巨人号の事件22
そこに描かれているのは、わかく美しい女性の和装すがただ。右下にはtakataroと署名がある。
そう、これは生前の父・鷹太郎がまだわかいときの母・冬子を描いた肖像画なのだ。
この絵を保持していたのは、鷹太郎の友人だった医者だった。
彼は鷹太郎から譲られたこの絵を、一種の魔道具として使用していた。
「おにいさまの描く絵には呪力がこもっていた。特に愛する冬子さまを描いたものは、力が強かったでしょうね」
だが、その使用中に事故があったとかで絵は破損され、魔道具としての力は失われた。それを惜しんだ医者は、わざわざ破損した絵を修復したうえで魔美子のもとに送ってくれたのだ。
「あの医者は良い方ね。修復もたいへんだったでしょうに、なにも言わずただ送ってくださったわ」
この絵は、翔之介にとって数少ない実父とのつながりだった。翔之介も絵を描くのが好きだから、特に親しみを感じて今回の旅にも持ってきていた。呪的な力はいっさい失われているが、持っているだけで心強くなるお守りみたいなものだ。
キャンバスに描かれた筆致を指でなすっていると、会ったことのない父の息吹に触れている気になる。母のことも思い出しながらながめていると、おとないがあった。
「おそれいります。どうしてもお会いしたいということで……」
コンシェルジュの後ろ、車椅子を乗しているのは、斑玉鬼利江だった。
「自分がいないときは、誰が来ても部屋に入れないよう」
叔母に言われていたが、この船旅に招待してくれたがわの訪問を断るなど、こどもとはいえ陽城家の主である翔之介にはできない。少年は魔美子にもらったペンダント(これも魔道具)に絵を収めると、婦人を部屋にむかえいれた。
「――お初にお目にかかります、陽城のご当主。斑玉鬼利江ともうします」
ねんごろに頭を下げる、
自分よりはるか年上の中年女性に恐縮して
「あっ、はい。陽城翔之介です。このたびはご招待にあずかりましてありがとうございます」
しつけられたことばで、頭をぴょこんと下げる。
いったいなぜ斑玉の当主が、こんな時間に従者もつれずに来たのだろう?よりによって叔母がいないときに……
少年のいぶかしみを読み取ったように、婦人は
「あなたがひとりでおられるときを選んで、参りました」
「えっ?」
どういうことだろう?少年は先程のパーティで錯乱の声を上げていた中年女性の顔を見直した。今はもうすっかり落ちついているようだが……
「魔道家の当主同士、折り入って相談させていただきたかったのです」




