巨人号の事件27
(あのおねえさん、さっきのパーティではそんな気配、そよとも見せなかったけどな。胸のうちに複雑な思いを隠したまま、ぼくらに応対してたのか。
……それにしても、結婚ってむずかしいものだな。家の都合ばかり重視すると、こういう悲劇が生まれるのだ。魔美子ねえさまは仕方ないみたいに言ってたけど、やっぱり重視すべきは本人の気持ちだ)
おとなの場面をのぞき見て、ひとつ賢くなったと少年は思った。そして
(夜風にもずいぶん当たった。もうそろそろおねえさまも帰ってくるだろうし、部屋にもどろう……)
と、ふりかえった真前に、
見知らぬ少女が立っていて、翔之介は
「ひっ」
声を上げておどろいた。
(ぜんぜん気づかなかった。これでも気配察知の稽古をしてるんだけどなあ)
少女は切髪パッツンに振り袖すがた。まるで七五三だ。自分よりいくぶん幼く見える。
彼女は瞬きもせず、その大きな黒い瞳でじっと翔之介を見ると
「……あなたはいい子。だから教える――はやく、この船から去ったほうがいい。死にたくなければ」
と、海を指差す。
えっ?なにそれ?急に。海に出ろってこと?
「そんなこと言われたって、無理だよ。ぼく、泳げないもの」
そのことばに、少女は海をのぞきこむと小首をかしげて
「――無理?」
「無理だよ」
「……じゃあ、しかたない。がんばれ」
言うと、袖をひらめかせて闇に溶けこむように……消えた。
(錯覚……じゃないよね?)
でもまあ、少女が消えるぐらいで驚いていられない。こっちだって魔道家の当主なのだ。
(ほうっておこう)
そのまま部屋にもどると、ベッドに入る。
(……まったく、今日はヘンなことが盛りだくさんだったな)
叔母がもどるまで待っておくつもりだったが、疲れていた。
幼き当主は、そのまま眠りに落ちた。
次の日の朝、翔之介が目を覚ますとすでに魔美子は起きて身だしなみを整えていた。
「よく寝ていたわね。慣れない船旅に疲れたでしょう」
「……そうですね」
夜のお出かけについては、あえて言わなかった。
朝食は、コンシェルジュが部屋に運んでくれたかんたんなものですました。(……と言っても、朝からクロワッサンや果物つきのヨーグルト、しぼりたてのオレンジ・ジュースをいただくなど、ふだんの陽城家ではありえないが)
そのあとは叔母といっしょに船内の散策に出かけた。見たかった吹抜空間では、ちりばめられたスワロフスキーに目がチカチカする。天井ドームにプラネタリウム映像が映し出されたので、思わず歩みを止めて見とれていたら、首が痛くなった。
(ちゃんと口を閉じて見た)
2026.2.15
都合により、次回投稿は2/17(火)12時になります。おたのしみに。




