巨人号の事件21
混乱に
「――おどきください!わたしは医者です」
あらわれたのは、制服すがたのハンサムな男性だ。肩章に赤い線が入っている。船医らしい。
彼が手持ちのバッグから取り出した注射をオオトラトカゲの額に当てると、爬虫類(?)は、すうっと目を閉じてグッタリとなった。飼い主をくわえた顎も外れる。
「……お客さま、だいじょうぶですか?」
「へえっ!?……ええ、まあ痛いけどだいじょうぶ。それより宅のトッタリーナちゃんがこんなこと、初めて!ふだんはとてもおとなしいのよ!」
興奮する婦人に、
船医は
「多くの人間がいる場に連れてこられて、アチラモノも混乱したのでしょう」
にっこりとした笑顔を向けて落ち着かせる。
「……見事な手際ね。かなりすぐれた魔道者よ、あのドクター」
魔美子のことばに翔之介もうなずく。船員にも魔道者がいるのだ。
いっぽう鬼利江に目をやると、世話役……ツァーリが彼女の手を握っている。
「ご心配なく奥さま!ごらんのとおり事態は収まりました。あなたさまに害を与えるものではございません!」
「そうよ、叔母さま。心配なさらないで」
崩子が気付け薬がわりに差し出したブランデーを
「あ、ありがとう、崩子……」
当主はなめていた。
ほんとうに映画のように強いお酒を飲んだりするんだ、と少年には興味ぶかかった。
場の混乱に、壇上の女性歌手は歌うのをやめてしまった。
バンド・リーダーが
「縊々子、どうした?続けるんだ」
と、うながすが
「もうだめ……こんなになったら、もう歌えない……」
真っ青な顔で壇を下りる。
プロとしてはどうかと思うが、精細なアーティスト気質であるならしかたないのだろう。
すっかり場はしらけてしまい、予定より早くパーティは散会となった。
「――失礼しました。叔母には少々刺激が強くて……」
崩子が客に頭を下げる。
「あれが当主じゃ、斑玉家も先が思いやられるな」
客の陰口も耳に入る。
おなじ魔道家当主として、少年は身につまされた。
その夜、翔之介はひとりスイート・ルームで魔美子がもどってくるのを待っていた。
いま叔母は、低層階で開かれている魔道具の展示会に出かけている。
崩子にははぐらかしたが、実際は陽城家からの流失品を探しに出ているのだ。商会場にこどもは入場できない。
手持ちぶさたな少年は、装着したコンタクト・レンズをはずして気をゆるめると、家から持参した一枚の水彩画をながめていた。




