巨人号の事件29
ふうん。むずかしいものだなぁ。ぼくにはそんなめんどくさい固有能力がなくてよかったよ。
甥のことばに、
しかし叔母はニヤリとして
「あら、あなたにも立派にあるわよ。陽城……鷹太郎おにいさまから受け継いだ力がね」
えっ?そんなの知らないよ。
初耳のことにおどろく翔之介に
「……まだよく知らなくても良い。危険な力だから」
「危険なの?」
いやだなぁ、呪われたりしたら。
「危険な目に遭うのは、あなたでなく使われた相手だけどね。まあ、心配せずともあなたが力を使いあやまることはないと思っているわ。あなたは、お兄さまと同じく優しくて気高い子だもの。与えられた力を悪用したりはしない。ただ、今のあなたでは力を使いこなせずふり回されるおそれがあるから、だまっているの」
そう?じゃあ仕方ないなぁ。危険な力にはあまり関わりたくないよ。怖がりな若当主はそれ以上追求しなかった。話を変えて
「じゃあ、また今晩も展示会に行くんですね?」
「しかたない。あなたをひとりにしておくのは心配なのだけども……あたしがいないからと、かってにうろうろ出てはいけないわよ。招待客エリアだから安心できるなどとは思わないで」
そんな。部屋にこもってばかりじゃ楽しい船旅じゃないよ。
甥は、旅のしおりにある「自由で満足できる優雅な船旅を」を指差し、不満を表明した。
しかし、叔母は冷たく
「……この業界で言われたことば、書かれたことばを額面どおりに受けとるほど愚かなことは無い、と知っておきなさい」
言った。
午後、翔之介は水着に着替えて、オープン・デッキのアクア・アクティヴィティ施設におもむいた。
泳げなくとも、ウォーター・スライダーはたのしい。魔美子は水着にはならず、日焼け対策を十全に重ねた装いで、少年を監視……もとい見守っている。
「……遊んでばかりいないで、はやく息継ぎができるようになりなさい。陽城家の嫡男がクロールのひとつもできないなんて、恥ずかしい」
などと上からのたまうが、実のところ、このなんでもできそうな叔母も水泳は苦手らしく口だけの指導だった。
もちろんそんな指導で上達するはずもなく、ただ水面に顔を付けてバシャバシャしていると
「ハアッハッハッハッ!なんだい?きみは息継ぎが出来ないのか?少年!そんなことじゃ立派な船乗になれないぞ!」
スライダーの上から声がする。
それは、船長帽子に銛と浮き輪を持ったすがたで立つ脅谷船長だった。彼は
「ヒャッホー!!」
(「立つのはおやめください」と、注意書きにあるのだが)立ったままでスライダーを滑り落ちてくると
「そんなことでは、航海中に事故があった場合たすからんぞ!こんなプールじゃ、ほんとうの泳ぎは身につかん!わしが海で生き残るリアルな泳法を教えてやろう!さっそく海に入って実地の訓練だ!」
少年を投げ入れんばかりの勢いだ。
(ひぇぇぇぇぇっ!それはご勘弁。ぼくはもう一生海には入らないからいいですぅ!)




