巨人号の事件20
会場にペットを同伴している客も多い。
通常の犬・猫をともなっている者がほとんどだが、なかにはかわった生きものをつれている客もいる。
「あれもめずらしい。オオトラトカゲね」
いかにも富裕な中年女性が引き連れているのは、その名のとおり、模様といい大きさといい虎にしか見えない巨大なトカゲだった。
「グリフィン型の生きものよ。あれで空を飛ぶっていうのだから、驚きね」
翔之介も魔道界に入って知ったことだが、実はこの世界には、通常の人間が認識できない生きものがたくさん生息している。そんな異界の生きもの……アチラモノを入手して飼うことは、当然ながらとてもむずかしい。アチラモノと交流できる特殊な人間……サカイモノの狩人に依頼しないといけないが、それは当然高額になる。
アチラモノを飼うことは、富裕な魔道者にとってステイタス誇示になるのだ。
婦人が鼻高く引きつれているのも無理はない。
(でもあんな大きいの、食費もすごくかかるんじゃない?散歩とかもさせなきゃいけないだろうし……いや、飛ぶってことは散飛?リードを放して飛ばしても、ちゃんと家に帰ってくるのかな?迷子になりそうだし……心配が多いな)
翔之介も生きものはきらいではないが、今の陽城家に余計なものを飼う余裕は無い。
(その点、ヒトガタはいいな。家の用事を手伝ってくれるなら、魔美子ねえさまの負担も減りそうだ。どうせ高いお金を払うんなら、こっちのほうがよい)
こども心に、当主として家に有益となるものを考えてしまう。
壇上の楽団演奏に、若い女性歌手が参加してきた。
1960年代ふうの装いに身を包んだ彼女が、マイク前に立って歌い出したのは
“All…”
「あら?これは『オール・オブ・ミー』ね。好きな歌よ」
叔母がつぶやいた。
英語だから翔之介には詞の内容はわからないが、曲調は切ない。
(きれいな声だなぁ)
いっしょにしばらく聞きいっていると
「きゃあっ!?」
ご婦人の叫び声がした。
見ると先程のオオトラトカゲが、あろうことか飼い主に噛みついている。
「トッタリーナ!やめなさい!放しなさい!」
あわててお付きの者がはがそうとするが、トカゲの顎は強力なのか外れない。
すると、その混乱に当てられたのか他所でも声を上げるものがいた。
「――ああっ!ああっ!ツァーリ!あたしを守って!」
ヒステリーを起こしたかのような金切り声を上げたのは、あらたな斑玉家当主である鬼利江だ。
「叔母さま!……失礼」
あわてて崩子が場を外す。




