、座は一瞬、緊張した。
その思いがけぬ強い声音に、姪はショックを受けているようだった。
職人は斑玉家内のやりとりを知らんぷりで、小箱を手に取ると興味ぶかげに目をすがめて
「こりゃ、からくり箱だな」
からくりばこ?
「パズルみたいに箱の表面をずらしたり引っかけたりして開ける細工箱のことだけど、これはそれだけじゃねぇな。とんでもない呪がこもっている……ああ、なんとも凶々(まがまが)しい。もしかして、これは魔神が宿る箱か?」
まじん?それ本気で言ってる?「ブー」とかじゃなくて?
「わかりますか?」
「実際に見るのは初めてだけど、師匠から聞いたことがある。そのからくりを解いて箱を開けることができれば、魔神からとてつもない能力を授かることができる箱があるんだとな。ただし、開けることができなければ、その者の命は奪われちまう。そんな箱、ただのおとぎ話かと思っていたが……そうか、異一郎の力の源はこの箱か?」
鬼利江はうなずいて
「そのとおりです。叔父は開箱に成功して力を得ました。おかげで斑玉家は魔道家として大きくなることができました。ただ、その力は叔父一代のものです。わが家が力を維持するためには、ふたたびこの箱に挑戦しなければなりません」
悲壮なまでの決心を顔に浮かべて
「あたしは斑玉の当主としてこの箱に挑んでいます。十鬼太郎さまのお力もお借りしていますが、いまだ開箱には至っておりません。このままでは、あたくしはただ空しゅうなります」
翔之介は、斑玉鬼利江の蒼白んだ顔を見直した。
(命がけの勝負に挑んでいたのか。そりゃ顔色も悪くなる)
鬼利江が精神的に不安定になるのもわかる。パーティで見せた狂乱も、迫りくる死の恐怖によってのものだったのだ。
蠏呪十鬼太郎は
「……まだ出来ていないだけです。必ず破ってみせます」
言うが、どうも苦しいことばに聞こえる。事態はきびしいのだ。
「鬼利江さま。部外者のあたくしどもにそこまでの重大事をお明かしになられては……」
魔美子の当然の困惑に、
しかし斑玉家の当主は
「いえ。よいのです。すでにこの件については、そちらの若当主さまにご協力いただいております」
(ひょぇええぇっ!ここで、そんなことおねえさまに言わないでよ!あとで自分から言っておくって、今この場で言うのは無しでしょう!?ぼくはなんにもしてないよ!)
叔母のするどい視線がおそろしくて、甥は目を合わせることもできない。
それにしても、なぜ鬼利江は昨晩箱を翔之介に見せたのだろう?
(ぼくになんか見せても、なにもならないのにな)
「異一郎がおらを呼んだのは、この箱に関連して……ってことか?」
「ええ、異一郎はあなたの師匠を通じてその箱を手に入れたとうかがっています。なにかお師匠さまからこの箱を開ける手がかりについてうかがっておられませんか?」
鬼利江の問いに、
奇多郎は箱をこねくり回していたが、しばらくすると
「いや、だめだ……おらは知らねぇ……やっぱり、おら職人としてまだまだひよっこだな。なにも力になんねぇよ」
暗い表情で頭を下げた。




